18 / 21
吉本君2
しおりを挟む
吉本が殴られていた。
真夜中の廃墟だった。
女は般若のような顔でそれを見ている。
吉本を殴っているのは、まるでそういうエキストラがどこかで控えて出番を待っている役者達のようだ。金髪、アクセサリーじゃらじゃら、頭悪そう、最終学歴中卒、見える部分に入れ墨、弱者には強く、強者にはへつらう、そんな男が三人いた。
吉本は殴り返す事も出来ずに、ただ身体を丸めてじっとしているだけだ。
「余計なお世話だっつうの! ゴミの中身見るなっつったじゃん! で、何? あたしにお説教? あんた何様?」
女は怒り狂っている。
ゴミの中身の事で忠告を受けた女が怒り、悪い友人に頼んで制裁をくわえているのだ。
「いや……ただ、君の身体の事も心配で……それにあんな……可哀相な……」
と吉本は途切れ途切れに言った。
何発も殴られて、口の中も切れているのか、聞き取れない声でもごもごと言った。
「だーかーらーさー、あたしの勝手でしょ? あんたに何の関係があんの? 馬鹿なの? 死ねば?」
女はふわふわとした巻き毛を指でもてあそびながらそう言った。
三人の男はにやにやして与えられたおもちゃでただ遊んでいる。
殴り、蹴り、ナイフを取り出しては脅しながら吉本の頬や腹のあたりを切る。
火のついた煙草を男の肌にすりつける。
「ジュッ」と音がして煙草の火が消えた。
吉本が痛みに絶叫を上げたが、口にタオルを押しつけられて声にはならない。
ただじっと我慢するしかなかった。
「痛そ-」
と言いながらアキラが入ってきた。
「何だぁ? おらぁ」
と男の一人がアキラの方へすたすたと近づいて行く。
目の前に立ち、威嚇するようにアキラの顔のすぐ側に自分の顔を近づける。
その瞬間にアキラの手に握られていたナイフがすうっと男の薄い胸肉に突き刺さっていった。
「え、」と一人目が言った。
アキラのナイフはもろに心臓に突き刺さり、一人目はばたんと倒れた。
慌てた二人目が倒れた男の方へ駆け寄る。
「おい! おい!」
仲間を揺さぶってから死を確認して、顔を上げた。
その瞬間、アキラのナイフが二人目の首を真横にかき切った。
ぶしゃぁあと変な音がして、二人目は血を吹き出しながら倒れた。
「さ、さいじょうくん……」
と殴られていた吉本がつぶやいた。
顔色を変えた最後の男が煙草を投げ捨て、立ち上がった。
リーダー格らしく、大きな体格に太い腕、喧嘩なれしているような風格がある。
「何だ、てめえ!」
「ほーら、パパとママでちゅよ~~」
アキラがそう言って、ビニール袋の中のタオルの塊を男の方へ投げた。
ばさっとタオルが広がって、赤黒い小さな塊が空中を舞った。
女は「ひいっ」と言い、男の背後に隠れ、男はそれに注意を払いもしなかった。
床に倒れていた吉本が「わわっ」と言って、その塊を受け止めた。
つい身体が動いたという感じで、受け止めて改めて「うわ!」と叫んだ。
「へえ吉本君、いい奴じゃん」
とアキラが言うと、
「いや……でも……その、可哀相だし……赤ん坊には罪は……」
と吉本が言った。
「お前みたいないい奴がこんなゲスな女にいいようにされて世の中理不尽だな」
とアキラが言ったので、女は醜い顔をしてアキラを睨んだ。
「目撃者は面倒だから一緒にやっちまおうと思ったけど、どうしようかな」
アキラは頭をかいている。
そのアキラへ男がさっと走り寄ったと思うと、大きな拳で殴りかかってきた。
重そうな身体のわりに動きが敏捷だった。
アキラはしゅっと身体を縮めて、顔と腹を守るような素振りをした。
アキラの顔を殴りつけた男の動きが止まり、「ぐ」と唸った。
そして膝から崩れて落ちて、手をぶんぶんと大きく振った。
その拍子に男の拳から何かが外れて「カーン」と音をたてて落ちた。
「あはははは。痛かった?」
とアキラが笑った。それからすぐに二番目の男が持っていた鉄パイプで、蹲っている男の頭を滅多打ちにした。
頭はすぐに粉砕され、血と脳みそと粉々に割れた頭蓋骨がちらばった。
アキラは手を止めて女の方を見た。鉄パイプを投げ捨て、先ほど男の手から飛んで落ちた物を拾った。
それは小型の丸い剣山だった。
「ひいっ」と女が悲鳴を上げた。
吉本はひからびた嬰児の亡骸を抱いたまま、呆然とアキラを見ている。
真夜中の廃墟だった。
女は般若のような顔でそれを見ている。
吉本を殴っているのは、まるでそういうエキストラがどこかで控えて出番を待っている役者達のようだ。金髪、アクセサリーじゃらじゃら、頭悪そう、最終学歴中卒、見える部分に入れ墨、弱者には強く、強者にはへつらう、そんな男が三人いた。
吉本は殴り返す事も出来ずに、ただ身体を丸めてじっとしているだけだ。
「余計なお世話だっつうの! ゴミの中身見るなっつったじゃん! で、何? あたしにお説教? あんた何様?」
女は怒り狂っている。
ゴミの中身の事で忠告を受けた女が怒り、悪い友人に頼んで制裁をくわえているのだ。
「いや……ただ、君の身体の事も心配で……それにあんな……可哀相な……」
と吉本は途切れ途切れに言った。
何発も殴られて、口の中も切れているのか、聞き取れない声でもごもごと言った。
「だーかーらーさー、あたしの勝手でしょ? あんたに何の関係があんの? 馬鹿なの? 死ねば?」
女はふわふわとした巻き毛を指でもてあそびながらそう言った。
三人の男はにやにやして与えられたおもちゃでただ遊んでいる。
殴り、蹴り、ナイフを取り出しては脅しながら吉本の頬や腹のあたりを切る。
火のついた煙草を男の肌にすりつける。
「ジュッ」と音がして煙草の火が消えた。
吉本が痛みに絶叫を上げたが、口にタオルを押しつけられて声にはならない。
ただじっと我慢するしかなかった。
「痛そ-」
と言いながらアキラが入ってきた。
「何だぁ? おらぁ」
と男の一人がアキラの方へすたすたと近づいて行く。
目の前に立ち、威嚇するようにアキラの顔のすぐ側に自分の顔を近づける。
その瞬間にアキラの手に握られていたナイフがすうっと男の薄い胸肉に突き刺さっていった。
「え、」と一人目が言った。
アキラのナイフはもろに心臓に突き刺さり、一人目はばたんと倒れた。
慌てた二人目が倒れた男の方へ駆け寄る。
「おい! おい!」
仲間を揺さぶってから死を確認して、顔を上げた。
その瞬間、アキラのナイフが二人目の首を真横にかき切った。
ぶしゃぁあと変な音がして、二人目は血を吹き出しながら倒れた。
「さ、さいじょうくん……」
と殴られていた吉本がつぶやいた。
顔色を変えた最後の男が煙草を投げ捨て、立ち上がった。
リーダー格らしく、大きな体格に太い腕、喧嘩なれしているような風格がある。
「何だ、てめえ!」
「ほーら、パパとママでちゅよ~~」
アキラがそう言って、ビニール袋の中のタオルの塊を男の方へ投げた。
ばさっとタオルが広がって、赤黒い小さな塊が空中を舞った。
女は「ひいっ」と言い、男の背後に隠れ、男はそれに注意を払いもしなかった。
床に倒れていた吉本が「わわっ」と言って、その塊を受け止めた。
つい身体が動いたという感じで、受け止めて改めて「うわ!」と叫んだ。
「へえ吉本君、いい奴じゃん」
とアキラが言うと、
「いや……でも……その、可哀相だし……赤ん坊には罪は……」
と吉本が言った。
「お前みたいないい奴がこんなゲスな女にいいようにされて世の中理不尽だな」
とアキラが言ったので、女は醜い顔をしてアキラを睨んだ。
「目撃者は面倒だから一緒にやっちまおうと思ったけど、どうしようかな」
アキラは頭をかいている。
そのアキラへ男がさっと走り寄ったと思うと、大きな拳で殴りかかってきた。
重そうな身体のわりに動きが敏捷だった。
アキラはしゅっと身体を縮めて、顔と腹を守るような素振りをした。
アキラの顔を殴りつけた男の動きが止まり、「ぐ」と唸った。
そして膝から崩れて落ちて、手をぶんぶんと大きく振った。
その拍子に男の拳から何かが外れて「カーン」と音をたてて落ちた。
「あはははは。痛かった?」
とアキラが笑った。それからすぐに二番目の男が持っていた鉄パイプで、蹲っている男の頭を滅多打ちにした。
頭はすぐに粉砕され、血と脳みそと粉々に割れた頭蓋骨がちらばった。
アキラは手を止めて女の方を見た。鉄パイプを投げ捨て、先ほど男の手から飛んで落ちた物を拾った。
それは小型の丸い剣山だった。
「ひいっ」と女が悲鳴を上げた。
吉本はひからびた嬰児の亡骸を抱いたまま、呆然とアキラを見ている。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる