9 / 30
油断
しおりを挟む
「何だと!」
ガイツの顔色が変わった。
「やられた! おい! やさに戻るぞ!」
ルルの報告を受けたガイツは慌てて馬の方向を変えた。
「スリーキングめ! この俺のやさを狙うなんざ、許さねえぞ! おいシン! お前は何人か連れて討伐部隊をどっかに捨ててこい!」
ガイツはシンに向かって怒鳴った。
「あいよ!」
シンは仲間を連れてガイツの本隊から離脱していく。
ガイツを先頭に残った仲間達はきびすを変えて、元来た道を戻り始めた。
「お頭! こうなったら、ニルルの谷は捨てるしかないな!」
ブルはガイツの隣を走りながら叫んだ。
「ああ、仕方ない。もっと北の方に移るぞ。だが、女達や宝が無事ならいいんだが」
「……」
「なんてこった! 見張りを置いておくべきだった!」
ガイツは自分の失態を悔やんだ。ニルルの谷は厳重な隠れ家で、侵入者を許さない自信があった為に、見張りがおろそかになってしまった。
スリーキングがここまで入り込むなど信じられなかったのだ。
都の討伐軍との争いに気をもっていかれた為に、自ら墓穴をほってしまったようだ。
スリーキングはガイツ率いる黒い疾風と敵対する山賊軍である。
三人の男が部隊を三つに仕切り、それぞれに仕事をこなしているが、そのやり方ときたら、同じ山賊であるガイツが目をむくような有り様だった。
都への荷物、遠出した貴族の馬車はもちろんの事、貧しい村や町、都へまで出没する。
その略奪はすさまじく、スリーキングが通った後は、人っ子一人生き残ってはおらず、村は廃墟となるのである。当然、男は殺されて、子供は奴隷に、女はさんざん嬲りものにされた後、どこかの町に売られるのだった。
スリーキングはガイツを目の敵にしていたが戦力は五分五分、へたに手を出すとよくて相打ち、悪ければガイツに全滅の目に合わされる。ガイツにしても同じである。
スリーキングとガイツはお互いに一定の距離を置きながら冷戦中だった。
「リリカ……どうか無事で……」
ガイツは声にならない声でつぶやいた。
ガイツの顔色が変わった。
「やられた! おい! やさに戻るぞ!」
ルルの報告を受けたガイツは慌てて馬の方向を変えた。
「スリーキングめ! この俺のやさを狙うなんざ、許さねえぞ! おいシン! お前は何人か連れて討伐部隊をどっかに捨ててこい!」
ガイツはシンに向かって怒鳴った。
「あいよ!」
シンは仲間を連れてガイツの本隊から離脱していく。
ガイツを先頭に残った仲間達はきびすを変えて、元来た道を戻り始めた。
「お頭! こうなったら、ニルルの谷は捨てるしかないな!」
ブルはガイツの隣を走りながら叫んだ。
「ああ、仕方ない。もっと北の方に移るぞ。だが、女達や宝が無事ならいいんだが」
「……」
「なんてこった! 見張りを置いておくべきだった!」
ガイツは自分の失態を悔やんだ。ニルルの谷は厳重な隠れ家で、侵入者を許さない自信があった為に、見張りがおろそかになってしまった。
スリーキングがここまで入り込むなど信じられなかったのだ。
都の討伐軍との争いに気をもっていかれた為に、自ら墓穴をほってしまったようだ。
スリーキングはガイツ率いる黒い疾風と敵対する山賊軍である。
三人の男が部隊を三つに仕切り、それぞれに仕事をこなしているが、そのやり方ときたら、同じ山賊であるガイツが目をむくような有り様だった。
都への荷物、遠出した貴族の馬車はもちろんの事、貧しい村や町、都へまで出没する。
その略奪はすさまじく、スリーキングが通った後は、人っ子一人生き残ってはおらず、村は廃墟となるのである。当然、男は殺されて、子供は奴隷に、女はさんざん嬲りものにされた後、どこかの町に売られるのだった。
スリーキングはガイツを目の敵にしていたが戦力は五分五分、へたに手を出すとよくて相打ち、悪ければガイツに全滅の目に合わされる。ガイツにしても同じである。
スリーキングとガイツはお互いに一定の距離を置きながら冷戦中だった。
「リリカ……どうか無事で……」
ガイツは声にならない声でつぶやいた。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる