わけあり乙女と純情山賊

猫又

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油断

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「何だと!」
 ガイツの顔色が変わった。
「やられた! おい! やさに戻るぞ!」
 ルルの報告を受けたガイツは慌てて馬の方向を変えた。
「スリーキングめ! この俺のやさを狙うなんざ、許さねえぞ! おいシン! お前は何人か連れて討伐部隊をどっかに捨ててこい!」
 ガイツはシンに向かって怒鳴った。
「あいよ!」
 シンは仲間を連れてガイツの本隊から離脱していく。
 ガイツを先頭に残った仲間達はきびすを変えて、元来た道を戻り始めた。
「お頭! こうなったら、ニルルの谷は捨てるしかないな!」
 ブルはガイツの隣を走りながら叫んだ。
「ああ、仕方ない。もっと北の方に移るぞ。だが、女達や宝が無事ならいいんだが」
「……」
「なんてこった! 見張りを置いておくべきだった!」
 ガイツは自分の失態を悔やんだ。ニルルの谷は厳重な隠れ家で、侵入者を許さない自信があった為に、見張りがおろそかになってしまった。
 スリーキングがここまで入り込むなど信じられなかったのだ。
 都の討伐軍との争いに気をもっていかれた為に、自ら墓穴をほってしまったようだ。
 スリーキングはガイツ率いる黒い疾風と敵対する山賊軍である。
 三人の男が部隊を三つに仕切り、それぞれに仕事をこなしているが、そのやり方ときたら、同じ山賊であるガイツが目をむくような有り様だった。
 都への荷物、遠出した貴族の馬車はもちろんの事、貧しい村や町、都へまで出没する。
 その略奪はすさまじく、スリーキングが通った後は、人っ子一人生き残ってはおらず、村は廃墟となるのである。当然、男は殺されて、子供は奴隷に、女はさんざん嬲りものにされた後、どこかの町に売られるのだった。
 スリーキングはガイツを目の敵にしていたが戦力は五分五分、へたに手を出すとよくて相打ち、悪ければガイツに全滅の目に合わされる。ガイツにしても同じである。
 スリーキングとガイツはお互いに一定の距離を置きながら冷戦中だった。
「リリカ……どうか無事で……」
 ガイツは声にならない声でつぶやいた。
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