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アレクサンダーも眠れぬ時間を過ごしていた。
初めて心惹かれた美しい女性、アリシア。
だが自分は次期国王になる身、愛だ恋だと浮ついている場合ではない。
もし女性と心通わせる時が来るならば、それは王妃となるべき女性でなけばならない。
遠い国から強引に連れ去って来た女性にそれを望むのは酷であるし、窮屈な宮殿暮らし、プライベートはほとんどなく、二十四時間国政を考えていなければならない王の妻など嫌だろう。金と名誉目当ての女達には慣れているが、あんなにウブな女性は初めてだった。
「オルガー公国か……」
ベッドに寝転びそんな事を考えていた時、ふいに隣室から人の気配を感じた。
国王軍の指揮も兼任するアレクサンダーは若い頃には軍隊に身を置き鍛え上げた軍人でもある。就寝時でも殺した気配は敏感に察知し身構える。
そっと身体を起こし、ベッドの上から降りる。
隣室にはアリシアが一人で眠っている。
扉に近寄り、そっとドアを開く。
室内灯は薄暗いオレンジ色で室内を仄かに照らしているが、人の動きを見極めるのは難しい。目をこらすとゆっくりとした黒いモノがベッドに近づいていく。
このスイートルームのある階は借り切ってあるし、廊下にもホテル内外にも警護の者がいるはずだ。
その警護をかいくぐってきた者はプロの殺しを請け負う者だろう、とアレクサンダーは予測した。
狙いは自分だろうし、アリシアを傷つけるのだけは許さない。
アレクサンダーはそっと銀色の細身のナイフを構えた。
相手に気取られないうちが勝負だった。
黒いモノはベッドに近づきつつある。
ドアを開け、瞬時にナイフ相手に放つ、と同時に部屋に飛び込んで行く。
ナイフを察知した敵がそれを払いのけるのと、アレクサンダーがその敵に飛びつくのが同時だった。
天蓋のベッドの柱にアレクサンダーと敵の身体がもつれ合って激突した。
「きゃ!」
物音にアリシアが飛び起きた。
「アリシア!! 逃げろ!!」
「え?」
アリシアが何事かと目をこらすとベッドの下でアレクサンダーと黒ずくめの男がもつれあって互いの腕や顔を押さえつけようともがいていた。
「皇子!!」
「早く、逃げろ!! 逃げ」
「お、皇子!!」
アリシアは慌ててベッドから飛び降りて、外へ出る扉の方へ走った。
つもりだったが、その実は足はがくがくして少しも前に進まなかった。
「だ、誰か! 誰か! 皇子が!」
扉を開いて大声で叫ぶ。
廊下で警護をしていはずの者が二名、床に倒れていた。
「誰か!! 誰かいないんですか!」
アリシアは必死で叫んだ。
すぐにバタバタと音がして、足音が聞こえて来た。
先頭を走ってくるのはキャサリンの側近のグレンだった。
「アリシア様!!」
「皇子が襲われて!」
グレンが胸から銃を取り出すのと、部屋の中でダーン! という銃を撃ったような音がしたのが同時だった。
「アリシア様を安全な場所にお連れしろ!!」
部下にそう命じ、グレンが部屋に飛び込んだ。
アリシアも続いて行こうとしたが、後から来た警備の者に押しとどめられた。
「あ……皇子……皇子……今のは……」
アリシアは半狂乱のようになって部屋に行こうともがいたが、屈強な部下にがっちりと押さえられ身動きが出来なかった。
「こちらへ」
部下はアリシアを強引に連れ出し、アリシアは何度も振り返りながら部屋を後にした。
初めて心惹かれた美しい女性、アリシア。
だが自分は次期国王になる身、愛だ恋だと浮ついている場合ではない。
もし女性と心通わせる時が来るならば、それは王妃となるべき女性でなけばならない。
遠い国から強引に連れ去って来た女性にそれを望むのは酷であるし、窮屈な宮殿暮らし、プライベートはほとんどなく、二十四時間国政を考えていなければならない王の妻など嫌だろう。金と名誉目当ての女達には慣れているが、あんなにウブな女性は初めてだった。
「オルガー公国か……」
ベッドに寝転びそんな事を考えていた時、ふいに隣室から人の気配を感じた。
国王軍の指揮も兼任するアレクサンダーは若い頃には軍隊に身を置き鍛え上げた軍人でもある。就寝時でも殺した気配は敏感に察知し身構える。
そっと身体を起こし、ベッドの上から降りる。
隣室にはアリシアが一人で眠っている。
扉に近寄り、そっとドアを開く。
室内灯は薄暗いオレンジ色で室内を仄かに照らしているが、人の動きを見極めるのは難しい。目をこらすとゆっくりとした黒いモノがベッドに近づいていく。
このスイートルームのある階は借り切ってあるし、廊下にもホテル内外にも警護の者がいるはずだ。
その警護をかいくぐってきた者はプロの殺しを請け負う者だろう、とアレクサンダーは予測した。
狙いは自分だろうし、アリシアを傷つけるのだけは許さない。
アレクサンダーはそっと銀色の細身のナイフを構えた。
相手に気取られないうちが勝負だった。
黒いモノはベッドに近づきつつある。
ドアを開け、瞬時にナイフ相手に放つ、と同時に部屋に飛び込んで行く。
ナイフを察知した敵がそれを払いのけるのと、アレクサンダーがその敵に飛びつくのが同時だった。
天蓋のベッドの柱にアレクサンダーと敵の身体がもつれ合って激突した。
「きゃ!」
物音にアリシアが飛び起きた。
「アリシア!! 逃げろ!!」
「え?」
アリシアが何事かと目をこらすとベッドの下でアレクサンダーと黒ずくめの男がもつれあって互いの腕や顔を押さえつけようともがいていた。
「皇子!!」
「早く、逃げろ!! 逃げ」
「お、皇子!!」
アリシアは慌ててベッドから飛び降りて、外へ出る扉の方へ走った。
つもりだったが、その実は足はがくがくして少しも前に進まなかった。
「だ、誰か! 誰か! 皇子が!」
扉を開いて大声で叫ぶ。
廊下で警護をしていはずの者が二名、床に倒れていた。
「誰か!! 誰かいないんですか!」
アリシアは必死で叫んだ。
すぐにバタバタと音がして、足音が聞こえて来た。
先頭を走ってくるのはキャサリンの側近のグレンだった。
「アリシア様!!」
「皇子が襲われて!」
グレンが胸から銃を取り出すのと、部屋の中でダーン! という銃を撃ったような音がしたのが同時だった。
「アリシア様を安全な場所にお連れしろ!!」
部下にそう命じ、グレンが部屋に飛び込んだ。
アリシアも続いて行こうとしたが、後から来た警備の者に押しとどめられた。
「あ……皇子……皇子……今のは……」
アリシアは半狂乱のようになって部屋に行こうともがいたが、屈強な部下にがっちりと押さえられ身動きが出来なかった。
「こちらへ」
部下はアリシアを強引に連れ出し、アリシアは何度も振り返りながら部屋を後にした。
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