17 / 27
三つどもえ
しおりを挟む
「皇太子殿下、ようこそいらしゃいませ」
リリアン様が立ち上がり丁寧に挨拶をしたので、私もそれにならったがゼキアス様は立ち上がりもしなかったし、ふんと横を向いた。
「リリアン、素晴らしいお屋敷ねぇ。こんな大きなお屋敷を購入して、大丈夫なの? 辺境に住む領民から高い税を取ってるのではなくて?」
とアレクサンダー様よりも先に口を開いたのはルミカ嬢だった。
「どうぞお座りになって。すぐお茶の用意をさせますわ。殿下には最高級のアールグレイとルミカ様にはそのお口が少しでも上品になるように最高級のドクダミ茶でも入れてさしあげてちょうだい」
とリリアン様が言った。
「何ですって! リリアンのくせに!」
とルミカ嬢が言った。
アレクサンダー様はそんな事も耳に入らない様子でゼキアス様を睨みつけ、ゼキアス様は素知らぬ顔で他所を見ていた。
「ゼキアス、兄である私に挨拶はないのか」
と言いながら、アレクサンダー様はソファに座り、ルミカ嬢もその横に座り、早速テーブルの上の菓子に手を伸ばした。
「兄上、お元気そうでなによりです」
いかにも嫌々そうにゼキアス様が言い、私もマナーとしてそれに続き、
「皇太子様、ルミカ様、ごきげんよう」
と言うと初めて私に気が付いたような顔で、
「エアリスではないか。弟と婚約したらしいな」
と言った。
(そうでないと、あなたの妃にされて執務と世継ぎを産む役を強制されそうだったのです) 本当はそう言いたかったけど、「はい」とだけ返事をしておいた。
「そうでないと、皇太子殿下の正妃に無理矢理させられるところだったのですわよねぇ。王族に嫁げて、その世継ぎを産む資格があるのは公、候爵家の令嬢と決まっているんですもの。殿下は真実の愛だかなんだかで、伯爵家の令嬢を娶られて満足でしょうけど、その弊害に遭う方の事も考えていただきたいですわ」
とリリアン様が私が思う事以上の事をさらっと言ってのけた。
「な、何だと! 私を愚弄するのか!」
「とんでもございませんわ。偉大なる皇子、グランリーズ王国の皇太子殿下を愚弄なんて、そんな恐ろしい事。ただ、それを殿下に説き、諫める方が王宮にはいらっしゃらないのかしらと思いまして。いわれのない言いがかりであなたに婚約破棄をされたエアリス様の事を考えた事がありますの? 婚約破棄された後、娶る予定の伯爵令嬢のできが悪いからと、やっぱり妃に迎えてやるから執務と世継ぎを産めなんて。それもよっぽど嫌だったのでしょうね。その弟と婚約なんて」
ズケズケときっぱりと言いきったリリアン様に一同、アレクサンダー様もうっと言葉が詰まった。
怒りと屈辱の為に言葉がすぐに出ないようだ。
ガイラス様が困ったように、
「リリアン、言葉を慎みなさい」
とだけ言った。
「はーい。あら、皆様どうなさいました? お茶が冷めました? 入れ替えさせましょう」
「侯爵夫人、あなたは少し考えてからその口を開いた方がよい。あなたが牢屋に入れられて、恥をかくのはそなたの夫であるウエールズ侯爵だぞ」
とアレクサンダー様が震える声でそう言った。
「私が牢屋に? それはどうでしょう。たかが戯れ言で女を一人牢屋に入れるよりももっと入れるべき悪い人間はおりますわよ。例えば……魔石の闇売買に関わる人間ですとか?」
とリリアン様が言い、その場はさっきよりもシーンとなった。。
「何の話かな」
「ガイラス様がどうしてこんなごみごみした王都に家を買わなければならないほど、任務に追い詰められているとお思いですの。騎士団を引退したとはいえ、相談役とかいう役をつけられ、皆がガイラス様に泣き言を持ちかけてくるのですわ。例えばお世継ぎ問題。皇太子妃問題、そして今、王都で問題になっている魔石の闇取引。皇太子殿下、それらをどうお考えですの? 真実の愛も結構ですけど、女の尻を追いかけるのは国内をきちんとしてからにしてくださいませ。ゼキアス様もですわ。ゆくゆくは宰相になられる方ですもの、それらの問題が耳に入ってない事はありませんでしょう。私の言い分が気に入らなければ牢屋に入れられても構いませんわ。ですけど、ガイラス様はその件で身を危険に晒しているのですわ。私は愛する夫を守らなければなりませんの」
リリアン様、かっこいい~~と私は思ったが、アレクサンダー様はふてくされたような顔をし、ゼキアス様は唇を噛んだ。痛いところを突かれたのは間違いない。
「リリアン、止めなさい。任務には口を出すなと言ったはずだ」
少し厳しい声でガイラス様が言い、リリアン様は唇を尖らせた。
「そうですか! 余計なお世話ですか! まあいいですわ。言いたいことは言いましたもの。私、少々、気分がすぐれないので、少し休ませていただきますわ」
と言って立ち上がり、ぷんすかと怒りながら立ち去って行った。
その場に残った人達はすっごい気まずそうでゼキアス様は冷めた紅茶を飲み干し立ち上がった。
「兄上、私は失礼します。エアリス、君はどうする?」
「私はリリアン様のお見舞いに伺いますわ。ご気分がすぐれないとおっしゃてましたし」
「そうか」
「あれだけ好き勝手しゃべって気分がすぐれないとは物はいいようだな」
と言いながらアレクサンダー様も立ち上がった。
「あん、アレクサンダー様ぁ、待ってください~~ルミカを置いて行かないでぇ」
甘い甘い砂糖菓子のような声でルミカ嬢が言いながらアレクサンダー様を追いかけて行った。
リリアン様が立ち上がり丁寧に挨拶をしたので、私もそれにならったがゼキアス様は立ち上がりもしなかったし、ふんと横を向いた。
「リリアン、素晴らしいお屋敷ねぇ。こんな大きなお屋敷を購入して、大丈夫なの? 辺境に住む領民から高い税を取ってるのではなくて?」
とアレクサンダー様よりも先に口を開いたのはルミカ嬢だった。
「どうぞお座りになって。すぐお茶の用意をさせますわ。殿下には最高級のアールグレイとルミカ様にはそのお口が少しでも上品になるように最高級のドクダミ茶でも入れてさしあげてちょうだい」
とリリアン様が言った。
「何ですって! リリアンのくせに!」
とルミカ嬢が言った。
アレクサンダー様はそんな事も耳に入らない様子でゼキアス様を睨みつけ、ゼキアス様は素知らぬ顔で他所を見ていた。
「ゼキアス、兄である私に挨拶はないのか」
と言いながら、アレクサンダー様はソファに座り、ルミカ嬢もその横に座り、早速テーブルの上の菓子に手を伸ばした。
「兄上、お元気そうでなによりです」
いかにも嫌々そうにゼキアス様が言い、私もマナーとしてそれに続き、
「皇太子様、ルミカ様、ごきげんよう」
と言うと初めて私に気が付いたような顔で、
「エアリスではないか。弟と婚約したらしいな」
と言った。
(そうでないと、あなたの妃にされて執務と世継ぎを産む役を強制されそうだったのです) 本当はそう言いたかったけど、「はい」とだけ返事をしておいた。
「そうでないと、皇太子殿下の正妃に無理矢理させられるところだったのですわよねぇ。王族に嫁げて、その世継ぎを産む資格があるのは公、候爵家の令嬢と決まっているんですもの。殿下は真実の愛だかなんだかで、伯爵家の令嬢を娶られて満足でしょうけど、その弊害に遭う方の事も考えていただきたいですわ」
とリリアン様が私が思う事以上の事をさらっと言ってのけた。
「な、何だと! 私を愚弄するのか!」
「とんでもございませんわ。偉大なる皇子、グランリーズ王国の皇太子殿下を愚弄なんて、そんな恐ろしい事。ただ、それを殿下に説き、諫める方が王宮にはいらっしゃらないのかしらと思いまして。いわれのない言いがかりであなたに婚約破棄をされたエアリス様の事を考えた事がありますの? 婚約破棄された後、娶る予定の伯爵令嬢のできが悪いからと、やっぱり妃に迎えてやるから執務と世継ぎを産めなんて。それもよっぽど嫌だったのでしょうね。その弟と婚約なんて」
ズケズケときっぱりと言いきったリリアン様に一同、アレクサンダー様もうっと言葉が詰まった。
怒りと屈辱の為に言葉がすぐに出ないようだ。
ガイラス様が困ったように、
「リリアン、言葉を慎みなさい」
とだけ言った。
「はーい。あら、皆様どうなさいました? お茶が冷めました? 入れ替えさせましょう」
「侯爵夫人、あなたは少し考えてからその口を開いた方がよい。あなたが牢屋に入れられて、恥をかくのはそなたの夫であるウエールズ侯爵だぞ」
とアレクサンダー様が震える声でそう言った。
「私が牢屋に? それはどうでしょう。たかが戯れ言で女を一人牢屋に入れるよりももっと入れるべき悪い人間はおりますわよ。例えば……魔石の闇売買に関わる人間ですとか?」
とリリアン様が言い、その場はさっきよりもシーンとなった。。
「何の話かな」
「ガイラス様がどうしてこんなごみごみした王都に家を買わなければならないほど、任務に追い詰められているとお思いですの。騎士団を引退したとはいえ、相談役とかいう役をつけられ、皆がガイラス様に泣き言を持ちかけてくるのですわ。例えばお世継ぎ問題。皇太子妃問題、そして今、王都で問題になっている魔石の闇取引。皇太子殿下、それらをどうお考えですの? 真実の愛も結構ですけど、女の尻を追いかけるのは国内をきちんとしてからにしてくださいませ。ゼキアス様もですわ。ゆくゆくは宰相になられる方ですもの、それらの問題が耳に入ってない事はありませんでしょう。私の言い分が気に入らなければ牢屋に入れられても構いませんわ。ですけど、ガイラス様はその件で身を危険に晒しているのですわ。私は愛する夫を守らなければなりませんの」
リリアン様、かっこいい~~と私は思ったが、アレクサンダー様はふてくされたような顔をし、ゼキアス様は唇を噛んだ。痛いところを突かれたのは間違いない。
「リリアン、止めなさい。任務には口を出すなと言ったはずだ」
少し厳しい声でガイラス様が言い、リリアン様は唇を尖らせた。
「そうですか! 余計なお世話ですか! まあいいですわ。言いたいことは言いましたもの。私、少々、気分がすぐれないので、少し休ませていただきますわ」
と言って立ち上がり、ぷんすかと怒りながら立ち去って行った。
その場に残った人達はすっごい気まずそうでゼキアス様は冷めた紅茶を飲み干し立ち上がった。
「兄上、私は失礼します。エアリス、君はどうする?」
「私はリリアン様のお見舞いに伺いますわ。ご気分がすぐれないとおっしゃてましたし」
「そうか」
「あれだけ好き勝手しゃべって気分がすぐれないとは物はいいようだな」
と言いながらアレクサンダー様も立ち上がった。
「あん、アレクサンダー様ぁ、待ってください~~ルミカを置いて行かないでぇ」
甘い甘い砂糖菓子のような声でルミカ嬢が言いながらアレクサンダー様を追いかけて行った。
1
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
婚約者の王子に殺された~時を巻き戻した双子の兄妹は死亡ルートを回避したい!~
椿蛍
恋愛
大国バルレリアの王位継承争いに巻き込まれ、私とお兄様は殺された――
私を殺したのは婚約者の王子。
死んだと思っていたけれど。
『自分の命をあげますから、どうか二人を生き返らせてください』
誰かが願った声を私は暗闇の中で聞いた。
時間が巻き戻り、私とお兄様は前回の人生の記憶を持ったまま子供の頃からやり直すことに。
今度は死んでたまるものですか!
絶対に生き延びようと誓う私たち。
双子の兄妹。
兄ヴィルフレードと妹の私レティツィア。
運命を変えるべく選んだ私たちは前回とは違う自分になることを決めた。
お兄様が選んだ方法は女装!?
それって、私達『兄妹』じゃなくて『姉妹』になるってことですか?
完璧なお兄様の女装だけど、運命は変わるの?
それに成長したら、バレてしまう。
どんなに美人でも、中身は男なんだから!!
でも、私達はなにがなんでも死亡ルートだけは回避したい!
※1日2回更新
※他サイトでも連載しています。
親友が私のことを引き立て役としか思っていなかったので、ささやかな復讐をさせていただきます。
木山楽斗
恋愛
親友と婚約者が浮気したことを知ったアノテラは、ひどく落ち込むことになった。
そんな彼女に対して、二人は開き直って罵倒の言葉をかけてくる。親友は彼女のことを引き立て役としか思っておらず、婚約者もアノテラのことを疎ましく思っていたのだ。
そんな二人に詰め寄られていたアノテラを救ったのは、公爵令息であるドラグルドだった。
彼によって、親友と婚約者は撤退し、アノテラは窮地を脱することができた。
信頼していた二人に裏切られたという事実に、アノテラは意気消沈していた。
しかし彼女は、ドラグルドの言葉によって奮起し、二人と戦うことを決意する。
こうしてアノテラは、ドラグルドの協力も得て、動き始めるのだった。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~
juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。
しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。
彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。
知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。
新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。
新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。
そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。
諦めて、もがき続ける。
りつ
恋愛
婚約者であったアルフォンスが自分ではない他の女性と浮気して、子どもまでできたと知ったユーディットは途方に暮れる。好きな人と結ばれことは叶わず、彼女は二十年上のブラウワー伯爵のもとへと嫁ぐことが決まった。伯爵の思うがままにされ、心をすり減らしていくユーディット。それでも彼女は、ある言葉を胸に、毎日を生きていた。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる