元ヤンが転生したら悪役令嬢だったんだけど。喧嘩上等!?

猫又

文字の大きさ
上 下
18 / 56

肖像画

しおりを挟む
 あたしはその肖像画をもっと近くで見たくて、立ち上がった。
 奥の部屋は皇子のベッドルームで、大きなベッドがきちんとメイクされていた。
 かすかにお香のような香りがする。
 フカフカの絨毯、綺麗な刺繍のクッション、美しい調度品達。
 だけどその肖像画の女性はそれにもまして美しかった。
「それは母の絵だ」
 後ろから皇子の声がした。
「ヴィンセント様のお母様?」
「そうだ国王が宮廷画家に描かせた一枚だ。二十年前に病で亡くなった。私は五歳だったよ。すぐにリベルタが乗り込んできて、王妃になりローレンスが生まれた。王妃が母の絵を嫌ったから、国王は城にあった全ての母の肖像画を取り払わなければならなかった。多くは宝物蔵の中だが、これだけは私が気に入っていて、部屋に飾っているんだ」
「そうですか、とても綺麗な方」
 あたしはその肖像画の女性に見覚えがあった。
 
 何故、この人がヴィンセント皇子の母親として肖像画の中に残っているんだろう。
 この人は二十年も前に亡くなった前王妃様。
 でもこの人は……

「母上は元気のいい方でね。王妃らしい所はひとつもなかったよ。元々平民の出で、国王に見初められ、猛反対を押し切って王族に嫁いで来た。それはもう苦労の連続だったと思う。王の側近や文官、武官、貴族達が母を酷く馬鹿にして嫌っていたのは子供心に覚えている。だから私は人一倍学修し、身体を鍛え、武器を習い、馬にも乗った。美術品や宝石の事も学び、外国語も勉強した。母上を馬鹿にされないようにね。王妃の育ちが低いから皇子も使えない、と思われるのだけは嫌だったからね」
「そ、そうでしたか……」
「マリア?」
 皇子はあたしの背後から話していたのだけど、あたしの肩を掴んで自分の方へ振り向かせた。
 ぼろぼろこぼれる涙を止められない。
「マリア? 何故、泣く? 私に同情しているのか?」
「は、まさか! 全然、皇子の事なんかじゃない、これはあたしの事情で泣いてるだけだから。ほんと、全然皇子には関係ない」

 とてもじゃないけど皇子には話せるはずがない。
 ヴィセント皇子の母上の前王妃様が、前世でのあたしのレディース時代の果梨奈先輩だなんてさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど

七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。 あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。 そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど? 毎回視点が変わります。 一話の長さもそれぞれです。 なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。 最終話以外は全く同じ話です。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

婚約破棄された悪役令嬢ですが、闇魔法を手に聖女に復讐します

ごぶーまる
ファンタジー
突然身に覚えのない罪で、皇太子との婚約を破棄されてしまったアリシア。皇太子は、アリシアに嫌がらせをされたという、聖女マリアとの婚約を代わりに発表。 マリアが裏で手を引いたに違いないと判断したアリシアは、持ち前の闇魔法を使い、マリアへの報復を決意するが……? 読み切り短編です

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

婚約破棄に激怒したのはヒロイン!?

荷居人(にいと)
恋愛
魔法のiらんどでも公開中。 「貴様とは婚約破棄だ!」 やはりどう頑張ってもこうなるのだと私は変えられなかった未来に絶望した。生まれてすぐ転生したことに気がついて、前世やっていた乙女ゲームの悪役令嬢であったことを自覚し、未来の処刑回避に努力してもしても婚約は成立し、ヒロインを避けては通れないゲームの強制力。 せめて国外追放となるように抵抗しなければと思うのに声が、身体が震えて何一つ言い返せない。そんな中、その空気を打ち破ったのは私が処刑される理由となるヒロインだった。 「さっきから聞いてれば……ふざけないで!こんのバカ王子!」 「な………っ何を」 突然怒り出すヒロインに動揺する王子を気に止めることなく怒鳴り散らすヒロイン。これは一体どういうこと? 荷居人の婚約破棄シリーズついに第十弾! 今回のヒロインは悪役令嬢の味方!?しかし、このヒロインちょっとやばめ……危険香るヒロインと本来なら悪役令嬢になっていた繊細な転生令嬢による王子と王子側近たちの断罪物語。 一~九弾は荷居人タグで検索!番外編は常に連載中ですが、本編は完結済みです!

【完結済み】王子への断罪 〜ヒロインよりも酷いんだけど!〜

BBやっこ
恋愛
悪役令嬢もので王子の立ち位置ってワンパターンだよなあ。ひねりを加えられないかな?とショートショートで書こうとしたら、短編に。他の人物目線でも投稿できたらいいかな。ハッピーエンド希望。 断罪の舞台に立った令嬢、王子とともにいる女。そんなよくありそうで、変な方向に行く話。 ※ 【完結済み】

処理中です...