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アクアル国は島国で、自然の豊かなたいそう美しい国だった。
エーゲ海にあると言うだけでその存在と価値観は推してはかるべきだが、更に世界一のダイヤモンド産出国で、非常に豊かな国だ。
アレクサンダーに連れられジェット機を降りたアリシアは冬だというのに暖かい空気にほっと息をした。
すぐにでも官憲が走ってきてアリシアを捕まえるのでは、と彼女は身体を堅くした。
だがアレクサンダーは空港に出迎えに来ていたリムジンにアリシアを連れて乗り込んだ。
「何て美しいの……」
近代化された市街をリムジンは走り抜けたが、その美しい街並みにアリシアは感嘆の声を上げた。
このような美しい外国へ来たのは生まれて初めてだった。
モデルをしていたアンナがたびたび海外へ出かけて行っていたのは知っている。
アンナは自分で稼いだお金はすべてバカンスか美容の為に使い切り、アリシアに援助を求めてくることすらあった。教師の給料で母親の病院代や生活費、父親の残した借金を賄うので精一杯で、アリシア自身はバカンスに出かけた事など一度もなかった。
外国の見知らぬ道をリムジンで走るだけで、アリシアは胸が高まった。
アンナの為に例え何かしらの罪の問われるとしても、このような美しい国を一目見られた事はアリシアの記憶の隅に一片の美しい映像を留める事が出来たのだ。
「間もなく宮殿に着く」
とアレクサンダーが言った。
アリシアが窓の外に目をやると大きな門扉が開かれ、リムジンは吸い込まれるようにその中へ入り込んでいった。
「まあ」
城の敷地内を走っているというのに、まるでどこかの深い森の中でいるように樹木が生い茂っている。素晴らしい緑の庭園がいったいどこまで続くのだろう、アリシアはその樹木を目に焼き付けておこうとじっと見つめた。
長く緩やかなカーブを何度も繰り返し、樹木の間を走り抜けてようやくリムジンが辿り着いた先には映像でしか見た事のないような豪華で美しい城がそびえ立っていた。
「素敵」
アリシアの瞳がますます輝く。
「君の名を騙った妹も生まれて初めて見る城に顔を真っ赤にしていたよ。王族と結婚などと思い上がった事を思わなければ友人としてこれからも招かれる機会はあっただろうな。君も含めて」
とアレクサンダーが冷たく言った。
田舎から出てきて初めて見る本物の王宮に頬を赤らめる娘への侮蔑の言葉はアリシアの感動を叩き潰した。
「……」
アリシアはそれに答えず、また窓の外に目をやった。
言葉を発すればきっとこぼれるだろう涙を一生懸命堪えていた。
「あの……私を牢獄に?……」
しばらくして、アリシアはようやくそれだけ言うことができた。
アレクサンダーはじろっと無遠慮な視線でアリシアを見て、
「それも考えた。だが君を牢獄に繋いだり、死刑にしたところで君の身を案じて妹が名乗り出るかな? 姉の名前を騙って詐欺をするような人間だ。むしろ地球の反対側まで逃亡するかもしれない。だからそれよりも効果的な手段を考えた」
と言ってニヤリと笑った。
「え?」
やがてリムジンは止まり、尊大な態度でアレクサンダーが車から降りると、彼を待っていた部下や使用人達が一斉に頭を下げた。
「グレン、しばらく滞在する客だ。葬式の後の辛気くさい服は着替えさせろ」
側近にそれだけ言うとアレクサンダーはアリシアに見向きもせずに立ち去った。
残されたアリシアは自分のバッグをただ握りしめているだけだった。
エーゲ海にあると言うだけでその存在と価値観は推してはかるべきだが、更に世界一のダイヤモンド産出国で、非常に豊かな国だ。
アレクサンダーに連れられジェット機を降りたアリシアは冬だというのに暖かい空気にほっと息をした。
すぐにでも官憲が走ってきてアリシアを捕まえるのでは、と彼女は身体を堅くした。
だがアレクサンダーは空港に出迎えに来ていたリムジンにアリシアを連れて乗り込んだ。
「何て美しいの……」
近代化された市街をリムジンは走り抜けたが、その美しい街並みにアリシアは感嘆の声を上げた。
このような美しい外国へ来たのは生まれて初めてだった。
モデルをしていたアンナがたびたび海外へ出かけて行っていたのは知っている。
アンナは自分で稼いだお金はすべてバカンスか美容の為に使い切り、アリシアに援助を求めてくることすらあった。教師の給料で母親の病院代や生活費、父親の残した借金を賄うので精一杯で、アリシア自身はバカンスに出かけた事など一度もなかった。
外国の見知らぬ道をリムジンで走るだけで、アリシアは胸が高まった。
アンナの為に例え何かしらの罪の問われるとしても、このような美しい国を一目見られた事はアリシアの記憶の隅に一片の美しい映像を留める事が出来たのだ。
「間もなく宮殿に着く」
とアレクサンダーが言った。
アリシアが窓の外に目をやると大きな門扉が開かれ、リムジンは吸い込まれるようにその中へ入り込んでいった。
「まあ」
城の敷地内を走っているというのに、まるでどこかの深い森の中でいるように樹木が生い茂っている。素晴らしい緑の庭園がいったいどこまで続くのだろう、アリシアはその樹木を目に焼き付けておこうとじっと見つめた。
長く緩やかなカーブを何度も繰り返し、樹木の間を走り抜けてようやくリムジンが辿り着いた先には映像でしか見た事のないような豪華で美しい城がそびえ立っていた。
「素敵」
アリシアの瞳がますます輝く。
「君の名を騙った妹も生まれて初めて見る城に顔を真っ赤にしていたよ。王族と結婚などと思い上がった事を思わなければ友人としてこれからも招かれる機会はあっただろうな。君も含めて」
とアレクサンダーが冷たく言った。
田舎から出てきて初めて見る本物の王宮に頬を赤らめる娘への侮蔑の言葉はアリシアの感動を叩き潰した。
「……」
アリシアはそれに答えず、また窓の外に目をやった。
言葉を発すればきっとこぼれるだろう涙を一生懸命堪えていた。
「あの……私を牢獄に?……」
しばらくして、アリシアはようやくそれだけ言うことができた。
アレクサンダーはじろっと無遠慮な視線でアリシアを見て、
「それも考えた。だが君を牢獄に繋いだり、死刑にしたところで君の身を案じて妹が名乗り出るかな? 姉の名前を騙って詐欺をするような人間だ。むしろ地球の反対側まで逃亡するかもしれない。だからそれよりも効果的な手段を考えた」
と言ってニヤリと笑った。
「え?」
やがてリムジンは止まり、尊大な態度でアレクサンダーが車から降りると、彼を待っていた部下や使用人達が一斉に頭を下げた。
「グレン、しばらく滞在する客だ。葬式の後の辛気くさい服は着替えさせろ」
側近にそれだけ言うとアレクサンダーはアリシアに見向きもせずに立ち去った。
残されたアリシアは自分のバッグをただ握りしめているだけだった。
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