上 下
22 / 27

脇汗びしゃー

しおりを挟む
 ルミカ嬢に招待された伯爵家でのティーパーティとは名ばかりで、招待されたのは私だけ、相手はルミカ嬢とその父親であるエリアノ伯爵とアレクサンダー皇太子殿下がいた。
「皇太子殿下、学院卒業後は国王の側近として働くのでは? お茶会に出ている暇などありますの?」
 と私が聞いても皇太子はふっと笑っただけだった。

「ねえ、エアリス様、あなた魔力が発現したそうですわね? 本当かしら?」
 仮にもお茶会という名目で招待しておきながら、茶の一杯も出さず、ルミカ嬢はふふんと上から私を見下ろすように言った。
「ええ、そうですわ。でも、内緒にしていただけます? 魔力と言っても少しだけだと思いますし」
「属性は?」
「火、ですわ」

 ルミカ嬢は目を大きく見開いて、
「素敵! ね、ここで見せていただけない? 少しでいいから」
 と言った。
「いいですわ」
 私は手に握りこんでいた小さな魔石の破片を改めて手の平の中で確認した。
「ファイア」
 と小声で言い、手を差し出す。人差し指だけをぴんと伸ばし、あとの四本は破片を握ったままだ。
 火をイメージ、この間、リリアン様のところで出来たように。

 ぽっと一瞬だけ、火が空間に灯った。
 だけどそれが最後の力だったようだ。
 魔石の破片は私の手の中で粉々になって崩れた。
 唯一の武器が壊れて消えたのだ。
 予測はしていたといえこれは窮地だ。
 私は脇の下も、膝の裏も、足の指の間も汗をびしゃーとかいていた。


「素晴らしいわ!」
 とルミカ嬢が言った。
「ね、お父様! アレクサンダー様! 本当でしょ?」
 どや顔のルミカの横で、エリアノ伯爵がうんうんとうなずいて、
「エアリス様、どれほど魔力があるか計測させていただいても?」
 と言った。

「あら、何故そんな事を? 魔力値なんてデリケートな事を、無防備に知られたくありませんわ。伯爵にもルミカ様にも私の魔力など関係ありませんよね? 国王命令というのでもなければお断りします」
 と言った私に、
「次期国王命令だ!」
 と皇太子殿下が言った。
「そうですか、ですが私の魔力があなた方にどう関係するのか理由を教えて下さいます? 私の魔力値を知ってどうなさるおつもりなのですか?」
「お前には関係ない話だ」
「私の魔力値を教えろと迫られておるのに、私に関係ないとはおかしな話ですわね」

 皇太子殿下も伯爵もルミカ嬢も目がぎらぎらしていて、おかしな雰囲気だった。
 もしかして力尽くでも計測させられるかもしれない。
 知識でしか知らないが、過去の偉大なる賢者が作ったという魔力の計測器がある。
 魔石というのは本来なら石が独自に魔力を含むものだ。核だとかコアだとか呼ばれる時もある。一定量の魔力を保持し、それを魔術師が薬を作ったり、攻撃魔法に使ったりと運用するものだ。その魔石を使い作られたのが計測器で、最大計測値は二万とも三万とも言われているが、宮廷魔術師でも一万の数字を出す者はいないようだ。

「皇太子殿下、あなたがどういうつもりで魔力を保持する者を探しているのかは存じません。魔力がなくても魔法が使える存在になりたいのですか? 神があなたに魔力をお与えにならなかったのは、あなたには魔術師以外の大役があるからですわ」
 そう言った瞬間、頬に痛みが走った。
 自分は皇太子殿下に頬を叩かれ、ルミカ嬢がそれを笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

婚約者の王子に殺された~時を巻き戻した双子の兄妹は死亡ルートを回避したい!~

椿蛍
恋愛
大国バルレリアの王位継承争いに巻き込まれ、私とお兄様は殺された―― 私を殺したのは婚約者の王子。 死んだと思っていたけれど。 『自分の命をあげますから、どうか二人を生き返らせてください』 誰かが願った声を私は暗闇の中で聞いた。 時間が巻き戻り、私とお兄様は前回の人生の記憶を持ったまま子供の頃からやり直すことに。 今度は死んでたまるものですか! 絶対に生き延びようと誓う私たち。 双子の兄妹。 兄ヴィルフレードと妹の私レティツィア。 運命を変えるべく選んだ私たちは前回とは違う自分になることを決めた。 お兄様が選んだ方法は女装!? それって、私達『兄妹』じゃなくて『姉妹』になるってことですか? 完璧なお兄様の女装だけど、運命は変わるの? それに成長したら、バレてしまう。 どんなに美人でも、中身は男なんだから!! でも、私達はなにがなんでも死亡ルートだけは回避したい! ※1日2回更新 ※他サイトでも連載しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

諦めて、もがき続ける。

りつ
恋愛
 婚約者であったアルフォンスが自分ではない他の女性と浮気して、子どもまでできたと知ったユーディットは途方に暮れる。好きな人と結ばれことは叶わず、彼女は二十年上のブラウワー伯爵のもとへと嫁ぐことが決まった。伯爵の思うがままにされ、心をすり減らしていくユーディット。それでも彼女は、ある言葉を胸に、毎日を生きていた。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

処理中です...