わけあり乙女と純情山賊

猫又

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スリーキング

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 都からの盗賊討伐隊の出現でニルルの谷は騒然となった。
 ガイツは仲間を率いて様子を見に出て行ってしまったし、女達は身を寄せ合って荷物をまとめる相談をしている。
「ウルミラさん」
 リリカは何をしていいか分からずに忙しそうなウルミラに声をかけた。
「ああ、リリカちゃん。あんたも荷物があったら、手元に置いてた方がいいよ。いつこの谷を去らなきゃならないか分からないからね」
「去るって?」
「討伐隊がこの谷に踏み込んできたらさ、戦争になるだろ? お頭はなるべく軍隊は相手にしたくないんだよ。犠牲者が出るだけで得る事は何もないからね。奴らが踏み込む前にこの谷は捨てるだろう」
「捨てるって、せっかく気持ちのいい場所なのにね」
「まあねえ。でも仕方ないよ。これがあたし達の暮らしだからね」
「そう……大変なのね」
 ウルミラは忙しそうにまた谷のあちこちを走り回る。リリカは荷物を自分の馬にくくりつけた。どうせ、ここから出ていくつもりだったし、元よりたいした荷物は持っていない。 リリカは馬の側で手持ちぶさたにぶらぶらと立っていた。
 しばらくして、女の悲鳴が上がった。
「大変だ! 奴らがやって来たよ!」
 谷の一番上の見張り小屋から様子を伺っていた者が叫んだ。
「何だって!」
 ウルミラの手が止まった。
「討伐部隊の奴らかい?」
「ち、違う。スリーキングだ!」
「何て事だ! お頭がいないってのに」
 リリカは馬から自分の弓と矢を取り出した。
「ウルミラ! どうするの? 男達は皆出払ってるんだよ!」
「それが奴らのねらいだったんだ! スリーキングはお頭の縄張りを狙ってる。お頭達をおびき出して、ここを急襲するつもりだったんだ! 何てこった! ここは一番でっかい隠れ家なんだよ。お宝も隠してある……それを奪うつもりで……誰か、早く、お頭に知らせないと!」
 ウルミラは寄り集まった二十人ほどの女達にテキパキと命令を下した。
「ルル! あんたは馬が早い。今からすぐにお頭を追いかけて、この事を知らせるんだ!」
「あいよ!」
 ルルと呼ばれた黒髪の美少女が走り出しながら返事をした。
「後の者は武器を持って谷の入り口に集まる。子供達は谷の一番奥に隠れてな! カーラ、あんたは二、三人で荷造りを続けて。できるだけお宝をかき集めるんだ!」
「分かった! アイリーン、ソラ、ついといで!」
「OK!」
 カーラはリリカとそう年が違わないだろう少女だった。髪の毛を緑色に染めて、少年のような幼い身体つきであったが、威勢よく走り出した。
 ウルミラはリリカに振り返り、
「リリカちゃん、あんたは子供達と一緒に谷の奥に隠れておきな。あんたに何かあったら、お頭に合わせる顔がないよ!」
 と叫んだ。
 リリカは一緒に戦うつもりであったが、ウルミラはそう言い捨てると残りの女達をつれて谷の入り口へかけていってしまった。
「こっちだよ!」
 ウルミラの双子の子供達がリリカの手を引いてリリカを抜け道へと案内した。
 細い道をずっと歩き、一番奥に小さな洞窟があった。
 六人の子供達はその洞窟に入る。
「ここを岩でふさぐと外からはまったく分からないんだ! だから、ここに隠れてたら安心なんだよ。もし、ここも危ないって事になったら、まだこの奥に抜け道がこしらえてあるんだ。でも、それは最後の手段だってお頭が言ってた。発破しなけりゃならないからね」
 ルーが笑いながら言った。
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