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ゴブリンキング
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ソフィアの発した巨大な聖魔法で辺り一帯の魔獣は消滅したり逃げ失せたりしたが、それはこの森全てを覆ったわけではかった。
学院より森から撤退せよとの命令が出ても皆がすぐに行動を起こせるものではなく森の奥深くまで足を踏み入れているパーティもたくさんあった。
いつもよりも活気ある魔獣達に手こずり、脱出出来ていない生徒達が多数いた。
学院の指導者達も手分けし救出に向かっているが、救いの手が届くまで持ちこたえられないパーティもかなりな数が苦戦している状況でもあった。
「とりあえず我々は戻りましょうか。エリオット、君のパーティはどうなったんだ?」
と言うローガンの問いに、
「さあ、伝令が来たと同時にばらばらになって逃げたしね。多分、魔獣どもの腹の中じゃないかな」
そう言って金髪碧眼の白い肌をした愛くるしい美少年は楽しげに笑った。
ソフィアは肩をすくめて、
「帰ろっか。エレナが無事だといいけど、あの子にはお仕置きの途中だしね。でも今日一日ここまでテクテクと歩いてきたのよね? また同じだけ歩いて帰るわけ? メアリ、いつかみたいに背中に乗っけてくれない?」
と言った。
「喜んで!」
大きな獣型のメアリがソフィアの前に姿を現しその尾をぶんぶんと振って喜びを現した。
しかし次の瞬間エリオットが「下がれ」と言い、メアリはそれに従い姿を消した。
がさがさっと音がして、よろよろと数人の生徒が藪を割って姿を現した。
先頭に出てきたのはクラスメイトのローラだった。
その後続いて、二人の男子生徒。帯剣して盾を持ち、マントには剣王学院の記章をつけている。
「ローラ」
とソフィアが言い、ローラは目を丸くしたと同時によろよろと倒れ込んだ。
「大丈夫かい?」
声をかけたローガンにローラはがくがくを首を振って肯定し、
「ロ、ローガン様、助けて下さい! 私達、魔獣に襲われて……ずっと」
ローラと共に逃げてきた男子生徒その場で転んで力尽きたように倒れ込んだ。
「に、逃げて……強いゴブリンキングが大勢いるんだ……とても敵わない……」
「ゴブリンか。いまいち知能が低くて、相手の力量構わず襲ってくる。集団で行動するから案外、自分よりも強いのでも何とかなったりするんだ。ローガン兄様や僕がいるのに突っ込んでくる馬鹿どもだ」
とエリオットが言った。
「ゴブリンは不味いから狩ってもしょうがないんだが、狩ると手に入る魔法石目当てでなり立ての冒険者にはいい相手なんですよ」
とローガンがソフィアに説明するように言った。
「そう」
とソフィアが言った瞬間にどどどどという足音と、ギャアギャアと喚く声や怒号が近づいてきてゴブリンキングの集団が藪をなぎ倒し姿を現した。
土色で大きな体躯、全身に筋肉もあり普通のゴブリンよりも遙かに強く残虐な性質。
異種間での交尾が可能で人間をさらって犯し、子供産ませる習性があるので質が悪い。
「うわわわわぁあああ」
逃げてきた生徒達は声を上げるだけで、腰を抜かしその場から動けない。
敵は自分の手で始末するのが信条のソフィアだが、これだけの数のゴブリンキングでは分が悪い、と攻撃魔法を意識した。
「エリオット!」
とローガンが言い、エリオットがソフィアを庇うように前に立ち、彼女の手を掴み、障壁の魔法を呟いた。
ローガン以外は結界の中で、ローガンは十数体のゴブリンキングを相手に走りだした。
「エリオット」
「聖魔法は使わない方が良いですよ。全魔法属性の魔術師なんて世界であなた一人でしょうから。すぐに王宮へ連行され偉大なる賢者として縛り付けられる事になる」
とエリオットが小声で言った。
ローラ達は結界の一番端っこでぶるぶると震えている。
「え?」
「あなたが聖魔法を使えば彼らは歴史の目撃者になる。彼らはそれを学院に報告する。学院は国へ。あなたが国家抱えの賢者になるならそれでいいですよ? だがそれが嫌ならあなたの秘密を守る為に、助けを求めてきた彼らの口を封じなければならない。彼らを殺せますか? 彼らはあなたの嫌いなクズかもしれないし、そうでないかもしれない」
「そんなたいそうなもんなの?」
「ええ、魔族を殺せる聖なる魔法は大聖女かその上の位の賢者しか使えないのです」
「知られたってどうってことないわ。あたしの敵は鏖よ」
とソフィアは言ったが、次にエリオットから来るセリフには予想がついていた。
「国家はあなたの友を平気で殺しますよ。あなたを手の内に置くためにはあなたが助けた聖女候補のレイラを人質にするでしょう」
「……」
「愚かな人間どもはレイラを殺した後であなたに鏖にされるでしょうが。残るのはあなただけ、レイラは戻らない。それを避けたければ国にはあなたが聖魔法を使える事は知られないのが平和な道ですよ。聖魔法は魔族に効くがそれだけじゃない、大地を癒やし、世界を癒やす偉大な魔法なのです」
ソフィアは唇を尖らせてゴブリンキングと戦っているローガンを見た。
「分かったわよ。聖魔法さえ使わなきゃいいんでしょ? 他のは使ってもいいんでしょ?」
そう言い終えた時にはソフィアは結界の外に出ていた。
怒り、退屈、プライド、何もかもがごっちゃになったソフィアの手の平にぽっと灯が灯る。それは次第に大きく強くなり、ソフィアが頭上に腕を掲げた時には巨大な火の弾になっていた。
「ローガン! どいて! ファイアボール!」
一瞬、閃光が炸裂し、四方八方が目も意識もくらむほどの熱量が大爆発した。
ローラ達にも酷く苦しい衝撃が襲いかかり、結界は消滅した。
ゴブリンキングはもちろん一匹も残らず、その辺り一帯はすべての物が消滅して消えた。
「あれでファイアボールって……あの魔力放出、メテオとかの間違いじゃないっすか?」
また地中からひょっこりと顔を出したメアリが言った。
学院より森から撤退せよとの命令が出ても皆がすぐに行動を起こせるものではなく森の奥深くまで足を踏み入れているパーティもたくさんあった。
いつもよりも活気ある魔獣達に手こずり、脱出出来ていない生徒達が多数いた。
学院の指導者達も手分けし救出に向かっているが、救いの手が届くまで持ちこたえられないパーティもかなりな数が苦戦している状況でもあった。
「とりあえず我々は戻りましょうか。エリオット、君のパーティはどうなったんだ?」
と言うローガンの問いに、
「さあ、伝令が来たと同時にばらばらになって逃げたしね。多分、魔獣どもの腹の中じゃないかな」
そう言って金髪碧眼の白い肌をした愛くるしい美少年は楽しげに笑った。
ソフィアは肩をすくめて、
「帰ろっか。エレナが無事だといいけど、あの子にはお仕置きの途中だしね。でも今日一日ここまでテクテクと歩いてきたのよね? また同じだけ歩いて帰るわけ? メアリ、いつかみたいに背中に乗っけてくれない?」
と言った。
「喜んで!」
大きな獣型のメアリがソフィアの前に姿を現しその尾をぶんぶんと振って喜びを現した。
しかし次の瞬間エリオットが「下がれ」と言い、メアリはそれに従い姿を消した。
がさがさっと音がして、よろよろと数人の生徒が藪を割って姿を現した。
先頭に出てきたのはクラスメイトのローラだった。
その後続いて、二人の男子生徒。帯剣して盾を持ち、マントには剣王学院の記章をつけている。
「ローラ」
とソフィアが言い、ローラは目を丸くしたと同時によろよろと倒れ込んだ。
「大丈夫かい?」
声をかけたローガンにローラはがくがくを首を振って肯定し、
「ロ、ローガン様、助けて下さい! 私達、魔獣に襲われて……ずっと」
ローラと共に逃げてきた男子生徒その場で転んで力尽きたように倒れ込んだ。
「に、逃げて……強いゴブリンキングが大勢いるんだ……とても敵わない……」
「ゴブリンか。いまいち知能が低くて、相手の力量構わず襲ってくる。集団で行動するから案外、自分よりも強いのでも何とかなったりするんだ。ローガン兄様や僕がいるのに突っ込んでくる馬鹿どもだ」
とエリオットが言った。
「ゴブリンは不味いから狩ってもしょうがないんだが、狩ると手に入る魔法石目当てでなり立ての冒険者にはいい相手なんですよ」
とローガンがソフィアに説明するように言った。
「そう」
とソフィアが言った瞬間にどどどどという足音と、ギャアギャアと喚く声や怒号が近づいてきてゴブリンキングの集団が藪をなぎ倒し姿を現した。
土色で大きな体躯、全身に筋肉もあり普通のゴブリンよりも遙かに強く残虐な性質。
異種間での交尾が可能で人間をさらって犯し、子供産ませる習性があるので質が悪い。
「うわわわわぁあああ」
逃げてきた生徒達は声を上げるだけで、腰を抜かしその場から動けない。
敵は自分の手で始末するのが信条のソフィアだが、これだけの数のゴブリンキングでは分が悪い、と攻撃魔法を意識した。
「エリオット!」
とローガンが言い、エリオットがソフィアを庇うように前に立ち、彼女の手を掴み、障壁の魔法を呟いた。
ローガン以外は結界の中で、ローガンは十数体のゴブリンキングを相手に走りだした。
「エリオット」
「聖魔法は使わない方が良いですよ。全魔法属性の魔術師なんて世界であなた一人でしょうから。すぐに王宮へ連行され偉大なる賢者として縛り付けられる事になる」
とエリオットが小声で言った。
ローラ達は結界の一番端っこでぶるぶると震えている。
「え?」
「あなたが聖魔法を使えば彼らは歴史の目撃者になる。彼らはそれを学院に報告する。学院は国へ。あなたが国家抱えの賢者になるならそれでいいですよ? だがそれが嫌ならあなたの秘密を守る為に、助けを求めてきた彼らの口を封じなければならない。彼らを殺せますか? 彼らはあなたの嫌いなクズかもしれないし、そうでないかもしれない」
「そんなたいそうなもんなの?」
「ええ、魔族を殺せる聖なる魔法は大聖女かその上の位の賢者しか使えないのです」
「知られたってどうってことないわ。あたしの敵は鏖よ」
とソフィアは言ったが、次にエリオットから来るセリフには予想がついていた。
「国家はあなたの友を平気で殺しますよ。あなたを手の内に置くためにはあなたが助けた聖女候補のレイラを人質にするでしょう」
「……」
「愚かな人間どもはレイラを殺した後であなたに鏖にされるでしょうが。残るのはあなただけ、レイラは戻らない。それを避けたければ国にはあなたが聖魔法を使える事は知られないのが平和な道ですよ。聖魔法は魔族に効くがそれだけじゃない、大地を癒やし、世界を癒やす偉大な魔法なのです」
ソフィアは唇を尖らせてゴブリンキングと戦っているローガンを見た。
「分かったわよ。聖魔法さえ使わなきゃいいんでしょ? 他のは使ってもいいんでしょ?」
そう言い終えた時にはソフィアは結界の外に出ていた。
怒り、退屈、プライド、何もかもがごっちゃになったソフィアの手の平にぽっと灯が灯る。それは次第に大きく強くなり、ソフィアが頭上に腕を掲げた時には巨大な火の弾になっていた。
「ローガン! どいて! ファイアボール!」
一瞬、閃光が炸裂し、四方八方が目も意識もくらむほどの熱量が大爆発した。
ローラ達にも酷く苦しい衝撃が襲いかかり、結界は消滅した。
ゴブリンキングはもちろん一匹も残らず、その辺り一帯はすべての物が消滅して消えた。
「あれでファイアボールって……あの魔力放出、メテオとかの間違いじゃないっすか?」
また地中からひょっこりと顔を出したメアリが言った。
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