わけあり乙女と純情山賊

猫又

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天使と出会う

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 屈強な大男が、天使だ! もないものだが、この時のガイツは真剣にそう思った。
 やはり岩の向こうに人影が見える。その人影はガイツに全く気がつきもせずに、向こう側から岩にはい上って来たのである。
 それは一人の娘だった。全裸で傷一つない真っ白い肌、形のよい乳房、きゅっとしまった腰つき、ぷりんとした尻を惜し気もなくガイツの前にさらけ出していた。
 真っ赤な髪は短く刈り上げ、同じ色の瞳は勝ち気でりりしく、すらりとした手足はしなやかそうで彼女は一目でガイツを魅了してしまった。
(いかん……覗きをするわけにはいかん)
 そう思いながらもガイツはその娘から目を離す事ができなかった。
 娘は全くガイツに気がついていない様子だった。しばらく岩に腰をかけていたがまた湯に飛び込んだ。
「いったあーい!」
 湯に飛び込んだ瞬間に娘が悲鳴を上げた。
 ガイツは身体を起こして様子を伺った。どうやら娘は岩で肩を傷つけてしまったようだ。 湯に血の色が広がる。
「大丈夫か!」
 ガイツは慌てて岩を回り、娘の方に水飛沫を上げながら近付いた。
「わ! 何よ! あんた!」
 娘が慌てて身を湯に沈める。
「いや……その……ケガをしたのか?」
 ガイツはしまった! と思ったが、もうどうしようもない。
「ちょっと、近寄らないで! ぶっ殺すわよ!」
 たいした威勢だ。娘はガイツを睨む。
「別に、怪しい者じゃない。ケガをしたのなら、薬草を持っているが……」
「大きなお世話よ。向こうに行ってよ!」
「だが……血がだいぶん出ているぞ? 早く血止めをした方がいい」
「分かってるわよ! だから、あっちに行ってよ!」
「ああ……分かったから、そう興奮するな」
 ガイツは娘に背中を向けた。
 ばしゃばしゃと音がして、娘が温泉から出る気配がした。
 ガイツは背を向けたまま、
「おい、大丈夫なのか?」
 と言ったが返事がない。
 そっと振り返ると、娘が対岸の草むらで倒れ込んでいる。
 ガイツは再び慌てて対岸まで走り寄った。
「おい! おい!」
「さ、触らないでよ……」
 肩の傷は深く、血がドクドクあふれ出している。その上に娘はのぼせたらしく、顔が真っ赤で息が荒い。
 ガイツはピューと口笛を吹いた。たったったと足音がして、ガイツの愛馬が走り寄ってきた。ガイツは自分の身体を拭き着衣をすませると、娘の肩の傷の応急手当をし、大きな布に娘の身体を包んでやった。
 そして娘を自分の馬に乗せると、自らも乗馬し馬を走らせた。 
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