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不安な気持ち
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「話って何?」
奥でシンが子供をあやす声が聞こえてくる。
ライカはリリカを座らせ、酒を出してやると、
「あんた……どういうつもりでここに戻って来たのよ」
と言った。
「どういうって?」
「お頭はあんたにまだ惚れてるわよ。もしまたここから出て行くつもりなら、お頭に妙な期待を持たせるのはやめてよね」
リリカは肩をすくめて、出された酒をぐいっと飲んだ。
「そんなつもりはないわ……」
「じゃあ、ここに止まる気があるのね?」
「それは……困ったな。ガイツに会いたかったのは事実だけど……本当に馬と剣を返すつもりで来ただけだから」
「じゃあ、また出て行くのね?」
リリカは苦笑した。
「うーん。どうにもやり方がしょぼくて、まだ目的を達成できてないからね」
「ふん、いい気なもんね。あんた、親の敵討ちをする為になら、誰を傷つけてもいいと思ってるの?」
「傷つけるって……」
「そうじゃないの。お頭を傷つけてさ! あたし達だって、あんたが仲間になった時は嬉しかったってのに! あんたは自分の事で精一杯で、あたし達の事なんかおかまいなしよ。それで、またふらっとやって来てはかき回してさ!」
「……ごめんなさい」
「あたしは、誰かが死ぬのはもちろんつらいけど、誰かがあたしを捨てて行くのを見るのも嫌なの!」
「捨てるって……」
「嫌なの! ここで皆で楽しく暮らしたいの!」
「困ったな」
その時、シンが顔を出した。酔いが冷めてきたのか、普通に戻っている。
「ライカ……よせよ。リリカにはリリカの事情があるんだからよ」
「だって!」
「リリカ、すまねえな。こいつ子供ができてから不安定なんだ。いつも寂しがってさ。俺が仕事に出て行く時も泣きやがるんだ」
「まあ」
無理もない。いつ命を落とすやも知れない仕事なのだ。シンの身を案じて、ライカが不安に思うのは当然だろう。
「だから、悪く思わねえでくれよ、ライカはリリカを気に入ってたんだよ」
「そう……ありがとう」
ライカが泣きだしたので、リリカはそっとライカの部屋を出た。
シンがライカに優しい言葉をかけるのをうらやましくも思った。
「あーあ。ここに居着こうかな! 何だか疲れちゃった!」
リリカはうーんと伸びをしてつぶやいた。
「リリカちゃん、お頭が話の続きがあるって部屋で待ってるよ」
宴会の片付けをしながら、ウルミラがリリカに声をかけた。
「あっそ。あ、ウルミラさん。ブルさんは? 姿を見ないけど……元気?」
「ああ、今は分隊の方に行ってるんだよ」
「へえ、後……エリエさんだっけ。元気?」
「エリエは去年死んだよ」
「え! 嘘!」
「……流れ矢が胸に突き刺さってね……」
ウルミラがしょんぼりと言った。
「本当に人の命なんてあっけないもんだよ」
「そう……そうね」
ウルミラはそれ以上何も言わず、またもくもくと片付けを始めた。
リリカは言葉を失って、とぼとぼとガイツの部屋を訪れた。
「リリカ。どうした?」
ガイツはリリカの顔を見て、寝床から飛び起きた。
「エリエさん、亡くなったんですって?」
リリカは柔らかな敷物に座り込んだ。
「ああ」
「そう、いい人だったのにね」
「そうだな……ところで、ライカに何を言われたんだ?」
ガイツはライカがあの剣幕でリリカに余計な事を言ってないかと不安そうな顔をしていた。
「別に、何でもないわ」
「そうか」
「ただ、ガイツをもて遊ぶなって怒られちゃった」
「ぶっ」
グラスを口にしたガイツがぶはっと酒を吹き出した。
「な、何をおかしな事を言ってやがるんだ、ライカは」
真っ赤になったガイツを見て、リリカは楽しそうに笑った。
「そんなつもりはないんだけどな」
「そう……だろうよ」
「ここはいいわね。皆、いい人達ばかりで。ガイツの人徳なのかしら」
にこにこと笑うリリカを見てガイツが問う。
「お前、何か話があってここに来たんじゃないのか?」
リリカはにっこりと笑った。
「ガイツってばいい感してる。そう、実は相談があってきたんだけどね。でも、もういいの。たいした事じゃないから。でも、実際に誰かに相談したい事があってもあたしの友達といえばここの人しかいない事に気がついてさ。飛び出したくせに、今更ずうずうしいよね」
「何だよ。何でも言ってみろ」
リリカはぶんぶんと首を振った。
「いいの。やっぱり、自分で何とか考えるから」
奥でシンが子供をあやす声が聞こえてくる。
ライカはリリカを座らせ、酒を出してやると、
「あんた……どういうつもりでここに戻って来たのよ」
と言った。
「どういうって?」
「お頭はあんたにまだ惚れてるわよ。もしまたここから出て行くつもりなら、お頭に妙な期待を持たせるのはやめてよね」
リリカは肩をすくめて、出された酒をぐいっと飲んだ。
「そんなつもりはないわ……」
「じゃあ、ここに止まる気があるのね?」
「それは……困ったな。ガイツに会いたかったのは事実だけど……本当に馬と剣を返すつもりで来ただけだから」
「じゃあ、また出て行くのね?」
リリカは苦笑した。
「うーん。どうにもやり方がしょぼくて、まだ目的を達成できてないからね」
「ふん、いい気なもんね。あんた、親の敵討ちをする為になら、誰を傷つけてもいいと思ってるの?」
「傷つけるって……」
「そうじゃないの。お頭を傷つけてさ! あたし達だって、あんたが仲間になった時は嬉しかったってのに! あんたは自分の事で精一杯で、あたし達の事なんかおかまいなしよ。それで、またふらっとやって来てはかき回してさ!」
「……ごめんなさい」
「あたしは、誰かが死ぬのはもちろんつらいけど、誰かがあたしを捨てて行くのを見るのも嫌なの!」
「捨てるって……」
「嫌なの! ここで皆で楽しく暮らしたいの!」
「困ったな」
その時、シンが顔を出した。酔いが冷めてきたのか、普通に戻っている。
「ライカ……よせよ。リリカにはリリカの事情があるんだからよ」
「だって!」
「リリカ、すまねえな。こいつ子供ができてから不安定なんだ。いつも寂しがってさ。俺が仕事に出て行く時も泣きやがるんだ」
「まあ」
無理もない。いつ命を落とすやも知れない仕事なのだ。シンの身を案じて、ライカが不安に思うのは当然だろう。
「だから、悪く思わねえでくれよ、ライカはリリカを気に入ってたんだよ」
「そう……ありがとう」
ライカが泣きだしたので、リリカはそっとライカの部屋を出た。
シンがライカに優しい言葉をかけるのをうらやましくも思った。
「あーあ。ここに居着こうかな! 何だか疲れちゃった!」
リリカはうーんと伸びをしてつぶやいた。
「リリカちゃん、お頭が話の続きがあるって部屋で待ってるよ」
宴会の片付けをしながら、ウルミラがリリカに声をかけた。
「あっそ。あ、ウルミラさん。ブルさんは? 姿を見ないけど……元気?」
「ああ、今は分隊の方に行ってるんだよ」
「へえ、後……エリエさんだっけ。元気?」
「エリエは去年死んだよ」
「え! 嘘!」
「……流れ矢が胸に突き刺さってね……」
ウルミラがしょんぼりと言った。
「本当に人の命なんてあっけないもんだよ」
「そう……そうね」
ウルミラはそれ以上何も言わず、またもくもくと片付けを始めた。
リリカは言葉を失って、とぼとぼとガイツの部屋を訪れた。
「リリカ。どうした?」
ガイツはリリカの顔を見て、寝床から飛び起きた。
「エリエさん、亡くなったんですって?」
リリカは柔らかな敷物に座り込んだ。
「ああ」
「そう、いい人だったのにね」
「そうだな……ところで、ライカに何を言われたんだ?」
ガイツはライカがあの剣幕でリリカに余計な事を言ってないかと不安そうな顔をしていた。
「別に、何でもないわ」
「そうか」
「ただ、ガイツをもて遊ぶなって怒られちゃった」
「ぶっ」
グラスを口にしたガイツがぶはっと酒を吹き出した。
「な、何をおかしな事を言ってやがるんだ、ライカは」
真っ赤になったガイツを見て、リリカは楽しそうに笑った。
「そんなつもりはないんだけどな」
「そう……だろうよ」
「ここはいいわね。皆、いい人達ばかりで。ガイツの人徳なのかしら」
にこにこと笑うリリカを見てガイツが問う。
「お前、何か話があってここに来たんじゃないのか?」
リリカはにっこりと笑った。
「ガイツってばいい感してる。そう、実は相談があってきたんだけどね。でも、もういいの。たいした事じゃないから。でも、実際に誰かに相談したい事があってもあたしの友達といえばここの人しかいない事に気がついてさ。飛び出したくせに、今更ずうずうしいよね」
「何だよ。何でも言ってみろ」
リリカはぶんぶんと首を振った。
「いいの。やっぱり、自分で何とか考えるから」
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