54 / 59
キャンプ初日の夜
しおりを挟む
「今日はここで野営する」
指示された場所に到着するとリーダーを務めていたブライアンが言った。
魔獣が出る森林地帯は危険きわまりない土地だ。
だが将来、国軍騎士や宮廷魔術師を目指す学生達には修練の場であり、志願してここへ来た者は例え貴族であろうとも警護や使用人をつける事は反則だった。
だから荷解もテント設営も全て自分達でやらなければならない。
剣王学院の者は慣れた様子で荷を解き野営の準備をし始め、ソフィアとローガンも尖った石などない場所を選んだ。
手ぶらのソフィアとローガンに注目が集まる。
異空間からテントや毛布、食器、さらに調理された食料を取り出す。
はたまたテーブルに椅子まで取り出したので、皆の目が丸くなった。
「凄いな! そんな物まで入るのか!」
とブライアンが近寄ってきた。
マジックボックスはギフトという天からの贈り物、恩恵であり、滅多に現れない。
魔術師にしか現れず、さらにその維持に魔力を消費し容量が多いほど魔力を使う。
次々取り出すソフィアの荷物にパーティの面々は驚くばかりだ。
一番遅れて到着したのは手ぶらで歩くエレナと彼女の荷物を背負わされて疲労困憊のヘルマンとジョサムだった。
ソフィアとローガンは優雅に紅茶を飲み、それを剣王学院の生徒達にも振る舞っていた。
焼き菓子も持参し、焼きたての甘い香りが漂う。
それをみたエレナの顔色が真っ赤になり、ヘルマンとジョサムは疲れ果てて地面に尻餅をつくような格好で座り込んだ。
ソフィアはエレナを見たがふいっと横を向いた。
それがエレナのしゃくに障り、
「何をやってるの! さっさと私のテントを出しなさい! それに暖かいお茶を入れなさいよ!」
とヘルマンとジョサムに向かって怒鳴った。
「エレナ様……少しお待ちください」
ヘルマンとジョサムは背負っていた荷物を下ろした。
荷物の中からやかんや茶葉などを取り出すが、焦って手際が悪い。
ガチャガチャと音を立てながら水筒から水をやかんに注ごうとする彼らに、
「何をやっているの? 私の座る椅子は? それに足を洗って頂戴。疲れたからマッサージもね」
とエレナがまた怒鳴った。
学院では身分に上下もなく生徒は平等だが、四大公爵家の子息に対してはそれは通用せず、それが身に染みている下級貴族の子息達は媚びへつらうのが常だった。
「す、すみません、エレナ様」
ヘルマンとジョサムは中等部の生徒で、エレナよりも年上だが生まれながらの公爵令嬢である彼女には不平を漏らせるはずもない。
優雅に茶を飲むソフィアとローガンをちらっと見てため息をついた。
「火なら使うといい」
とブライアンが声をかけたので、ヘルマンは頭を下げてからやかんを手に火に近づいた。
「すみません」
剣王学院の生徒四人は火を中心に集まり、パンを食べたり干し肉を囓ったりしている。
ソフィアの出した小さめのテーブルにはポットとカップ、そして甘い匂いさせる焼き菓子が皿の上にあった。
ヘルマンはごくりと喉を鳴らしながらもやかんを火にかけた。
ソフィアがエレナを見ると、ジョサムがエレナのテントを出して組み立てていた。
エレナは文句を言いながら切り株に腰を下ろしている。
「大変ですわね。研修と名のつく学院の行事に参加しておきながら身の回りの事も人任せだなんて」
とソフィアが冷やかすように言った。
ヘルマンはちらっとソフィアを見たが、それには返事をしなかった。
「さて、ソフィア、我々も腹ごしらえをしておこうか」
と紅茶を飲み干したローガンが言い、立ち上がった。
「何を食べたい? 今日はたくさん歩いたから疲れただろう?」
「そうですね。お兄様の食べたい物でいいですわ、私、たくさん食材を持ってきました。もちろん、すぐに食べられる物もコックがたくさん持たせてくれたのですよ。うちのコックは私の為にたくさん美味しい物を作ってくれるんですの」
ソフィアがぱっと手を開くと、皿に乗ったままの大きな鳥の丸焼きが出てきた。こんがりと焦げて美味そうだ。
干し肉を囓っていたカイトがぴゅーっと口笛を吹いた。
「凄いね! 焼きたてじゃん、うまそー」
「良かったら一緒にいかがですか? まだまだありますから。他の人に道具も食材もお借りしなくても大丈夫なんですよ。私達」
とソフィアが笑った。
深夜、野営地では交代で見張りを置く。
どんな場所でもそれは冒険者パーティとしての決まり事で、学生の研修でも同じ事だ。
剣士と魔術師がコンビを組んで見張り、それ以外の者は身体を休める。
初日の夜、最初の見張りはカイトとエレナとジョサム、そしてローガン、レイジ、デリク組、三組目はブライアン、ソフィア、ヘルマンだった。
だが、最初の見張り番のジョサムが腹痛を訴え、それにブライアンが交代を申し出た。
夜は静かに通り過ぎ、魔獣も出現せず、深夜の寝ずの番は何事もなく交代していった。
三組目の番になり、ブライアンが再び見張りに立とうとした時、
「最初の時に出られなかったので、私が番をします」
とジョサムが顔を出した。
「体調はもう大丈夫なのか?」
「ええ、もうすっかり、ですので私が番に行きます」
「そうか、何かあったらすぐに起こしてくれよ」
とブライアンはジョサムの案を承諾した。
そしてジョサムは火の番をしているソフィアの後ろ姿に目をやった。
ヘルマンもテントから出てきて二人は顔を見合わせた。
「計画通りだな」
「ああ、やるぞ」
指示された場所に到着するとリーダーを務めていたブライアンが言った。
魔獣が出る森林地帯は危険きわまりない土地だ。
だが将来、国軍騎士や宮廷魔術師を目指す学生達には修練の場であり、志願してここへ来た者は例え貴族であろうとも警護や使用人をつける事は反則だった。
だから荷解もテント設営も全て自分達でやらなければならない。
剣王学院の者は慣れた様子で荷を解き野営の準備をし始め、ソフィアとローガンも尖った石などない場所を選んだ。
手ぶらのソフィアとローガンに注目が集まる。
異空間からテントや毛布、食器、さらに調理された食料を取り出す。
はたまたテーブルに椅子まで取り出したので、皆の目が丸くなった。
「凄いな! そんな物まで入るのか!」
とブライアンが近寄ってきた。
マジックボックスはギフトという天からの贈り物、恩恵であり、滅多に現れない。
魔術師にしか現れず、さらにその維持に魔力を消費し容量が多いほど魔力を使う。
次々取り出すソフィアの荷物にパーティの面々は驚くばかりだ。
一番遅れて到着したのは手ぶらで歩くエレナと彼女の荷物を背負わされて疲労困憊のヘルマンとジョサムだった。
ソフィアとローガンは優雅に紅茶を飲み、それを剣王学院の生徒達にも振る舞っていた。
焼き菓子も持参し、焼きたての甘い香りが漂う。
それをみたエレナの顔色が真っ赤になり、ヘルマンとジョサムは疲れ果てて地面に尻餅をつくような格好で座り込んだ。
ソフィアはエレナを見たがふいっと横を向いた。
それがエレナのしゃくに障り、
「何をやってるの! さっさと私のテントを出しなさい! それに暖かいお茶を入れなさいよ!」
とヘルマンとジョサムに向かって怒鳴った。
「エレナ様……少しお待ちください」
ヘルマンとジョサムは背負っていた荷物を下ろした。
荷物の中からやかんや茶葉などを取り出すが、焦って手際が悪い。
ガチャガチャと音を立てながら水筒から水をやかんに注ごうとする彼らに、
「何をやっているの? 私の座る椅子は? それに足を洗って頂戴。疲れたからマッサージもね」
とエレナがまた怒鳴った。
学院では身分に上下もなく生徒は平等だが、四大公爵家の子息に対してはそれは通用せず、それが身に染みている下級貴族の子息達は媚びへつらうのが常だった。
「す、すみません、エレナ様」
ヘルマンとジョサムは中等部の生徒で、エレナよりも年上だが生まれながらの公爵令嬢である彼女には不平を漏らせるはずもない。
優雅に茶を飲むソフィアとローガンをちらっと見てため息をついた。
「火なら使うといい」
とブライアンが声をかけたので、ヘルマンは頭を下げてからやかんを手に火に近づいた。
「すみません」
剣王学院の生徒四人は火を中心に集まり、パンを食べたり干し肉を囓ったりしている。
ソフィアの出した小さめのテーブルにはポットとカップ、そして甘い匂いさせる焼き菓子が皿の上にあった。
ヘルマンはごくりと喉を鳴らしながらもやかんを火にかけた。
ソフィアがエレナを見ると、ジョサムがエレナのテントを出して組み立てていた。
エレナは文句を言いながら切り株に腰を下ろしている。
「大変ですわね。研修と名のつく学院の行事に参加しておきながら身の回りの事も人任せだなんて」
とソフィアが冷やかすように言った。
ヘルマンはちらっとソフィアを見たが、それには返事をしなかった。
「さて、ソフィア、我々も腹ごしらえをしておこうか」
と紅茶を飲み干したローガンが言い、立ち上がった。
「何を食べたい? 今日はたくさん歩いたから疲れただろう?」
「そうですね。お兄様の食べたい物でいいですわ、私、たくさん食材を持ってきました。もちろん、すぐに食べられる物もコックがたくさん持たせてくれたのですよ。うちのコックは私の為にたくさん美味しい物を作ってくれるんですの」
ソフィアがぱっと手を開くと、皿に乗ったままの大きな鳥の丸焼きが出てきた。こんがりと焦げて美味そうだ。
干し肉を囓っていたカイトがぴゅーっと口笛を吹いた。
「凄いね! 焼きたてじゃん、うまそー」
「良かったら一緒にいかがですか? まだまだありますから。他の人に道具も食材もお借りしなくても大丈夫なんですよ。私達」
とソフィアが笑った。
深夜、野営地では交代で見張りを置く。
どんな場所でもそれは冒険者パーティとしての決まり事で、学生の研修でも同じ事だ。
剣士と魔術師がコンビを組んで見張り、それ以外の者は身体を休める。
初日の夜、最初の見張りはカイトとエレナとジョサム、そしてローガン、レイジ、デリク組、三組目はブライアン、ソフィア、ヘルマンだった。
だが、最初の見張り番のジョサムが腹痛を訴え、それにブライアンが交代を申し出た。
夜は静かに通り過ぎ、魔獣も出現せず、深夜の寝ずの番は何事もなく交代していった。
三組目の番になり、ブライアンが再び見張りに立とうとした時、
「最初の時に出られなかったので、私が番をします」
とジョサムが顔を出した。
「体調はもう大丈夫なのか?」
「ええ、もうすっかり、ですので私が番に行きます」
「そうか、何かあったらすぐに起こしてくれよ」
とブライアンはジョサムの案を承諾した。
そしてジョサムは火の番をしているソフィアの後ろ姿に目をやった。
ヘルマンもテントから出てきて二人は顔を見合わせた。
「計画通りだな」
「ああ、やるぞ」
28
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
転生したら乙ゲーのモブでした
おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。
登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。
主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です
本作はなろう様でも公開しています
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる