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道中
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三百名もいた生徒達は指示に従い森林の中でそれぞれに動きだし、すぐに他のパーティが視界からいなくなった。存在するのは自分の所属するパーティと時折がさがさと藪の中で動く小動物や魔物達。瘴気と魔素、そして森林の樹木が吐き出す湿気、空は木々で覆われ午前中だというのに暗く肌寒い。
「この辺りはまだ危険性も薄いな」
「そうだな」
パーティの先頭を歩いているブライアンとカイトが話している。
「去年は一番目のパーティが森へ入った瞬間に魔物に襲われて、先頭の剣士が腕を喰い千切られたそうだ」
「へえ、そいつは恐ろしいな……初等科の生徒には荷が重いんじゃないか。しかも女子では」
ちらっとカイトが後を振り返りながら言った。
「危険は承知のはずだし、学院の先生方も見回ってるはず、さらに、俺達が国軍騎士になった時には護衛の任務もある。それの訓練だと思えばいい」
とブライアンが言った。
「じゃあ、魔法学院の彼らを守りながらってわけ?」
「そうだ。回復や支援は彼らも出来るだろう。だが、戦いは我々の物だ。先生方が見回ってるとはいえ気を抜くなよ。レイジとデリクもいいな」
ブライアンがすぐ背後を歩く中等部の二人に声をかけた。
「了解っす」
少し離れて魔法学院のヘルマンとジョサムが左右からエレナを守るように歩いていた。
エレナはすでにぶつぶつと文句を言っている。
「足が痛いわ。寒いし。どうして私がこのような場所で野宿なんかしなければならないの。全てソフィアのせいなんだから! ソフィアがレイラを呼び戻したりするから、お姉様が……私にこんな面倒な事を! それに……マジックボックス持ちですって? そんなの嘘よ! 魔力もろくにないみそっかすの落ちこぼれのくせに……マジックボックスなんてレアなギフト、許せないわ……そうだ、ねえ、ヘルマン、ジョサム、あなた達、ソフィアを連れだしなさい」
「え?」
「今夜、野営するでしょ。あんた達、ソフィアを連れ出してどこかでめちゃめちゃにしてやりなさい。殴りつけて血の一滴でも流せばそれにつられて魔物が寄ってくるわ。あんな女、魔獣に食べられてしまえばいいのよ」」
「エレナ様……ですが、ローガン先輩が側に……最近じゃ学院内でローガン先輩はソフィアを虐めなくなったどころか、まるで彼女を守るような姿勢を見せてます」
「それがどうしたって言うの?! あなた達、誰の味方なの?」
「そ、それは、エレナ様の……」
「じゃ、やりなさいよ! いいわね! 私の思うように動けないなら、その旨、お父様に言いつけるわよ!」
これを言われてはたかが子爵や男爵家ではどうしようもない。
相手は四大公爵家の令嬢ヘルマンヘルマンとジョサムはただ黙って従うしかなかった。
ソフィアとローガンはそのエレナ達の後ろを歩いていた。
「お邪魔いたします。ソフィア様、ローガン様」
と囁く声がして、二人の足下の影がにょきっと動いた。
小さな影は盛り上がったが、二人の歩行に会わせて動く。
「どうした、メアリ」
とローガンが言い、
「え? メアリ、付いて来てるの?」
とソフィアが足下を見ながら行った。
「私はソフィア様のメイドでございますから、主人の行く先には必ずついてまいります」
「あっそ、それで何か用?」
「前方の三人がソフィア様を魔獣の餌にする相談をしておりましたので」
と影のメアリが言った。
「案外、つまらないですね」
とローガンが言った。
「でも、こんな危険指定区域の森で行方不明なんていかにもありそうだし、目の付け所は間違ってないわ。魔獣に喰わせれば、自分の手を汚さずに済むし後片付けも簡単じゃない?」
とソフィアが笑った。
「だが彼らは大事な事を忘れてますね」
「何?」
「他者を陥れる者は己がそうされても仕方がない。今夜、この森の魔獣達は人間を喰える幸運に恵まれた。国が立入禁止にしている為、普段はあまり人間は迷い込んでこない。来るのは人間界で暮らせない咎人ばかり。魂は黒く歪み、後ろ暗い生き方に身体は痩せ細り、薬物に冒されているか、酒で内臓を病んでいるかで、旨味もない。だが今宵は若い男と女がわんさか、森中を徘徊している。貴族の子供だから良い物を食し、肉も軟らかい。あやつらに誘い出されずとも、森中の魔獣がキャンプレッスンで迷い込んだ大勢の子供達を涎を垂れながら狙ってますよ」
ローガンは今すぐにでも自分が喰ってやりたいという風な表情をした。
「学院主催のキャンプなのにそんなに危険なの?」
「ここ自らの力量を覚悟しておかないと先がない。生半可な腕前で世に出てもすぐに魔獣の餌ですよ。このキャンプに来る時点で国の騎士団か宮廷魔道士か、戦う生き方を選んでますからね。まあ貴族の子息が多いので、学院も無駄に死なせたりはしないでしょうが」
「そっか、相手は正真正銘の魔物だもんね」
「魔物を討伐するというのは経験が一番に物を言うのですよ。どれだけ危険を乗り越え、魔物を倒したか。黒板の前で机に向かってるだけでは何の意味もない」
「まるで人間みたいな事を言うじゃない?」
とソフィアが言うと、ローガンはははっと笑った。
「この男を乗っ取って人間になりすましたが、食い物も美味く、寝床も清潔で素晴らしい。奪うか殺すか喰うかだけの生活だった我々には何もかもが新しく、学び吸収し、知識が蓄えられるのが面白い」
と言った。
「この辺りはまだ危険性も薄いな」
「そうだな」
パーティの先頭を歩いているブライアンとカイトが話している。
「去年は一番目のパーティが森へ入った瞬間に魔物に襲われて、先頭の剣士が腕を喰い千切られたそうだ」
「へえ、そいつは恐ろしいな……初等科の生徒には荷が重いんじゃないか。しかも女子では」
ちらっとカイトが後を振り返りながら言った。
「危険は承知のはずだし、学院の先生方も見回ってるはず、さらに、俺達が国軍騎士になった時には護衛の任務もある。それの訓練だと思えばいい」
とブライアンが言った。
「じゃあ、魔法学院の彼らを守りながらってわけ?」
「そうだ。回復や支援は彼らも出来るだろう。だが、戦いは我々の物だ。先生方が見回ってるとはいえ気を抜くなよ。レイジとデリクもいいな」
ブライアンがすぐ背後を歩く中等部の二人に声をかけた。
「了解っす」
少し離れて魔法学院のヘルマンとジョサムが左右からエレナを守るように歩いていた。
エレナはすでにぶつぶつと文句を言っている。
「足が痛いわ。寒いし。どうして私がこのような場所で野宿なんかしなければならないの。全てソフィアのせいなんだから! ソフィアがレイラを呼び戻したりするから、お姉様が……私にこんな面倒な事を! それに……マジックボックス持ちですって? そんなの嘘よ! 魔力もろくにないみそっかすの落ちこぼれのくせに……マジックボックスなんてレアなギフト、許せないわ……そうだ、ねえ、ヘルマン、ジョサム、あなた達、ソフィアを連れだしなさい」
「え?」
「今夜、野営するでしょ。あんた達、ソフィアを連れ出してどこかでめちゃめちゃにしてやりなさい。殴りつけて血の一滴でも流せばそれにつられて魔物が寄ってくるわ。あんな女、魔獣に食べられてしまえばいいのよ」」
「エレナ様……ですが、ローガン先輩が側に……最近じゃ学院内でローガン先輩はソフィアを虐めなくなったどころか、まるで彼女を守るような姿勢を見せてます」
「それがどうしたって言うの?! あなた達、誰の味方なの?」
「そ、それは、エレナ様の……」
「じゃ、やりなさいよ! いいわね! 私の思うように動けないなら、その旨、お父様に言いつけるわよ!」
これを言われてはたかが子爵や男爵家ではどうしようもない。
相手は四大公爵家の令嬢ヘルマンヘルマンとジョサムはただ黙って従うしかなかった。
ソフィアとローガンはそのエレナ達の後ろを歩いていた。
「お邪魔いたします。ソフィア様、ローガン様」
と囁く声がして、二人の足下の影がにょきっと動いた。
小さな影は盛り上がったが、二人の歩行に会わせて動く。
「どうした、メアリ」
とローガンが言い、
「え? メアリ、付いて来てるの?」
とソフィアが足下を見ながら行った。
「私はソフィア様のメイドでございますから、主人の行く先には必ずついてまいります」
「あっそ、それで何か用?」
「前方の三人がソフィア様を魔獣の餌にする相談をしておりましたので」
と影のメアリが言った。
「案外、つまらないですね」
とローガンが言った。
「でも、こんな危険指定区域の森で行方不明なんていかにもありそうだし、目の付け所は間違ってないわ。魔獣に喰わせれば、自分の手を汚さずに済むし後片付けも簡単じゃない?」
とソフィアが笑った。
「だが彼らは大事な事を忘れてますね」
「何?」
「他者を陥れる者は己がそうされても仕方がない。今夜、この森の魔獣達は人間を喰える幸運に恵まれた。国が立入禁止にしている為、普段はあまり人間は迷い込んでこない。来るのは人間界で暮らせない咎人ばかり。魂は黒く歪み、後ろ暗い生き方に身体は痩せ細り、薬物に冒されているか、酒で内臓を病んでいるかで、旨味もない。だが今宵は若い男と女がわんさか、森中を徘徊している。貴族の子供だから良い物を食し、肉も軟らかい。あやつらに誘い出されずとも、森中の魔獣がキャンプレッスンで迷い込んだ大勢の子供達を涎を垂れながら狙ってますよ」
ローガンは今すぐにでも自分が喰ってやりたいという風な表情をした。
「学院主催のキャンプなのにそんなに危険なの?」
「ここ自らの力量を覚悟しておかないと先がない。生半可な腕前で世に出てもすぐに魔獣の餌ですよ。このキャンプに来る時点で国の騎士団か宮廷魔道士か、戦う生き方を選んでますからね。まあ貴族の子息が多いので、学院も無駄に死なせたりはしないでしょうが」
「そっか、相手は正真正銘の魔物だもんね」
「魔物を討伐するというのは経験が一番に物を言うのですよ。どれだけ危険を乗り越え、魔物を倒したか。黒板の前で机に向かってるだけでは何の意味もない」
「まるで人間みたいな事を言うじゃない?」
とソフィアが言うと、ローガンはははっと笑った。
「この男を乗っ取って人間になりすましたが、食い物も美味く、寝床も清潔で素晴らしい。奪うか殺すか喰うかだけの生活だった我々には何もかもが新しく、学び吸収し、知識が蓄えられるのが面白い」
と言った。
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