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誰が彼女を殺そうとしたか
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「ヴィンセント様、私、マリア様のお見舞いさせていただいてましたの」
と白薔薇が部屋に入ってきたヴィンセント皇子に言った。
「それは、ありがたいな。にぎやかにしていた方がマリアもいいだろう」
と言うヴィンセント皇子の後ろから顔を出したのはミス・アンバーだった。
「ミス・アンバー」
「マリア様、大変な目に遭われたそうで」
とマントを羽織ったままのミス・アンバーが言った。
「何故、ここへ?」
「夕べ、早馬でヴィンセント様が知らせて下さいました。私でも何かお役に立つかと駆けつけてまいりましたわ」
とミス・アンバーが言った。
「あ、そう」
なんだかヴィンセント皇子が嫌いになりそうだ。
普通、元カノを今カノの見舞いに寄越す?
クスッと笑うような声がした。
白薔薇が口元を押さえて、クスッとやりやがった。
性根の悪さは変わんねえな、おい。
あたしはパタンとベッドに横になった。
毛布を被って「寝る」と言うと、白薔薇はごきげんよう、と去って行き、ミス・アンバーが「それでは私がお側におります」と椅子に座った。
ヴィンセント皇子が「よろしく頼む」と言って去って行き、あたしとミス・アンバーの二人っきりになったわけだが。
「お怪我をされたとか……大丈夫ですか?」
「ええ、あなたもわざわざこんな所まで、申し訳ないですわね。ヴィンセント皇子も少し考えればいいのに」
こんな危険な状況にもう一人女子を増やすなんて。
ミス・アンバーはだって乙女だろうし、魔女のごちそうの選択肢増やしてどうすんだつうの。
「マリア様にはお話相手が必要ですわ。私ではよい知恵もありませんけど、お話を聞くくらいはできますわ」
とミス・アンバーが言った。
「そう……そうね。ではお聞きしたい事があるの。いい?」
あたしは身体を起こして、ミス・アンバーの方を向いた。
「何でしょう」
「あなた、ヴィンセント皇子と恋仲だったのでしょう? 身分違いで引き裂かれたと聞いたわ」
「それは……若い頃のお話ですわ。愛とか恋とか、そういう事がまだ分かっていなかった子供の頃のお話です。お母上を亡くされたヴィンセント様は王宮では心を開ける相手がいらっしゃらなくて、図書室で本を読んで過ごされる日が多かったのですわ。そこで私もヴィンセント様とお会いしたのです。数少ない友達でした」
ミス・アンバーはふふっと笑った。
「でも結婚を考えるような仲だったのでしょう?」
ミス・アンバーは少し戸惑ったような表情をした。
「それは……そのようなお言葉もいただきましたが、とても叶うとは思えません。身分が違いますもの」
「そう? お宅、男爵か何か爵位は賜っている家でしょう?」
「私の母は奥様付きのメイドでしたから」
「ああ」
貴族の体面からお手つきのメイドの産んだ子供を娘として迎え入れたが、身分としては低いのだろう。数多くある貴族達が望む皇太子妃の地位にミス・アンバーのような娘は不利なのには間違いない。
「ヴィセント皇子ならそんな世間体よりもあなたを選ぶと思うのだけど?」
ミス・アンバーは寂しそうににこりと笑った。
「ヴィセント様にはマリア様のような方が必要ですわ」
「そうかねぇ」
あたしはもう一度パタンとベッドに横になった。
ヴィンセント皇子があたしを殺して、ローレンス親子を犯人に仕立て上げ、邪魔者は全て追い払って、ミス・アンバーとめでたしめでたし、と言うローレンス皇子の言い分は最もだと思うんだけど。
そんな面倒くさい事するかな、とも思うんだ。
「ミス・アンバー、私は誰かに殺されかけたんですのよ」
と言うと、ミス・アンバーの顔がはっとなった。
「殺されかけた……だなんて、恐ろしい……一体誰がそんな……」
「容疑者はリベルタ様に白薔薇、ヴィンセント様にローレンス皇子」
「ヴィンセント様はあなたと婚約したばかりではありませんか!」
「そうね」
とあたしはうなずいた。
と白薔薇が部屋に入ってきたヴィンセント皇子に言った。
「それは、ありがたいな。にぎやかにしていた方がマリアもいいだろう」
と言うヴィンセント皇子の後ろから顔を出したのはミス・アンバーだった。
「ミス・アンバー」
「マリア様、大変な目に遭われたそうで」
とマントを羽織ったままのミス・アンバーが言った。
「何故、ここへ?」
「夕べ、早馬でヴィンセント様が知らせて下さいました。私でも何かお役に立つかと駆けつけてまいりましたわ」
とミス・アンバーが言った。
「あ、そう」
なんだかヴィンセント皇子が嫌いになりそうだ。
普通、元カノを今カノの見舞いに寄越す?
クスッと笑うような声がした。
白薔薇が口元を押さえて、クスッとやりやがった。
性根の悪さは変わんねえな、おい。
あたしはパタンとベッドに横になった。
毛布を被って「寝る」と言うと、白薔薇はごきげんよう、と去って行き、ミス・アンバーが「それでは私がお側におります」と椅子に座った。
ヴィンセント皇子が「よろしく頼む」と言って去って行き、あたしとミス・アンバーの二人っきりになったわけだが。
「お怪我をされたとか……大丈夫ですか?」
「ええ、あなたもわざわざこんな所まで、申し訳ないですわね。ヴィンセント皇子も少し考えればいいのに」
こんな危険な状況にもう一人女子を増やすなんて。
ミス・アンバーはだって乙女だろうし、魔女のごちそうの選択肢増やしてどうすんだつうの。
「マリア様にはお話相手が必要ですわ。私ではよい知恵もありませんけど、お話を聞くくらいはできますわ」
とミス・アンバーが言った。
「そう……そうね。ではお聞きしたい事があるの。いい?」
あたしは身体を起こして、ミス・アンバーの方を向いた。
「何でしょう」
「あなた、ヴィンセント皇子と恋仲だったのでしょう? 身分違いで引き裂かれたと聞いたわ」
「それは……若い頃のお話ですわ。愛とか恋とか、そういう事がまだ分かっていなかった子供の頃のお話です。お母上を亡くされたヴィンセント様は王宮では心を開ける相手がいらっしゃらなくて、図書室で本を読んで過ごされる日が多かったのですわ。そこで私もヴィンセント様とお会いしたのです。数少ない友達でした」
ミス・アンバーはふふっと笑った。
「でも結婚を考えるような仲だったのでしょう?」
ミス・アンバーは少し戸惑ったような表情をした。
「それは……そのようなお言葉もいただきましたが、とても叶うとは思えません。身分が違いますもの」
「そう? お宅、男爵か何か爵位は賜っている家でしょう?」
「私の母は奥様付きのメイドでしたから」
「ああ」
貴族の体面からお手つきのメイドの産んだ子供を娘として迎え入れたが、身分としては低いのだろう。数多くある貴族達が望む皇太子妃の地位にミス・アンバーのような娘は不利なのには間違いない。
「ヴィセント皇子ならそんな世間体よりもあなたを選ぶと思うのだけど?」
ミス・アンバーは寂しそうににこりと笑った。
「ヴィセント様にはマリア様のような方が必要ですわ」
「そうかねぇ」
あたしはもう一度パタンとベッドに横になった。
ヴィンセント皇子があたしを殺して、ローレンス親子を犯人に仕立て上げ、邪魔者は全て追い払って、ミス・アンバーとめでたしめでたし、と言うローレンス皇子の言い分は最もだと思うんだけど。
そんな面倒くさい事するかな、とも思うんだ。
「ミス・アンバー、私は誰かに殺されかけたんですのよ」
と言うと、ミス・アンバーの顔がはっとなった。
「殺されかけた……だなんて、恐ろしい……一体誰がそんな……」
「容疑者はリベルタ様に白薔薇、ヴィンセント様にローレンス皇子」
「ヴィンセント様はあなたと婚約したばかりではありませんか!」
「そうね」
とあたしはうなずいた。
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