氷の令嬢、国で一番の美姫とか言われてるけど、ただの怠け者の転生者です、婚約破棄? OKっす。

猫又

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ウエールズ領

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「失礼な話ですわね。あなたに婚約破棄なんてふざけたことをしておいて、やっぱり結婚して子を産めなんて」
 と言ったのはリリアン様だ。
 私は静養するという名目でウエールズ領を訪れていた。
 
 あの朝食の後、ウエールズ侯爵と会見した国王様が話をして下さったようで、早速その日のうちにウエールズ侯爵からの使いが我が家に来た。
 リリアン様直筆でどうぞ領地で静養に来て欲しいとの手紙を頂いたので、私は終えていた荷物を持ち、商人に換金してもらった全財産を持ち、ナナを連れてウエールズ領へやってきたのだった。
 もし、後から追放などの触れが来たとしても、すぐに行動出来るように二度と我が公爵家へ戻らなくてもいいような準備をして、さらにウエールズ侯爵様なら上手に隣国へ逃がしてくれそうな気もするし。
 ふふふ、完璧ね。
 と思いながらやってきたウエールズ領は素晴らしい土地だった。
 国の北方に位置し、春、夏の季節は短い。だから毛皮をとるための放牧業が盛んで、ウエールズ邸に到着するまでに緑の草原にたくさんのビッグホーンがいるのが見えた。
 野生のビッグホーンは大きくて危険だけど、家畜化されたビッグホーンは大人しく、毛皮が大量にとれて、肉も美味しいと聞いている。
 街から街への街道も綺麗に整備され、代替わりされてからウエールズ侯爵が領内改革に力を入れていると聞いていたので、なるほどなぁと感心するばかりだ。
 到着したウエールズ侯爵邸は王宮に劣らないほど美しく豪華で、侯爵様そのもののような気高い屋敷だった。
 
「そんなの断るの一択でしょう?」
 とリリアン様が言った。
「そうですね。私としましては……お断りしたいのですが……そうなるとエリザベス様のお怒りが我が家に……まだ幼い弟妹もおりますし」
「あなたがあの、クソを……おほほほ、皇太子を愛してるってんならそれでもいいわ。側室を持つって事も王族ならあるでしょうよ。あなたがそれでいいならいいわ。跡継ぎが必要なんですもの。でも、気の進まないあなたに無理強いするのは反対よ! ルミカを教育して王妃にすりゃあいいし、側室でもいいから王家に入りたい健康で子をたくさん産めそうな娘を探せばいいんだわ」
「エアリス嬢は素晴らしく優秀で、王妃教育も完璧だと言われているからな。王室としても離したくないのだろう。国一番の美姫でもある。王妃としての気品、頭脳、必要な物は完璧に揃っている」
 リリアン様にぴったりと寄り添って座っているガイラス様が言った。
「私など……」
「それに……これはまあ、噂なんだが」
「何ですの?」
 とリリアン様が食いついた。
「第二皇子のゼキアス様を知っているか?」
 とガイラス様が言い、リリアン様は残念そうに首を振った。 
「存じてますわ。たまに王室図書館でご一緒します。物静かな方ですが、とても頭の良い方ですわ。アレクサンダー様がご卒業された魔法学院でつぎの会長職におなりになって、学院の成績も優秀で魔法適性も抜群だとか」
「そうだ。ゼキアス様はまだ十六歳だが、その優れた頭脳と真面目な気質を推す第二皇子派閥があり、次期国王をゼキアス様にと望む声もある」
「そうなんですの? じゃあ、そのゼキアス様は皇太子よりは頼りになる感じですの?」
 リリアン様の問いに、
「私の口からはどうとも言えんな。ただゼキアス様のご生母は側室のリネア様で生まれの地位が低い。いくらゼキアス様の派閥が推しても、次期云々は無理だろうが……」
「でも皇太子がアレでしょう?」
 とリリアン様が言って、ガイラス様が噴き出した。
「リリアン、そういう事は思うだけにしておきなさい」

 そんな話をしながらお茶や菓子をいただいていると、イケメンの銀縁眼鏡の執事がやってきて、うやうやしく主人に来客を告げた。
「ゼキアス殿下がお見えになりました」

 ガイラス様はおやっという顔をし、リリアン様は金髪碧眼で超美少女なのに、うっひょ~~~面白くなってきたぜ! みたいな顔をして、私はどうか国外追放を言いつかってきたのでありますように、と思った。
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