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朝食
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部屋中に売れそうな物を引っ張りだし並べ、持って行くものは荷造りし、明日の朝一番に出入りの商人を呼んで換金する。
荷造りも、引っ張り出したドレスを部屋中に広げるのも、商人を呼ぶのも侍女のナナがやってくれて、自分はさっきペンを持ちたった数文字書いただけなんだけど、それだけで目一杯、もの凄く頭を使った気がする。さっきまでに死亡エンド回避するぞ! みたいな気持ちもすでに薄れてきている。
私には前世の記憶があって生きていく知恵はそこらの貴族のお嬢様よりはあるかもしれないけど、前世からものぐさでなるべく働きたくないでござる、だった。なるべく頑張って逃げたい気持ちはるけど、四回目ともなるとどうせ死んじゃうんでしょ的な気持ちもなくはない。
はっきり言って私はものぐさだ。
出来るだけ動きたくないから貴族の令嬢はうってつけだった。
もちろん、皇太子妃候補の為、厳しい王妃教育なるものを受けて勉強はしてきた。
私、勉強は嫌いじゃないし、言われたままに学ぶのはむしろ楽だった。
勉強さえしていれば送迎から着替え、湯浴み、食事の支度、全部やってくれてたからな。
歌も楽器も刺繍も嫌いじゃなく、やっていれば褒められるのだからほんと楽。
まあ王妃にまではなりたくなかったから、婚約破棄は全然いいんだけど。
机に向かって数文字書いて固まっている私にナナが、
「エアリス様、もうおやすみになられては?」
と言った。
「そうね、荷造りもしたし後は金目の物がいくらで売れるかよね。その後、どうしようかしらね」
ここで悶々と考えていてもしょうがないのは分かっている。
これまでの死因は盗賊に襲われたとか、人間関係のもつれで殺されたとか、死霊王の穢れに巻き込まれて死んだ、とかだから、私が今更それに対抗できる手段を持てるわけもなく、どうしたもんか……。
翌朝、私を起こしにきたは母親の手に握られた一通の書簡。
王妃であるエリザベス様から朝食を共にする為、朝一番で登城せよとの通達だった。
母親は青い顔で、父親はふてくされたような顔をしている。
私の処分が決まったのだろうな。
まあいつも通りの追放でしょうけど。
私はすぐさま飛び起きて、登城用のドレスに着替えた。
ナナには商人への対応を任せて、馬車に飛び乗った。
王宮へ到着し、王妃様へ拝謁を願うと、待ってましたとばかりによりによって王妃様が朝食を摂る間へと案内された。
そんでもって国王もいるし。
「エアリス・ゴールディ、ただいま参りました」
ドレスの裾をつまみ、丁寧に頭を下げる。
角度はもちろん、滞空時間、そしてなにより上品に、極上のカーテいついかなるいついかなる時でも完璧に行わなければならない。何度やってもどこからみても同じように。
これだけでも令嬢の品が上がり下がりするのだ。
「面をあげよ、エアリス、朝早くからご苦労」
と国王が言った。
「一緒に朝食をどうぞ」
と王妃様が言い、私は国王の食事を司る執事さんに椅子を勧められ、腰を下ろした。
皇太子妃候補だもん、そりゃ、一緒に食事もしたことあるよ。
目一杯仮面を被って、味なんか分からない。
毎回、上品に美しく食べるっていう競技に参加しているみたい。
「エアリス、昨夜の交流会ではアレクサンダーが信じられぬ振る舞いをしたそうだな」
「殿下は私との婚約を破棄すると仰いました」
「何てこと」
と言ったのは王妃様で綺麗な眉をひそめた。
「伯爵家の令嬢と遊び歩いているのは聞いていたけれど、それも学園内での事と思っておりましたわ。まさかその娘と婚約したいなどと言うのではないでしょうね」
王妃のエリザベス様はとても美しい方だ。白い肌とブラウンの豊かな髪の毛、そして赤い瞳、四大公爵家の中でも筆頭のゲオドラ家から嫁がれた方で、それはもう凄まじい権力と財力、人脈を持った方だ。
そして何よりアレクサンダー皇太子を溺愛しているので、今、目の前で怒ったような顔をしているのはきっと演技だろう。
私の手前、一応建前で怒っているようだけど、まあ、多分、許すだろうな。
それであのルミカ嬢と結婚させるだろう、と私はふんでいる。
皇太子妃候補は公、侯爵家から選ばれるのが常で、伯爵家では話にならないのだけど、ルミカ嬢をどこかの侯爵家へ養子に出すという手もある。
何てことを考えていたら、
「伯爵家の娘では王妃になる資格はありませんわ」
とエリザベス様が言った。
「エアリス、そなたとアレクサンダーが婚約を交わしたのはまだ八歳かそこらだな? それからそなたは実に立派に王妃教育を学んできた、その姿勢、我らにも届いておるぞ。アレクサンダーの言い分は通らぬぞ」
「恐れながら申し上げますが、国の平和、発展は最もですが、この後の国を率いていく殿下のお幸せが一番ではと。ですからお二人の幸せを」
「なんとそれではお前は婚約破棄を受け入れると言うの?」
王妃様が扇で口元を隠しながら言った。
「殿下の決定には従います」
ふふ、決まったな。国為に我が身を引いて、陰ながら殿下の幸せを……なんて健気な、ふふ。
荷造りも、引っ張り出したドレスを部屋中に広げるのも、商人を呼ぶのも侍女のナナがやってくれて、自分はさっきペンを持ちたった数文字書いただけなんだけど、それだけで目一杯、もの凄く頭を使った気がする。さっきまでに死亡エンド回避するぞ! みたいな気持ちもすでに薄れてきている。
私には前世の記憶があって生きていく知恵はそこらの貴族のお嬢様よりはあるかもしれないけど、前世からものぐさでなるべく働きたくないでござる、だった。なるべく頑張って逃げたい気持ちはるけど、四回目ともなるとどうせ死んじゃうんでしょ的な気持ちもなくはない。
はっきり言って私はものぐさだ。
出来るだけ動きたくないから貴族の令嬢はうってつけだった。
もちろん、皇太子妃候補の為、厳しい王妃教育なるものを受けて勉強はしてきた。
私、勉強は嫌いじゃないし、言われたままに学ぶのはむしろ楽だった。
勉強さえしていれば送迎から着替え、湯浴み、食事の支度、全部やってくれてたからな。
歌も楽器も刺繍も嫌いじゃなく、やっていれば褒められるのだからほんと楽。
まあ王妃にまではなりたくなかったから、婚約破棄は全然いいんだけど。
机に向かって数文字書いて固まっている私にナナが、
「エアリス様、もうおやすみになられては?」
と言った。
「そうね、荷造りもしたし後は金目の物がいくらで売れるかよね。その後、どうしようかしらね」
ここで悶々と考えていてもしょうがないのは分かっている。
これまでの死因は盗賊に襲われたとか、人間関係のもつれで殺されたとか、死霊王の穢れに巻き込まれて死んだ、とかだから、私が今更それに対抗できる手段を持てるわけもなく、どうしたもんか……。
翌朝、私を起こしにきたは母親の手に握られた一通の書簡。
王妃であるエリザベス様から朝食を共にする為、朝一番で登城せよとの通達だった。
母親は青い顔で、父親はふてくされたような顔をしている。
私の処分が決まったのだろうな。
まあいつも通りの追放でしょうけど。
私はすぐさま飛び起きて、登城用のドレスに着替えた。
ナナには商人への対応を任せて、馬車に飛び乗った。
王宮へ到着し、王妃様へ拝謁を願うと、待ってましたとばかりによりによって王妃様が朝食を摂る間へと案内された。
そんでもって国王もいるし。
「エアリス・ゴールディ、ただいま参りました」
ドレスの裾をつまみ、丁寧に頭を下げる。
角度はもちろん、滞空時間、そしてなにより上品に、極上のカーテいついかなるいついかなる時でも完璧に行わなければならない。何度やってもどこからみても同じように。
これだけでも令嬢の品が上がり下がりするのだ。
「面をあげよ、エアリス、朝早くからご苦労」
と国王が言った。
「一緒に朝食をどうぞ」
と王妃様が言い、私は国王の食事を司る執事さんに椅子を勧められ、腰を下ろした。
皇太子妃候補だもん、そりゃ、一緒に食事もしたことあるよ。
目一杯仮面を被って、味なんか分からない。
毎回、上品に美しく食べるっていう競技に参加しているみたい。
「エアリス、昨夜の交流会ではアレクサンダーが信じられぬ振る舞いをしたそうだな」
「殿下は私との婚約を破棄すると仰いました」
「何てこと」
と言ったのは王妃様で綺麗な眉をひそめた。
「伯爵家の令嬢と遊び歩いているのは聞いていたけれど、それも学園内での事と思っておりましたわ。まさかその娘と婚約したいなどと言うのではないでしょうね」
王妃のエリザベス様はとても美しい方だ。白い肌とブラウンの豊かな髪の毛、そして赤い瞳、四大公爵家の中でも筆頭のゲオドラ家から嫁がれた方で、それはもう凄まじい権力と財力、人脈を持った方だ。
そして何よりアレクサンダー皇太子を溺愛しているので、今、目の前で怒ったような顔をしているのはきっと演技だろう。
私の手前、一応建前で怒っているようだけど、まあ、多分、許すだろうな。
それであのルミカ嬢と結婚させるだろう、と私はふんでいる。
皇太子妃候補は公、侯爵家から選ばれるのが常で、伯爵家では話にならないのだけど、ルミカ嬢をどこかの侯爵家へ養子に出すという手もある。
何てことを考えていたら、
「伯爵家の娘では王妃になる資格はありませんわ」
とエリザベス様が言った。
「エアリス、そなたとアレクサンダーが婚約を交わしたのはまだ八歳かそこらだな? それからそなたは実に立派に王妃教育を学んできた、その姿勢、我らにも届いておるぞ。アレクサンダーの言い分は通らぬぞ」
「恐れながら申し上げますが、国の平和、発展は最もですが、この後の国を率いていく殿下のお幸せが一番ではと。ですからお二人の幸せを」
「なんとそれではお前は婚約破棄を受け入れると言うの?」
王妃様が扇で口元を隠しながら言った。
「殿下の決定には従います」
ふふ、決まったな。国為に我が身を引いて、陰ながら殿下の幸せを……なんて健気な、ふふ。
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