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絶体絶命

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 夜も更けて、夏だというのに冷たい石畳の廊下は寒々としてた。
 コツーン、コツーンと引き摺る足音だけが響いて一人で歩く夜の城は気味が悪い。
 こんな所、明日には出てってやる。
 家に戻ってやる。
 二度目の婚約破棄だ。
 ふざけんな、クソ皇子!!

(マリア~~~ごめんよ~~~)
「ギャーーーー! 先輩! びっくりした!! 暗闇からいきなり出て来んなっつうの!」
 目の前に急に果梨奈先輩の姿が浮かび上がり、先輩はおどろおどろしいようなすすり泣いてるような声で「ごめんよ~」と言ったのだ。
「ちょ、マジやめて、心臓止まるから! その姿!」

(うちの息子を許してやって~~~)
「いーよ、もう。白薔薇と婚約でも結婚でもすればいいじゃん」
(違うのよ。あの子が言ったのはそういう意味じゃ~~~)
「もう、いいってば。元々、皇太子妃候補なんて柄じゃないしね」
(マリア!)
  と先輩の焦ったような声を聞いた直後にあたしは口を塞がれて、そして目の前が真っ暗になった。

 プーンという嫌な羽音が聞こえて、あたしは顔を振った。
 あの嫌な眠れなくなる音、蚊の羽音だ。
 けど、顔を振った瞬間に何かが頭に当たった。
「いった!! 何、これ」
 目を開けても真っ暗で、何より身体が動かない。
 腕も足もきつく縛られているようだ。
「誰かいないのかよ! 助けろよ!」
 と叫んで見たけど、暗闇はシーンとしていてあたしの声だけが響いて消えた。

 あたしの身体は縛られていて、感覚からしてあお向けで寝ているようだ。
 少しずつ身体を動かしてみると、足首、膝、両腕を縛られている。
 身体にぴったりくらいの大きさの何か、箱か何かに入れられているみたいだ。
 と分かった瞬間に全身にぞぞっとした感覚が走った。
 縛られて横たわっているんだ。上から何か落っこちてきたら終わりじゃね?   
 身体を起こそうともがいてみても、縛られている手足がどうにもならない。

 犯人はあたしの意識を失わせてこんなとこに縛っておくような奴だ。
 殺意があってもおかしくない、むしろ、殺すつもりかもしれない。
 そう思うとじっとりと嫌な汗が出てくる。
 
 つまりはさ、絶体絶命って状態なわけだ。

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