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ミス・アンバー

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 去って行く二人の背中を見送りながら、あたしはちょっとした事を考えてた。
 白薔薇とローレンス皇子の婚約をすぐにでも発表すると思ってたけど、どうもその話は止まっているらしく、そして、何よりも白薔薇が婚約にストップをかけていると言う話だった。
 それは何故か?
 
 次期国王確実だと踏んでいたローレンス皇子が危うくなってきたからだ。
 継承争いには興味のなかった地味で物静かな第一皇子が最近、やる気を出してきた、ともっぱらの噂だからだ。

 だがそれもただの噂だ。
 ローレンス皇子には王妃がついている。
 まだどちらが有利なのかは分からない。
 白薔薇はローレン皇子とも上手くやりながら、最近、こうして王宮へ顔を出してはリベルタ様やこともあろうにヴィンセント皇子にまで接近している様子だった。

 あたしは勉強が忙しくて、白薔薇の奸計に関わっている暇なんぞない。
 前世では勉強なんて大嫌いだったし、学校の先生も嫌いだったけど、何て言うか、勉強って面白いなぁ、と思うようになっていた。
 数学、国語、理科、社会、英語、もっと真面目に勉強しておけばよかったなぁ。

「マリア様、続けましょうか」
 と家庭教師のミス・アンバーが言って、腰を下ろした。
「ええ」
 ミス・アンバーは黒髪をきちっと結い上げて、銀縁の眼鏡をかけた賢そうな人だ。
 王立図書館の館長補佐という人で、もの凄く優秀な才女らしい。
 年齢は三十前と聞いたけど、未婚らしい。
 とにかく本が好きで、一生王立図書館に勤める覚悟だと言っていた。
 爵位を賜るような家柄の出だけど、どうも本人には結婚する気もないので、ぶっちゃけ宮廷ではこの人もヒソヒソされてる分類の人だ。
 とにかくこの世界の貴族の娘はいかに上流階級へ嫁ぐかが大きな問題らしいので。

 あたしはやれやれとまた羽ペンを持った。
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