5 / 63
眼球に羽ペンが突き刺さる
しおりを挟む
ソフィアは魔法学院初等部へ通っている。
この世界の魔法使いは魔力の潜在量で価値が決定される。
経験も必要だが、初等部へ通っていても軽く高等部並の、さらに教授並みの魔力を保持している者もいて、スキップで上へ上へと上がっていくので今、ソフィアと机を並べるのは似たり寄ったりの魔力を持つ子供ばかりだった。
中でもソフィアは魔力がゼロに等しく、初等部でも最下位の地位にいた。
そして母親がメイドというだけで元々のスタートが違い、さらに伯爵家でもお荷物ともなれば嫌われいじめられるのは必至。
貴族以外の庶民の子供は通う例もあるが、素晴らしい魔力を保持している、というのが前提だった。
「おっす!」
と教室へ入った途端に背中を叩かれ、体勢を崩したせいで落とした鞄を拾いながらソフィアはその相手を睨んだ。
クラス内ではまだ穏やかな方でソフィアのいじめに参加しない男子で名をオスカーと言う。
伯爵家よりも更に位の高い侯爵家の三男だとソフィアは記憶している。
だが参加しないだけで、見て見ぬ振りは同罪だとソフィアは考えていた。
「朝から辛気くさいな、お前。もう少し元気に登院出来な……」
ソフィアの鞄がオスカーの顔面を殴打し、今度はオスカーが尻餅をついた。
「おはよ」
と言ってソフィアは自分の席へと歩いた。
腰を抜かしたオスカーは酷く驚き、しばらく立ち上がれなかったが、クラスメイトが教室へ入って来たので慌てて立ち上がった。
「お前、どうしたんだ?」
ソフィアの机の側に立って声をかけると、ソフィアは面倒くさそうにオスカーを見て、
「何?」
と言った。
「いや、何って、なんか今日、違わないか」
ソフィアはふんと無視をして、ローガンに貰った小冊子を広げた。
熱心にそれを読む姿にオスカーは首を傾げて離れた。
次々に級友が教室へ入ってくるが、ソフィアに声をかける者はいない。
以前の記憶があるソフィアはどんなに自分がいじめられていたか知っていたし、級友の事も把握していた。
そしてそれは「今日はマージ先生が急用で一限目は自習です」と教頭が言って教室から去った瞬間に始まった。
「わぁ」と息を一限目の教科書を出していた生徒達はあちこちでしゃべり始めた。
もちろん真面目な生徒もいて、時間を無駄にしたくない生徒は教科書を読んだり、書き付けをしたりしているが大半の生徒は無駄口を叩き始めた。
そしてそれに飽きるとソフィアへのいじめが始まる。
ソフィアは熱心にローガンからもらった小冊子を読んだ。
魔法という言葉自体が面白い。
元のソフィアである美弥の世界には魔法、異世界は物語の中にしかなかった。
「でも別にパンがでるわけじゃないんだよね。水、火、氷は出るのか……凄い」
一人でぶつぶつと言っているソフィアの机をばんっと叩く手があったので、ソフィアは顔を上げた。
「ソフィア!」
机を叩いたのは初等部でも可愛いと評判のローラ・ブライト男爵令嬢だった。
ナタリーの金魚のフン的存在であることをソフィアは知っていた。
上からソフィアを見下ろしていかにも、いじめてやるわ! という雰囲気を出しているので、ソフィアは早速今読んだ魔法を試してみる事にした。
親切丁寧に魔力の練り方、それを詠唱に込める方法までローガンが書いてあるのでそれを素直に実証してみた。
ソフィアがぶつぶつと魔力を練っている間ローラは、
「あなた、いつまでこの学院に来ますの? 魔力もないし、メイドの子と同じ学院なんて外聞が悪いですわ。早く辞めていただきたいわ。あなたの顔、もう見たくないわ」
と言った。
「見たくないならこうやって構いに来ないで、見なければいいじゃん。ったくめんどうくさいったら」
「何ですって?! 口答えなんか生意気ね!」
ローラの手が上がり、ソフィアの髪の毛を掴んだ。
その瞬間にソフィアの手の平で練られた目に見えないエネルギーの固まりがぼんっと爆発した。それの余波でソフィアの机の上に出してあった羽ペンが真っ二つに折れ、ローラの右目に突き刺さっていた。
「ギャアアアアアアアアアア!」
ローラは悲鳴を上げて、顔を押さえた。
「あっれ、命中? ウケル。ちょっと爆発させてみただけなのに」
ソフィアはケッケッケと笑い、その爆発音でクラス中がシンとなり二人に注目した。
「痛い! 痛い! 誰か! 助けて!」
ローラは顔を押さえている。
「あっれ、治癒魔法とかなかったっけ?」
クラスの中はシンとして、ソフィアとローラを遠巻きに見ている。
ローラがソフィアをいじめるのはいつもの事だが、ソフィアがやり返すのは初めてなので、若干あっけにとられている。
「お前ら、しばらく眠ってろ!」
ソフィアの唱えた呪文でクラス中が眠りに落ちた。
ソフィアは立ち上がると、
「魔法なんて無駄だって思ってたけど、まあ、ちょっとは役に立つじゃん。でも実際やるのは自分の手に限るけど」
と言ってローラの身体を突き飛ばした。
視界の悪いローラはよろめいて後ろに倒れた。
「痛い……助けて……」
「魔法使えるんだろ? やり返してみなよ。魔王とか倒す為に魔法学院とかがある世界じゃなかったけ? こんな事でへこたれてたら魔王にやられちゃうよ?」
「あんた……こんな事して!」
「はあ? 何? もしかしてこの後の人生があんたにまだあると思ってんの? ここで息の根を止められるとか考えないの?」
途端にローラの目が怯えた。
「嘘……」
ソフィアはローラの髪の毛を掴んで、その突き刺さったペンをもっと奥の方までぐいぐいと押し込んだ。
「ぎゃあああああああああああああ」
この世界の魔法使いは魔力の潜在量で価値が決定される。
経験も必要だが、初等部へ通っていても軽く高等部並の、さらに教授並みの魔力を保持している者もいて、スキップで上へ上へと上がっていくので今、ソフィアと机を並べるのは似たり寄ったりの魔力を持つ子供ばかりだった。
中でもソフィアは魔力がゼロに等しく、初等部でも最下位の地位にいた。
そして母親がメイドというだけで元々のスタートが違い、さらに伯爵家でもお荷物ともなれば嫌われいじめられるのは必至。
貴族以外の庶民の子供は通う例もあるが、素晴らしい魔力を保持している、というのが前提だった。
「おっす!」
と教室へ入った途端に背中を叩かれ、体勢を崩したせいで落とした鞄を拾いながらソフィアはその相手を睨んだ。
クラス内ではまだ穏やかな方でソフィアのいじめに参加しない男子で名をオスカーと言う。
伯爵家よりも更に位の高い侯爵家の三男だとソフィアは記憶している。
だが参加しないだけで、見て見ぬ振りは同罪だとソフィアは考えていた。
「朝から辛気くさいな、お前。もう少し元気に登院出来な……」
ソフィアの鞄がオスカーの顔面を殴打し、今度はオスカーが尻餅をついた。
「おはよ」
と言ってソフィアは自分の席へと歩いた。
腰を抜かしたオスカーは酷く驚き、しばらく立ち上がれなかったが、クラスメイトが教室へ入って来たので慌てて立ち上がった。
「お前、どうしたんだ?」
ソフィアの机の側に立って声をかけると、ソフィアは面倒くさそうにオスカーを見て、
「何?」
と言った。
「いや、何って、なんか今日、違わないか」
ソフィアはふんと無視をして、ローガンに貰った小冊子を広げた。
熱心にそれを読む姿にオスカーは首を傾げて離れた。
次々に級友が教室へ入ってくるが、ソフィアに声をかける者はいない。
以前の記憶があるソフィアはどんなに自分がいじめられていたか知っていたし、級友の事も把握していた。
そしてそれは「今日はマージ先生が急用で一限目は自習です」と教頭が言って教室から去った瞬間に始まった。
「わぁ」と息を一限目の教科書を出していた生徒達はあちこちでしゃべり始めた。
もちろん真面目な生徒もいて、時間を無駄にしたくない生徒は教科書を読んだり、書き付けをしたりしているが大半の生徒は無駄口を叩き始めた。
そしてそれに飽きるとソフィアへのいじめが始まる。
ソフィアは熱心にローガンからもらった小冊子を読んだ。
魔法という言葉自体が面白い。
元のソフィアである美弥の世界には魔法、異世界は物語の中にしかなかった。
「でも別にパンがでるわけじゃないんだよね。水、火、氷は出るのか……凄い」
一人でぶつぶつと言っているソフィアの机をばんっと叩く手があったので、ソフィアは顔を上げた。
「ソフィア!」
机を叩いたのは初等部でも可愛いと評判のローラ・ブライト男爵令嬢だった。
ナタリーの金魚のフン的存在であることをソフィアは知っていた。
上からソフィアを見下ろしていかにも、いじめてやるわ! という雰囲気を出しているので、ソフィアは早速今読んだ魔法を試してみる事にした。
親切丁寧に魔力の練り方、それを詠唱に込める方法までローガンが書いてあるのでそれを素直に実証してみた。
ソフィアがぶつぶつと魔力を練っている間ローラは、
「あなた、いつまでこの学院に来ますの? 魔力もないし、メイドの子と同じ学院なんて外聞が悪いですわ。早く辞めていただきたいわ。あなたの顔、もう見たくないわ」
と言った。
「見たくないならこうやって構いに来ないで、見なければいいじゃん。ったくめんどうくさいったら」
「何ですって?! 口答えなんか生意気ね!」
ローラの手が上がり、ソフィアの髪の毛を掴んだ。
その瞬間にソフィアの手の平で練られた目に見えないエネルギーの固まりがぼんっと爆発した。それの余波でソフィアの机の上に出してあった羽ペンが真っ二つに折れ、ローラの右目に突き刺さっていた。
「ギャアアアアアアアアアア!」
ローラは悲鳴を上げて、顔を押さえた。
「あっれ、命中? ウケル。ちょっと爆発させてみただけなのに」
ソフィアはケッケッケと笑い、その爆発音でクラス中がシンとなり二人に注目した。
「痛い! 痛い! 誰か! 助けて!」
ローラは顔を押さえている。
「あっれ、治癒魔法とかなかったっけ?」
クラスの中はシンとして、ソフィアとローラを遠巻きに見ている。
ローラがソフィアをいじめるのはいつもの事だが、ソフィアがやり返すのは初めてなので、若干あっけにとられている。
「お前ら、しばらく眠ってろ!」
ソフィアの唱えた呪文でクラス中が眠りに落ちた。
ソフィアは立ち上がると、
「魔法なんて無駄だって思ってたけど、まあ、ちょっとは役に立つじゃん。でも実際やるのは自分の手に限るけど」
と言ってローラの身体を突き飛ばした。
視界の悪いローラはよろめいて後ろに倒れた。
「痛い……助けて……」
「魔法使えるんだろ? やり返してみなよ。魔王とか倒す為に魔法学院とかがある世界じゃなかったけ? こんな事でへこたれてたら魔王にやられちゃうよ?」
「あんた……こんな事して!」
「はあ? 何? もしかしてこの後の人生があんたにまだあると思ってんの? ここで息の根を止められるとか考えないの?」
途端にローラの目が怯えた。
「嘘……」
ソフィアはローラの髪の毛を掴んで、その突き刺さったペンをもっと奥の方までぐいぐいと押し込んだ。
「ぎゃあああああああああああああ」
11
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

[完結]裏切りの学園 〜親友・恋人・教師に葬られた学園マドンナの復讐
青空一夏
恋愛
高校時代、完璧な優等生であった七瀬凛(ななせ りん)は、親友・恋人・教師による壮絶な裏切りにより、人生を徹底的に破壊された。
彼女の家族は死に追いやられ、彼女自身も冤罪を着せられた挙げ句、刑務所に送られる。
「何もかも失った……」そう思った彼女だったが、獄中である人物の助けを受け、地獄から這い上がる。
数年後、凛は名前も身分も変え、復讐のために社会に舞い戻るのだが……
※全6話ぐらい。字数は一話あたり4000文字から5000文字です。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる