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マリアと白薔薇
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そのすぐ直後、果梨奈先輩が不安そうな顔で姿を現した。
あたしはメイドに横になるから一人にするように言いつけた。
メイドが部屋を出て行くと果梨奈先輩は、
「真理亜、まさかと思うけど、ローレンスの言うことを信じちゃいないだろう?」
と言った。
「まさか、そんな事」
「ヴィンセントがあんたを殺そうなんてあるはずがない! あの子は!」
「でも先輩がヴィンセント皇子と別れた時、皇子はたった五歳だったんでしょ? どんな殺人鬼だって子供の頃は天使のようだと思うよ」
とあたしは言ってみた。
「真理亜!」
「だって……ヴィンセント皇子はあたしの事なんかなんとも思っちゃいないじゃん。ミス・アンバーと結婚するはずだったなんて知らなかった。聞いてない。あたしは結局、何なんだ。結婚したい女がいるなら、その女とするべきだ」
「だけどさ、あたし達の時代とは違うんだよ。身分の違いはどうにもならない。特に王族は」
でもあたしはあれ?と思った。
「けど、先輩だってただの村娘だったんでしょ? 国王に見初められたって聞いたよ。村娘と国王なんて身分違いもいいとこじゃん」
「あたしは……側室ってやつだったもん。あたしの前に正妃がいたんだよ。でもその人、子供が出来なくてね、あたしが先に妊娠して生まれたのは男の子だった。正妃様はいい方で、あたしの身分を上げてくださってね。いろいろあったんだけど、それであたしも次の正妃になれたんだよ」
「そうなんだ……でもそうやって何か手段はあるんじゃん。ヴィンセント皇子がミス・アンバーと結婚したいなら、どんな手を使ってもするべきだ。今回の事だって、彼女と頑張るべきだったんじゃないの? あたしは何か……戦隊物でいうなら追加戦士みたいなもんで、レギュラーのミス・アンバーにはかなわないよ」
「真理亜!!」
次に部屋の扉がノックされて、顔を出したのは白薔薇だった。
「ご機嫌いかがですか? マリア様」
「アミィ……ええ、どうもありがとう。大丈夫ですわ」
白薔薇は白い薔薇の花束を案内してきたメイドに手渡した。
白薔薇が白薔薇って……
「この白の薔薇園は素晴らしいですわね。手入れが良くて、どの薔薇も美しいですわ」
白薔薇はそう言ってから、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。
「怪我をなさいましたの?」
「いいえ、怪我はそれほど。すりむいたくらいですわ」
自分から聞いたくせに、白薔薇はあたしの言葉なんか耳に入っていない感じだった。
「マリア様、私、ローレンス様と婚約はいたしませんわ」
と言った。
「何で? あ、ローレンスがあたしに未練がありそうだっつう以外の回答でお願いね。そんな事はあり得ないし、あたしももうローレンス皇子の事は何とも思ってないから」
「まあ、そうですの……」
「でも気持ちは分かりましてよ? ローレンスは思ったほど魅力的じゃなかったんでしょう? 遊びに行くなら楽しいし、プレゼントもしてくれるけどそれだけでしょ? 皇子として国政に励むわけでもなし、ただ毎日ぷらぷらと遊ぶだけですものね。でも、あなたならそれでもうまくやっていけるのではなくて? フォスター家に咲いた百年ぶりの白薔薇ですもの。綺麗に着飾っていればよいのではないの? 例え国王が誰になろうが、あなたは白い薔薇を咲かせていればいいんですもの」
「それは……でも、私怖いんです」
「怖い?」
「ええ、私、リベルタ様が怖いんです」
「何故? どこが? あの方に何かされたの?」
白薔薇はもじもじとして言うか言うまいか悩んでいるようだった。
「私、見てしまったんです」
あたしはメイドに横になるから一人にするように言いつけた。
メイドが部屋を出て行くと果梨奈先輩は、
「真理亜、まさかと思うけど、ローレンスの言うことを信じちゃいないだろう?」
と言った。
「まさか、そんな事」
「ヴィンセントがあんたを殺そうなんてあるはずがない! あの子は!」
「でも先輩がヴィンセント皇子と別れた時、皇子はたった五歳だったんでしょ? どんな殺人鬼だって子供の頃は天使のようだと思うよ」
とあたしは言ってみた。
「真理亜!」
「だって……ヴィンセント皇子はあたしの事なんかなんとも思っちゃいないじゃん。ミス・アンバーと結婚するはずだったなんて知らなかった。聞いてない。あたしは結局、何なんだ。結婚したい女がいるなら、その女とするべきだ」
「だけどさ、あたし達の時代とは違うんだよ。身分の違いはどうにもならない。特に王族は」
でもあたしはあれ?と思った。
「けど、先輩だってただの村娘だったんでしょ? 国王に見初められたって聞いたよ。村娘と国王なんて身分違いもいいとこじゃん」
「あたしは……側室ってやつだったもん。あたしの前に正妃がいたんだよ。でもその人、子供が出来なくてね、あたしが先に妊娠して生まれたのは男の子だった。正妃様はいい方で、あたしの身分を上げてくださってね。いろいろあったんだけど、それであたしも次の正妃になれたんだよ」
「そうなんだ……でもそうやって何か手段はあるんじゃん。ヴィンセント皇子がミス・アンバーと結婚したいなら、どんな手を使ってもするべきだ。今回の事だって、彼女と頑張るべきだったんじゃないの? あたしは何か……戦隊物でいうなら追加戦士みたいなもんで、レギュラーのミス・アンバーにはかなわないよ」
「真理亜!!」
次に部屋の扉がノックされて、顔を出したのは白薔薇だった。
「ご機嫌いかがですか? マリア様」
「アミィ……ええ、どうもありがとう。大丈夫ですわ」
白薔薇は白い薔薇の花束を案内してきたメイドに手渡した。
白薔薇が白薔薇って……
「この白の薔薇園は素晴らしいですわね。手入れが良くて、どの薔薇も美しいですわ」
白薔薇はそう言ってから、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。
「怪我をなさいましたの?」
「いいえ、怪我はそれほど。すりむいたくらいですわ」
自分から聞いたくせに、白薔薇はあたしの言葉なんか耳に入っていない感じだった。
「マリア様、私、ローレンス様と婚約はいたしませんわ」
と言った。
「何で? あ、ローレンスがあたしに未練がありそうだっつう以外の回答でお願いね。そんな事はあり得ないし、あたしももうローレンス皇子の事は何とも思ってないから」
「まあ、そうですの……」
「でも気持ちは分かりましてよ? ローレンスは思ったほど魅力的じゃなかったんでしょう? 遊びに行くなら楽しいし、プレゼントもしてくれるけどそれだけでしょ? 皇子として国政に励むわけでもなし、ただ毎日ぷらぷらと遊ぶだけですものね。でも、あなたならそれでもうまくやっていけるのではなくて? フォスター家に咲いた百年ぶりの白薔薇ですもの。綺麗に着飾っていればよいのではないの? 例え国王が誰になろうが、あなたは白い薔薇を咲かせていればいいんですもの」
「それは……でも、私怖いんです」
「怖い?」
「ええ、私、リベルタ様が怖いんです」
「何故? どこが? あの方に何かされたの?」
白薔薇はもじもじとして言うか言うまいか悩んでいるようだった。
「私、見てしまったんです」
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