わけあり乙女と純情山賊

猫又

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あたふた

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 翌日、リリカが重い頭を抱えて起き上がった時にガイツの姿はすでになく、外ではガイツ一家の引っ越しが盛大に行われようとしていた。
「おや、リリカちゃん、随分遅いお目覚めだねえ!」
 ウルミラが笑いながら言うのをリリカは渋い顔で見返した。
「大きな声を出さないでよお」
「あらまあ、二日酔いかい?」
「うん……ねえウルミラさん。あたしの馬、どうなったか知らない?」
 たしか、ヤルーをやっつけた時に馬から投げ出された。馬はどこかへ走り去ってしまったのだった。
「それがねえ」
 気の毒そうにウルミラが言った。
「あれから、若い者に探しにいかせたんだけど、どうにも見つからないんだよ」
「うそお! だって、荷物もくくりつけてあるんだよお」
 リリカが泣き声で叫んだ。たいした荷物ではないが、リリカにとっては全財産なのだ。
「すまないねえ。でも、いいじゃないか。お頭にまた新しい馬をもらえばさ」
「そういうわけにはいかないでしょお。困ったな……今日こそは出発しようと思ったのに……馬がないと・・」
「出発といえば、こっちももう出発なんだよ。リリカちゃん、うちの小屋に朝食の準備が出来てるから、食べておいで」
 ウルミラはそう言って、また荷物をかついで去って行った。
 リリカは仕方なくウルミラに言われた通りに小屋まで歩いて行く。谷中は荷物を運んだり、小屋を解体したりで大騒ぎである。
 リリカがウルミラの小屋の前に行くと、ライカがせっせと朝食を配っていた。
「ライカさん、おはよ」
 ライカはリリカを見て、
「今ごろ起き出してきて、のんきねえ、あんた」
 と言った。
「へへへ、昨夜、飲み過ぎちゃった。ここの人は皆、早起きだねえ」
「早起きっていうか、あんたが眠りすぎなの! 皆、夜通しで荷造りしてるんだから。ほら、あんたの朝ごはんよ」
 ライカは口で言うほども悪気はなさそうで、リリカにほかほかのパンと果実のジュースをくれた。
「ありがとう……でも、何だか楽しそうだね、皆」
 リリカは地面に座り込んで、パンを食べながら忙しげに働く人達を眺めた。
「そうね。一所に長くいるのは結構退屈だからね。男達は出かけて行くからいいけど、女達はずっとここを守ってなきゃならないから。女達の方が張り切ってるのよ」
「ふうん。じゃあ、村に落ち着くなんて事はできないね」
「まあね」
 ライカがじっとリリカを見たので、リリカは首をかしげた。
「何?」
「あんた、結構やるじゃん。昨日の腕前には驚いたわ」
「ああ、あれ。馬と弓には結構自信があるんだ。でも、もっと強くなりたいな。大きな剣は持て余すから、もっと力自慢になりたいんだけどさあ、なにせ、チビだから」
 けっけっけと笑うリリカを見て、ライカが苦笑した。
「あ、そうだ。ライカさん、ここから一番近い都って言ったら、西の都かな」
「そうね。でも結構距離はあるわよ」
「そうか……でも仕方ないな。歩いて何日くらいかかる?」
「歩いてって」
「だって、馬をなくしちゃったもん。荷物も全部……どこかで稼いで、馬を手に入れなきゃならないんだ。旅はしばらく中止だなあ」
 ため息とともに言ったリリカに今度はライカが首をかしげた。
「あんた……だって……仲間になったんじゃないの?」
「へ? 仲間?」
「そうよ、あんたも一緒に行くって、お頭が皆にそう言ったわよ。あんた、お頭の恋人になったんでしょ?」
「お、女ぁ?」 
 リリカがびっくり顔でライカを見た。
 ライカはため息をついて、
「あんたみたいな新参者にお頭をとられるのは嫌なんだけどさ、他の娘達もお頭を狙ってたのはいるしね、でも仕方ないわ。昨日みたいな活躍をされちゃあね。あんたのおかげで皆無事だったし、お宝も守られたんだもの。完敗だわ」
 と言った。
「恋人って……そんなんじゃないってば! ここの人は皆いい人だけど、あたしにはやる事があるから仲間になるわけにはいかないよ」
「やる事って、スリーキングを倒す事でしょ? それも聞いたわ。それなら、仲間になるべきよ。あいつらを倒せるのは黒い疾風しかないわよ? それに……」
 ライカがリリカの後方を見てほほ笑んだ。
「ん?」
 リリカが振り返るとガイツが笑顔で立っていた。
「ガイツ、おはよ-」
「二日酔いは大丈夫か?」
「へ、ああ、そうね。平気よ」
 ライカは気をきかせたのか、黙って立ち去って行った。
 ガイツは心の中で、昨夜寝ずに考えた言葉を繰り返した。
(俺達と一緒にスリーキングを倒そう……いや、仲間になって一緒にと言ったほうがいいかな。一緒に仲間に……? 俺達の仲間になれば奴らを倒す方法がある、の方がいいかな。それとも……俺達はスリーキングを倒す。だから仲間になってくれ!)
「何? 何をぶつぶつ言ってるの?」
 リリカが笑った。
「あのな! リリカ……お、俺と一緒になってくれ!」
 省略しすぎた。
 妙な言葉を口にしたガイツはあたふたと動揺した。
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