12 / 30
あたふた
しおりを挟む
翌日、リリカが重い頭を抱えて起き上がった時にガイツの姿はすでになく、外ではガイツ一家の引っ越しが盛大に行われようとしていた。
「おや、リリカちゃん、随分遅いお目覚めだねえ!」
ウルミラが笑いながら言うのをリリカは渋い顔で見返した。
「大きな声を出さないでよお」
「あらまあ、二日酔いかい?」
「うん……ねえウルミラさん。あたしの馬、どうなったか知らない?」
たしか、ヤルーをやっつけた時に馬から投げ出された。馬はどこかへ走り去ってしまったのだった。
「それがねえ」
気の毒そうにウルミラが言った。
「あれから、若い者に探しにいかせたんだけど、どうにも見つからないんだよ」
「うそお! だって、荷物もくくりつけてあるんだよお」
リリカが泣き声で叫んだ。たいした荷物ではないが、リリカにとっては全財産なのだ。
「すまないねえ。でも、いいじゃないか。お頭にまた新しい馬をもらえばさ」
「そういうわけにはいかないでしょお。困ったな……今日こそは出発しようと思ったのに……馬がないと・・」
「出発といえば、こっちももう出発なんだよ。リリカちゃん、うちの小屋に朝食の準備が出来てるから、食べておいで」
ウルミラはそう言って、また荷物をかついで去って行った。
リリカは仕方なくウルミラに言われた通りに小屋まで歩いて行く。谷中は荷物を運んだり、小屋を解体したりで大騒ぎである。
リリカがウルミラの小屋の前に行くと、ライカがせっせと朝食を配っていた。
「ライカさん、おはよ」
ライカはリリカを見て、
「今ごろ起き出してきて、のんきねえ、あんた」
と言った。
「へへへ、昨夜、飲み過ぎちゃった。ここの人は皆、早起きだねえ」
「早起きっていうか、あんたが眠りすぎなの! 皆、夜通しで荷造りしてるんだから。ほら、あんたの朝ごはんよ」
ライカは口で言うほども悪気はなさそうで、リリカにほかほかのパンと果実のジュースをくれた。
「ありがとう……でも、何だか楽しそうだね、皆」
リリカは地面に座り込んで、パンを食べながら忙しげに働く人達を眺めた。
「そうね。一所に長くいるのは結構退屈だからね。男達は出かけて行くからいいけど、女達はずっとここを守ってなきゃならないから。女達の方が張り切ってるのよ」
「ふうん。じゃあ、村に落ち着くなんて事はできないね」
「まあね」
ライカがじっとリリカを見たので、リリカは首をかしげた。
「何?」
「あんた、結構やるじゃん。昨日の腕前には驚いたわ」
「ああ、あれ。馬と弓には結構自信があるんだ。でも、もっと強くなりたいな。大きな剣は持て余すから、もっと力自慢になりたいんだけどさあ、なにせ、チビだから」
けっけっけと笑うリリカを見て、ライカが苦笑した。
「あ、そうだ。ライカさん、ここから一番近い都って言ったら、西の都かな」
「そうね。でも結構距離はあるわよ」
「そうか……でも仕方ないな。歩いて何日くらいかかる?」
「歩いてって」
「だって、馬をなくしちゃったもん。荷物も全部……どこかで稼いで、馬を手に入れなきゃならないんだ。旅はしばらく中止だなあ」
ため息とともに言ったリリカに今度はライカが首をかしげた。
「あんた……だって……仲間になったんじゃないの?」
「へ? 仲間?」
「そうよ、あんたも一緒に行くって、お頭が皆にそう言ったわよ。あんた、お頭の恋人になったんでしょ?」
「お、女ぁ?」
リリカがびっくり顔でライカを見た。
ライカはため息をついて、
「あんたみたいな新参者にお頭をとられるのは嫌なんだけどさ、他の娘達もお頭を狙ってたのはいるしね、でも仕方ないわ。昨日みたいな活躍をされちゃあね。あんたのおかげで皆無事だったし、お宝も守られたんだもの。完敗だわ」
と言った。
「恋人って……そんなんじゃないってば! ここの人は皆いい人だけど、あたしにはやる事があるから仲間になるわけにはいかないよ」
「やる事って、スリーキングを倒す事でしょ? それも聞いたわ。それなら、仲間になるべきよ。あいつらを倒せるのは黒い疾風しかないわよ? それに……」
ライカがリリカの後方を見てほほ笑んだ。
「ん?」
リリカが振り返るとガイツが笑顔で立っていた。
「ガイツ、おはよ-」
「二日酔いは大丈夫か?」
「へ、ああ、そうね。平気よ」
ライカは気をきかせたのか、黙って立ち去って行った。
ガイツは心の中で、昨夜寝ずに考えた言葉を繰り返した。
(俺達と一緒にスリーキングを倒そう……いや、仲間になって一緒にと言ったほうがいいかな。一緒に仲間に……? 俺達の仲間になれば奴らを倒す方法がある、の方がいいかな。それとも……俺達はスリーキングを倒す。だから仲間になってくれ!)
「何? 何をぶつぶつ言ってるの?」
リリカが笑った。
「あのな! リリカ……お、俺と一緒になってくれ!」
省略しすぎた。
妙な言葉を口にしたガイツはあたふたと動揺した。
「おや、リリカちゃん、随分遅いお目覚めだねえ!」
ウルミラが笑いながら言うのをリリカは渋い顔で見返した。
「大きな声を出さないでよお」
「あらまあ、二日酔いかい?」
「うん……ねえウルミラさん。あたしの馬、どうなったか知らない?」
たしか、ヤルーをやっつけた時に馬から投げ出された。馬はどこかへ走り去ってしまったのだった。
「それがねえ」
気の毒そうにウルミラが言った。
「あれから、若い者に探しにいかせたんだけど、どうにも見つからないんだよ」
「うそお! だって、荷物もくくりつけてあるんだよお」
リリカが泣き声で叫んだ。たいした荷物ではないが、リリカにとっては全財産なのだ。
「すまないねえ。でも、いいじゃないか。お頭にまた新しい馬をもらえばさ」
「そういうわけにはいかないでしょお。困ったな……今日こそは出発しようと思ったのに……馬がないと・・」
「出発といえば、こっちももう出発なんだよ。リリカちゃん、うちの小屋に朝食の準備が出来てるから、食べておいで」
ウルミラはそう言って、また荷物をかついで去って行った。
リリカは仕方なくウルミラに言われた通りに小屋まで歩いて行く。谷中は荷物を運んだり、小屋を解体したりで大騒ぎである。
リリカがウルミラの小屋の前に行くと、ライカがせっせと朝食を配っていた。
「ライカさん、おはよ」
ライカはリリカを見て、
「今ごろ起き出してきて、のんきねえ、あんた」
と言った。
「へへへ、昨夜、飲み過ぎちゃった。ここの人は皆、早起きだねえ」
「早起きっていうか、あんたが眠りすぎなの! 皆、夜通しで荷造りしてるんだから。ほら、あんたの朝ごはんよ」
ライカは口で言うほども悪気はなさそうで、リリカにほかほかのパンと果実のジュースをくれた。
「ありがとう……でも、何だか楽しそうだね、皆」
リリカは地面に座り込んで、パンを食べながら忙しげに働く人達を眺めた。
「そうね。一所に長くいるのは結構退屈だからね。男達は出かけて行くからいいけど、女達はずっとここを守ってなきゃならないから。女達の方が張り切ってるのよ」
「ふうん。じゃあ、村に落ち着くなんて事はできないね」
「まあね」
ライカがじっとリリカを見たので、リリカは首をかしげた。
「何?」
「あんた、結構やるじゃん。昨日の腕前には驚いたわ」
「ああ、あれ。馬と弓には結構自信があるんだ。でも、もっと強くなりたいな。大きな剣は持て余すから、もっと力自慢になりたいんだけどさあ、なにせ、チビだから」
けっけっけと笑うリリカを見て、ライカが苦笑した。
「あ、そうだ。ライカさん、ここから一番近い都って言ったら、西の都かな」
「そうね。でも結構距離はあるわよ」
「そうか……でも仕方ないな。歩いて何日くらいかかる?」
「歩いてって」
「だって、馬をなくしちゃったもん。荷物も全部……どこかで稼いで、馬を手に入れなきゃならないんだ。旅はしばらく中止だなあ」
ため息とともに言ったリリカに今度はライカが首をかしげた。
「あんた……だって……仲間になったんじゃないの?」
「へ? 仲間?」
「そうよ、あんたも一緒に行くって、お頭が皆にそう言ったわよ。あんた、お頭の恋人になったんでしょ?」
「お、女ぁ?」
リリカがびっくり顔でライカを見た。
ライカはため息をついて、
「あんたみたいな新参者にお頭をとられるのは嫌なんだけどさ、他の娘達もお頭を狙ってたのはいるしね、でも仕方ないわ。昨日みたいな活躍をされちゃあね。あんたのおかげで皆無事だったし、お宝も守られたんだもの。完敗だわ」
と言った。
「恋人って……そんなんじゃないってば! ここの人は皆いい人だけど、あたしにはやる事があるから仲間になるわけにはいかないよ」
「やる事って、スリーキングを倒す事でしょ? それも聞いたわ。それなら、仲間になるべきよ。あいつらを倒せるのは黒い疾風しかないわよ? それに……」
ライカがリリカの後方を見てほほ笑んだ。
「ん?」
リリカが振り返るとガイツが笑顔で立っていた。
「ガイツ、おはよ-」
「二日酔いは大丈夫か?」
「へ、ああ、そうね。平気よ」
ライカは気をきかせたのか、黙って立ち去って行った。
ガイツは心の中で、昨夜寝ずに考えた言葉を繰り返した。
(俺達と一緒にスリーキングを倒そう……いや、仲間になって一緒にと言ったほうがいいかな。一緒に仲間に……? 俺達の仲間になれば奴らを倒す方法がある、の方がいいかな。それとも……俺達はスリーキングを倒す。だから仲間になってくれ!)
「何? 何をぶつぶつ言ってるの?」
リリカが笑った。
「あのな! リリカ……お、俺と一緒になってくれ!」
省略しすぎた。
妙な言葉を口にしたガイツはあたふたと動揺した。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる