7 / 30
スリーキング
しおりを挟む
都からの盗賊討伐隊の出現でニルルの谷は騒然となった。
ガイツは仲間を率いて様子を見に出て行ってしまったし、女達は身を寄せ合って荷物をまとめる相談をしている。
「ウルミラさん」
リリカは何をしていいか分からずに忙しそうなウルミラに声をかけた。
「ああ、リリカちゃん。あんたも荷物があったら、手元に置いてた方がいいよ。いつこの谷を去らなきゃならないか分からないからね」
「去るって?」
「討伐隊がこの谷に踏み込んできたらさ、戦争になるだろ? お頭はなるべく軍隊は相手にしたくないんだよ。犠牲者が出るだけで得る事は何もないからね。奴らが踏み込む前にこの谷は捨てるだろう」
「捨てるって、せっかく気持ちのいい場所なのにね」
「まあねえ。でも仕方ないよ。これがあたし達の暮らしだからね」
「そう……大変なのね」
ウルミラは忙しそうにまた谷のあちこちを走り回る。リリカは荷物を自分の馬にくくりつけた。どうせ、ここから出ていくつもりだったし、元よりたいした荷物は持っていない。 リリカは馬の側で手持ちぶさたにぶらぶらと立っていた。
しばらくして、女の悲鳴が上がった。
「大変だ! 奴らがやって来たよ!」
谷の一番上の見張り小屋から様子を伺っていた者が叫んだ。
「何だって!」
ウルミラの手が止まった。
「討伐部隊の奴らかい?」
「ち、違う。スリーキングだ!」
「何て事だ! お頭がいないってのに」
リリカは馬から自分の弓と矢を取り出した。
「ウルミラ! どうするの? 男達は皆出払ってるんだよ!」
「それが奴らのねらいだったんだ! スリーキングはお頭の縄張りを狙ってる。お頭達をおびき出して、ここを急襲するつもりだったんだ! 何てこった! ここは一番でっかい隠れ家なんだよ。お宝も隠してある……それを奪うつもりで……誰か、早く、お頭に知らせないと!」
ウルミラは寄り集まった二十人ほどの女達にテキパキと命令を下した。
「ルル! あんたは馬が早い。今からすぐにお頭を追いかけて、この事を知らせるんだ!」
「あいよ!」
ルルと呼ばれた黒髪の美少女が走り出しながら返事をした。
「後の者は武器を持って谷の入り口に集まる。子供達は谷の一番奥に隠れてな! カーラ、あんたは二、三人で荷造りを続けて。できるだけお宝をかき集めるんだ!」
「分かった! アイリーン、ソラ、ついといで!」
「OK!」
カーラはリリカとそう年が違わないだろう少女だった。髪の毛を緑色に染めて、少年のような幼い身体つきであったが、威勢よく走り出した。
ウルミラはリリカに振り返り、
「リリカちゃん、あんたは子供達と一緒に谷の奥に隠れておきな。あんたに何かあったら、お頭に合わせる顔がないよ!」
と叫んだ。
リリカは一緒に戦うつもりであったが、ウルミラはそう言い捨てると残りの女達をつれて谷の入り口へかけていってしまった。
「こっちだよ!」
ウルミラの双子の子供達がリリカの手を引いてリリカを抜け道へと案内した。
細い道をずっと歩き、一番奥に小さな洞窟があった。
六人の子供達はその洞窟に入る。
「ここを岩でふさぐと外からはまったく分からないんだ! だから、ここに隠れてたら安心なんだよ。もし、ここも危ないって事になったら、まだこの奥に抜け道がこしらえてあるんだ。でも、それは最後の手段だってお頭が言ってた。発破しなけりゃならないからね」
ルーが笑いながら言った。
ガイツは仲間を率いて様子を見に出て行ってしまったし、女達は身を寄せ合って荷物をまとめる相談をしている。
「ウルミラさん」
リリカは何をしていいか分からずに忙しそうなウルミラに声をかけた。
「ああ、リリカちゃん。あんたも荷物があったら、手元に置いてた方がいいよ。いつこの谷を去らなきゃならないか分からないからね」
「去るって?」
「討伐隊がこの谷に踏み込んできたらさ、戦争になるだろ? お頭はなるべく軍隊は相手にしたくないんだよ。犠牲者が出るだけで得る事は何もないからね。奴らが踏み込む前にこの谷は捨てるだろう」
「捨てるって、せっかく気持ちのいい場所なのにね」
「まあねえ。でも仕方ないよ。これがあたし達の暮らしだからね」
「そう……大変なのね」
ウルミラは忙しそうにまた谷のあちこちを走り回る。リリカは荷物を自分の馬にくくりつけた。どうせ、ここから出ていくつもりだったし、元よりたいした荷物は持っていない。 リリカは馬の側で手持ちぶさたにぶらぶらと立っていた。
しばらくして、女の悲鳴が上がった。
「大変だ! 奴らがやって来たよ!」
谷の一番上の見張り小屋から様子を伺っていた者が叫んだ。
「何だって!」
ウルミラの手が止まった。
「討伐部隊の奴らかい?」
「ち、違う。スリーキングだ!」
「何て事だ! お頭がいないってのに」
リリカは馬から自分の弓と矢を取り出した。
「ウルミラ! どうするの? 男達は皆出払ってるんだよ!」
「それが奴らのねらいだったんだ! スリーキングはお頭の縄張りを狙ってる。お頭達をおびき出して、ここを急襲するつもりだったんだ! 何てこった! ここは一番でっかい隠れ家なんだよ。お宝も隠してある……それを奪うつもりで……誰か、早く、お頭に知らせないと!」
ウルミラは寄り集まった二十人ほどの女達にテキパキと命令を下した。
「ルル! あんたは馬が早い。今からすぐにお頭を追いかけて、この事を知らせるんだ!」
「あいよ!」
ルルと呼ばれた黒髪の美少女が走り出しながら返事をした。
「後の者は武器を持って谷の入り口に集まる。子供達は谷の一番奥に隠れてな! カーラ、あんたは二、三人で荷造りを続けて。できるだけお宝をかき集めるんだ!」
「分かった! アイリーン、ソラ、ついといで!」
「OK!」
カーラはリリカとそう年が違わないだろう少女だった。髪の毛を緑色に染めて、少年のような幼い身体つきであったが、威勢よく走り出した。
ウルミラはリリカに振り返り、
「リリカちゃん、あんたは子供達と一緒に谷の奥に隠れておきな。あんたに何かあったら、お頭に合わせる顔がないよ!」
と叫んだ。
リリカは一緒に戦うつもりであったが、ウルミラはそう言い捨てると残りの女達をつれて谷の入り口へかけていってしまった。
「こっちだよ!」
ウルミラの双子の子供達がリリカの手を引いてリリカを抜け道へと案内した。
細い道をずっと歩き、一番奥に小さな洞窟があった。
六人の子供達はその洞窟に入る。
「ここを岩でふさぐと外からはまったく分からないんだ! だから、ここに隠れてたら安心なんだよ。もし、ここも危ないって事になったら、まだこの奥に抜け道がこしらえてあるんだ。でも、それは最後の手段だってお頭が言ってた。発破しなけりゃならないからね」
ルーが笑いながら言った。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる