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魔法石

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「これがその魔法石ですの」
 とリリアン様が差し出した手の平には小さい朱色の石が乗っていた。
「それが?」
「ええ、あなた魔法適性ありませんよね?」
「は、はい」
「では、これを握って、火をイメージして念じてご覧なさい」
「え、そんな貴重な物を……」
「これはくず石ですからたいした魔法は出ませんわ」
 とリリアン様が言うので、私はその石を手にして「火」をイメージして念じてみた。
「きゃ!」
 一瞬、ぽっと小さな小さな赤い球が私の手の平に現れ、すぐに消えた。
「ね? それが魔法石」
「凄い! 凄いです! 魔法適性がなくともこれがあれば魔法が使えるんですか?」
「ええ、そういう事ね」
「素晴らしいではないですか」
「そうかしら?」
「え?」
 リリアン様は冷めた紅茶を飲んでから、
「これがどこで手に入るとお思い? 今のは一瞬の火でしたから値などつきませんわ。けど、もっと大きな火を起こせる魔法石、水や氷が出せる属性の魔法石。魔法という特性のスキルがない物でも使える便利な物が安価で皆の手に入るのは良い事ですけど、必ずそれを良しとしない者も現れますわ。特権階級なんかでは、すでに金に物を言わせて石を買いあさっておりますのよ。それも闇売買で、かなりの値が。それに伴い、税金が上がっている領地もありますわ」
「それは……」
「ね? 大変な思いをするのは税金を納める領民ですの。貴族達がその魔法石を領民の為に使うなどあり得ないと思いますわ。所有するのは他の貴族達へ自慢する為の物ですもの」
「リリアン様……それは大変な……」
「ええ、そうですわ。お国の一大事と言ってもいいですわ。それが他国の耳へ入れば侵略も考えられますでしょ? それに……」
「それに?」
「この魔法石はこれ自体はそんなに効力はありませんのよ。魔術師が魔力を込めてやると一層強い魔法石になりますの。ですから」
「で、ですから?」
 リリアン様は私をじっと見てから、
「どこの貴族でも魔術師買いが始まってますわ」
 と言った。
「魔術師買い?」
「ええ、高名で強力な魔術師を屋敷に抱えて、魔法石をより強い物にするのですわ。これを知っている一部の貴族達は競って国中の魔術師を集めてますの。バカでしょ。そのバカの筆頭をご存じ?」
「いえ……存じません……」
「あのルミカのお父上ですのよ」
「え? エリアノ伯爵が?」
「そうなんですのよ」
「では……皇太子殿下とルミカ様が魔法学院に進んだのも? 私もですけどあの方達は魔法適性がないのでは」
 リリアン様が肯いて、
「そうでしょうね。魔法石を己の物にする為に、魔法を学んだというところかしら。何か得るものがあったのかしらね。ルミカを皇太子殿下に嫁がせて、魔法石そのものを牛耳るってのは馬鹿にしては考えたわね」 

 その時、私の頭にあったのは皇太子殿下とルミカ嬢がもう三年も前からそういう算段でいたという事実だった。魔法石云々は問題だけど、もっと早く私と婚約破棄してくれればよかったのでは。それが……何度も死に生き返る原因だったのでは。
 と思うと悔しいというか、悲しい、というか腹が立ってきたぞ。

「リリアン様……これは由々しき問題ですわ」
「そうなの。それなのにガイラス様ったら、余計なお節介はするな、だなんて言うのよ? 酷いと思いません?」
「ガイラス様はリリアン様の身を案じておられるのでしょう。闇取引など、犯罪行為ですもの。そんな物に関わるのは……危険ですわ」
「まあ、そうかもしれませんけど。でも私はこのままにはしておきませんのよ。で、先程のあなたへの答えですけど、私、魔法が使えますのよ」
 とリリアン様が言った。

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