15 / 30
狂犬ドレイユ
しおりを挟む
ガイツは三十人ほどの仲間を従え、スリーキングの二番目、狂犬ドレイユと睨みあっていた。
三兄弟というだけあって、氷のヤルーとよく似た風貌だがドレイユの方が下卑た顔をしていた。
ずる賢そうな瞳に薄ら笑いを浮かべて、ガイツを睨む。
「ガイツよ、よくも弟をやってくれたなあ。ヤルーが毎晩さまよい出てきては泣くんだ。熱い、熱いってな。おかげでゆっくりと寝むれやしねえ」
「そうか、そりゃ悪かったな。一人で寂しいだろうから、てめえも地獄で一緒に泣いてやんな!」
ガイツの言葉に仲間達がいっせいに襲いかかった。
もちろん、リリカもである。ガイツにもらった、新しい弓に矢えつがえ、勇ましく参戦する。だが……リリカは団体戦は苦手である事が自分で分かった。何せ、仲間と敵が入り乱れての大混戦である。矢をいろうにも、誰に狙いをつけても仲間に飛んでいきそうなのだ。仕方なく、これまたガイツにもらった、新しい剣を手にした。
「へえ、ガイツのとこは女でも仲間にしないと人手が足りないくらい人材に困ってるのか。お嬢ちゃんよ、くそガイツなんざやめて、こっちに来いよ。可愛がってやるぜえ」
ひっひひと嫌な笑みを浮かべたくたびれた男がリリカに切りかかってきた。
「ばーか!」
リリカは剣でその一打を受け止めると、せせら笑った。
続いてこっちから切り返す。
カンカンと剣が打ち合う音がする。リリカの非力ではそう簡単に男を打ち崩す事が難しかった。
男はにやにやと笑いながら、リリカの相手をしていたが、
「そう遊んでられないんでな。死にな!」
カーンとリリカは剣を跳ね飛ばされてしまった。
男の剣がリリカの心臓を目がけて繰り出される。
「しまった!」
リリカは目をつぶった。
だが、絶叫とともに果てたのは男の方だった。
「大丈夫か?」
もちろん、ガイツがリリカの危機にかけつけたのであるが、
「だ、大丈夫よ!」
リリカは面白くない顔だ。確実に死ぬところを助けてもらったのは確かだが、何だか足手まといのように思われるのがしゃくで、つんっと横を向いた。
そして、自分がとんでもなく守られている事に気がついた。
リリカの四方をガイツとその右腕のブルが固めているのだ。
「うー」
リリカと打ち合った男は少しはリリカにも回してやろうという、ガイツの心遣いだったのだ。
リリカはしょぼくれた。自分の非力さと、ガイツの甘さに無性に腹がたった。
そして、
「しまった!」
というガイツの言葉に顔を上げた。
何だ! ガイツの危機か? それならあたしが相手だ! とばかりに剣を持つ手に力が入った。
だが……
「すまん、リリカ、最後はお前に止めをささせてやろうと思ったのに、やっちまった」
ガイツの大刀がドレイユの右腕を切り離した瞬間だった。
ドレイユが絶叫とともにのたうち回り、絶命はしていないようだがぐったりとなった。
「うー」
リリカはますますふくれる。
「頭、こいつ、どうしますかね」
ブルが馬から飛び下り、ドレイユをけり飛ばした。
「そうだな、スリーキングの最後の一人の居場所を吐かせてから殺せ」
ガイツが冷たい声でそう言うと、その時に気がついたドレイユが慌てて命ごいをした。
「ま、待ってくれ! 俺達はもう山賊は廃業するから! あ、兄貴は西の都でいい顔なんだ! 商人や貴族に顔を売って、軍隊に入るんだ! その金が必要だってんで、あんたのお宝に手を出したのが間違いだった。ヤルーを殺されて、頭に血がのぼっちまったが、本当にもう山賊は廃業なんだ! だ、だから……助けてくれ!」
「西の都だと?」
「そうだ……もうあんたの縄張りには手を出さないし、なんなら……あんた達に軍隊の手が届かないようにもできる!」
ガイツは思い切り軽蔑した瞳でドレイユを見た。
「貴族の犬に成り下がるとは見下げたもんだな」
「そ、そう言うなよ」
リリカは黙って会話を聞いていた。
山賊を軍隊に? 罪のない村人を殺した山賊どもを都で取り立てるとは、呆れて物も言えないではないか!
リリカは許せなかった。いくら哀れげに泣いても、この男のした事は許せないのだ。
リリカは黙ったまま弓を手に取った。
何やらべらべらとしゃべっているドレイユに弓を向けると、一息ついて矢を放った。
「う!」
ドレイユはリリカの矢を額の真ん中に受けて、動かなくなった。
「リリカ、少しは気がすんだか?」
ガイツの言葉にリリカは不愉快そうに答えた。
「そうね」
「ブル。こいつの話の裏を取れ」
「分かりやした」
ブルは自分の手持ちの部下を連れてすぐにその場から姿を消した。
「後の者はシンを追うぞ!」
ガイツの号令に一行は再び動き出した。
三兄弟というだけあって、氷のヤルーとよく似た風貌だがドレイユの方が下卑た顔をしていた。
ずる賢そうな瞳に薄ら笑いを浮かべて、ガイツを睨む。
「ガイツよ、よくも弟をやってくれたなあ。ヤルーが毎晩さまよい出てきては泣くんだ。熱い、熱いってな。おかげでゆっくりと寝むれやしねえ」
「そうか、そりゃ悪かったな。一人で寂しいだろうから、てめえも地獄で一緒に泣いてやんな!」
ガイツの言葉に仲間達がいっせいに襲いかかった。
もちろん、リリカもである。ガイツにもらった、新しい弓に矢えつがえ、勇ましく参戦する。だが……リリカは団体戦は苦手である事が自分で分かった。何せ、仲間と敵が入り乱れての大混戦である。矢をいろうにも、誰に狙いをつけても仲間に飛んでいきそうなのだ。仕方なく、これまたガイツにもらった、新しい剣を手にした。
「へえ、ガイツのとこは女でも仲間にしないと人手が足りないくらい人材に困ってるのか。お嬢ちゃんよ、くそガイツなんざやめて、こっちに来いよ。可愛がってやるぜえ」
ひっひひと嫌な笑みを浮かべたくたびれた男がリリカに切りかかってきた。
「ばーか!」
リリカは剣でその一打を受け止めると、せせら笑った。
続いてこっちから切り返す。
カンカンと剣が打ち合う音がする。リリカの非力ではそう簡単に男を打ち崩す事が難しかった。
男はにやにやと笑いながら、リリカの相手をしていたが、
「そう遊んでられないんでな。死にな!」
カーンとリリカは剣を跳ね飛ばされてしまった。
男の剣がリリカの心臓を目がけて繰り出される。
「しまった!」
リリカは目をつぶった。
だが、絶叫とともに果てたのは男の方だった。
「大丈夫か?」
もちろん、ガイツがリリカの危機にかけつけたのであるが、
「だ、大丈夫よ!」
リリカは面白くない顔だ。確実に死ぬところを助けてもらったのは確かだが、何だか足手まといのように思われるのがしゃくで、つんっと横を向いた。
そして、自分がとんでもなく守られている事に気がついた。
リリカの四方をガイツとその右腕のブルが固めているのだ。
「うー」
リリカと打ち合った男は少しはリリカにも回してやろうという、ガイツの心遣いだったのだ。
リリカはしょぼくれた。自分の非力さと、ガイツの甘さに無性に腹がたった。
そして、
「しまった!」
というガイツの言葉に顔を上げた。
何だ! ガイツの危機か? それならあたしが相手だ! とばかりに剣を持つ手に力が入った。
だが……
「すまん、リリカ、最後はお前に止めをささせてやろうと思ったのに、やっちまった」
ガイツの大刀がドレイユの右腕を切り離した瞬間だった。
ドレイユが絶叫とともにのたうち回り、絶命はしていないようだがぐったりとなった。
「うー」
リリカはますますふくれる。
「頭、こいつ、どうしますかね」
ブルが馬から飛び下り、ドレイユをけり飛ばした。
「そうだな、スリーキングの最後の一人の居場所を吐かせてから殺せ」
ガイツが冷たい声でそう言うと、その時に気がついたドレイユが慌てて命ごいをした。
「ま、待ってくれ! 俺達はもう山賊は廃業するから! あ、兄貴は西の都でいい顔なんだ! 商人や貴族に顔を売って、軍隊に入るんだ! その金が必要だってんで、あんたのお宝に手を出したのが間違いだった。ヤルーを殺されて、頭に血がのぼっちまったが、本当にもう山賊は廃業なんだ! だ、だから……助けてくれ!」
「西の都だと?」
「そうだ……もうあんたの縄張りには手を出さないし、なんなら……あんた達に軍隊の手が届かないようにもできる!」
ガイツは思い切り軽蔑した瞳でドレイユを見た。
「貴族の犬に成り下がるとは見下げたもんだな」
「そ、そう言うなよ」
リリカは黙って会話を聞いていた。
山賊を軍隊に? 罪のない村人を殺した山賊どもを都で取り立てるとは、呆れて物も言えないではないか!
リリカは許せなかった。いくら哀れげに泣いても、この男のした事は許せないのだ。
リリカは黙ったまま弓を手に取った。
何やらべらべらとしゃべっているドレイユに弓を向けると、一息ついて矢を放った。
「う!」
ドレイユはリリカの矢を額の真ん中に受けて、動かなくなった。
「リリカ、少しは気がすんだか?」
ガイツの言葉にリリカは不愉快そうに答えた。
「そうね」
「ブル。こいつの話の裏を取れ」
「分かりやした」
ブルは自分の手持ちの部下を連れてすぐにその場から姿を消した。
「後の者はシンを追うぞ!」
ガイツの号令に一行は再び動き出した。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。


あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる