わけあり乙女と純情山賊

猫又

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大事なお宝

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 朝、ガイツが目覚めた時にはリリカの姿はどこにもなかった。
「行っちまったか……」
 ガイツは寝所からもそもそと起き上がり、大きくのびをした。
 ため息をつきながら衣服を着る
 そこへ、ウルミラが朝食を持ってやってきた。
「お頭、リリカちゃんは?」
「行っちまったさ……全く薄情な女だよ」
 ガイツが苦笑しながら、焼きたてのパンを手にした。
 ウルミラはガイツに飲み物を注いでやりながら、
「リリカちゃん、何かあったんじゃないですかねえ。元気がないっていうか、何か悩みでもあったんじゃないですかねえ」
 と言った。
「確かにな」
「助けてあげるんでしょう?」
「あ?」
 ガイツは苦笑した。
「手助けはいらん、とさ。きっぱり断られた。全く強い女だよ」
「お頭……強い女なんていませんよ。強がって、片意地はって生きてる女はたくさんいますけどね。それは強いんじゃなくて、強くならざるを得ないんですよ。弱くって、強くって、賢くて、美しいのが女ってもんですよ」
「そうなりゃ、この世はいい女ばっかだな」
「そうですね。でもどれかが欠けても駄目。欠けた場所にずるさが入り込んでくるんですよ。そうなったら、女は駄目ですけどね。リリカちゃんは違うと思いますよ。あの娘はまだ奇麗で純情でしょうよ。お頭、リリカちゃんの今の事情は知りませんけど……このまま行かせていいんですか? またどっかに行っちまいますよ?」
 ウルミラの優しい笑顔にガイツは肩をすくめた。
「差し出した手をいらんと言われたんだぞ?」
「あらあら」
 ウルミラはくすくすと笑いながら、子供に優しく言い聞かせるように言った。
「お頭ったら、ご自分が何か忘れてしまったんですねえ」
「え?」
「山賊のくせに……お頭、山賊だったら、欲しい物はどんな手を使っても手に入れるんじゃなかったんですか? 指をくわえて見てるだけなら、山賊は廃業ですよ」
 ウルミラは言いたい事を言ってから、さっさとガイツの岩屋を出て行った。
「お頭! ブルが帰ってきましたぜ!」
 シンが岩屋の外から叫んだ。
「おお、今行く」
 ガイツは立ち上がると大刀を背中にしょい、岩屋から出て行った。
 広場ではブルとシンを中心に仲間達が騒いでいた。
「お頭、準備はできてますぜ。都からの大馬車がやってくる。皇太子の結婚だとかで、すっげえ荷物だ。かなりの稼ぎになりますぜ」
 ブルが嬉しそうに言った。
 そうだったな、とガイツは思った。
 今回の仕事はこれまでになく大仕事だった。分隊も全て集結させての一大イベントのはずだった。
 だが、ガイツは、
「悪い。ブル、シン、この仕事はお前らで仕切れ。俺は外れる」
 と言った。
「なん、何だって? お頭! 一体どうしちまったんだい? お頭がいなけりゃ、話にならないですぜえ」
 シンがびっくり仰天して叫んだ。
 仲間達はあっけに取られてガイツを見上げているし、ブルは顔をしかめながら、
「お頭……あんたが指揮を取らないでどうする? 大馬車の警備も半端じゃないんですぜ。大きな戦争だってえのに……どういうおつもりなんだ?」
 と言った。
「悪い! のっぴきならない事情があってよ。行かなきゃならない所が出来ちまったのさ。間に合えば参加するが、ま、何とかがんばってくれ」
「お頭が……またおかしくなっちまった……お頭、のっぴきならない事情ってのは一体何です?」
 ブルがつぶやいた。
「すまん、すまん。俺もちょっくら大事な宝を奪いに行ってくるのさ」
「宝? 皇太子の貢物よりも高価な宝ですかい?」
 ブルがちょっぴりと嫌みを言う。
 ガイツは腕組みをして考えた。そして、
「そうだなあ……皇太子が百回結婚したくらいの価値はあるな。いや、金になんぞ換算できねえな。俺にとっちゃ命と同じくらい大事な宝さ。ま、そういう事ですまんな」
 スタスタと歩きだすガイツを仲間達はポカンとして見送った。
 やり取りを聞いていたウルミラだけがくすくすと笑っていた。
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