24 / 33
快感
しおりを挟むなんちゃって。
すっかり悲劇のヒロイン気取りか、と美里は笑った。
正直な気持ち、藤堂の事は愛だの恋だのという感情はなかった。
藤堂に限らず誰に対しても美里は恋愛感情なんて持たない。持てない。
恋なんかしたことがないというのが本当の所だ。
男性とつきあった事はあるが、それは恋ではない。人並みの生活を送る上での処置にすぎない。人並みに働き、人並みに彼氏がいて、人並みにオシャレをして、人並みな事に興味を持っていれば、目立たないからだ。
そうすれば美里は若い女の子の群れに隠れることができる。
この街へ来る前、美里は彼氏を探す適齢期の女の子だった。
適齢期の女の子は挑発的な服装を着てフェロモンをぷんぷん発しながら、街を歩く。
身体の線を強調して、あまり賢くないように、話の内容はブランド物の事かオシャレなカフェの事。夜の街で格好いい車の乗った低学歴の男を捕まえては、どこかへ消える。
その男は翌朝の新聞の片隅に変死体として報道される。
低学歴で定収入、セックスの事しか頭にない下品な男は狭い車の中で鼻息荒く粘着質な視線でにじり寄ってくる。ホテル代を払うのが惜しいのか、金がないのか、たいていは車の中ですまそうとする。
荒れた肌のニキビをぼりぼりとかきながら、美里を上から下まで見る。そして、女は強引にやられれば実は喜ぶというような伝説を信じ、ネットで集めた眉唾な情報を実践しようとする。
車の中で下着姿になれと言ったり、不潔そうな粗末な物を出してくわえろと脅してきたり、こちらがおとなしくしていると要求は際限なくエスカレートする。
もちろん偉そうに命令した時点で美里はすぐに行動に移すことにしている。
最初に目をつぶすだけだ。シャーペンでも、アイスピックでもいい。
自分の二本の指なら感触も楽しめる。尖った物で、狙いさえ外さなければいいのだ。
大音量でかかっている音楽が男の絶叫を隠してくれる。
狭い車内ではあまり身動きがとれないので、小さな武器が有効だ。通販で買ったメリケンサックで滅多打ちにしてやればすぐにおとなしくなる。滅多打ちは爽快感があるが、血で汚れるのが難だ。血液は洗っても落ちないしね。
家まで帰る道のりを考えると、血まみれになるのはなかなか実行に移すのが面倒だ。
頭蓋骨が割れて粉々になると、それまで伸びていた皮膚がぎゅっと収縮する。
そして破れた皮膚から脳みそや血がどろっとでる。
それを見るのが好きだ。破壊は楽しいが、力仕事だ。
その後の完成品を見るのがたまらない。黒い血もどろどろした脳みそも、砕けた骨も。
ぴくりとも動かなくなった時点で興味がなくなるので、ほんの一瞬のエクスタシーだ。
この一瞬の為に美里は破壊する。
美里は趣味を楽しむ事が一番熱心で、恋をする事にはあまり興味がない。身なりを整えるのは怪しまれない為の準備に過ぎない。誰だって綺麗な女の子の方が警戒は薄く、近づき易い。だから頻繁に美容院にも行くし、洋服にも気を遣う。
ジムへ行って身体を鍛えたり、主に使うのは日曜大工道具なので、週末にはそれを探しに出かけたり、ネットショッピングしたり。道具は使い捨てる。だから次々に新しい道具を探している。
しかし美里は藤堂にすっかり心奪われてしまった。
妹の敵をとりたいが為に殺人鬼に愛の告白をするなんて。
そしてその正体は人肉パティシエだなんて。
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
FLY ME TO THE MOON
如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!
おシタイしております
橘 金春
ホラー
20××年の8月7日、S県のK駅交番前に男性の生首が遺棄される事件が発生した。
その事件を皮切りに、凶悪犯を標的にした生首遺棄事件が連続して発生。
捜査線上に浮かんだ犯人像は、あまりにも非現実的な存在だった。
見つからない犯人、謎の怪奇現象に難航する捜査。
だが刑事の十束(とつか)の前に二人の少女が現れたことから、事態は一変する。
十束と少女達は模倣犯を捕らえるため、共に協力することになったが、少女達に残された時間には限りがあり――。
「もしも間に合わないときは、私を殺してくださいね」
十束と少女達は模倣犯を捕らえることができるのか。
そして、十束は少女との約束を守れるのか。
さえないアラフォー刑事 十束(とつか)と訳あり美少女達とのボーイ(?)・ミーツ・ガール物語。
真夜中の訪問者
星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。
※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。
扉をあけて
渡波みずき
ホラー
キャンプ場でアルバイトをはじめた翠は、男の子らしき人影を目撃したことから、先輩の中村に、ここは"出る"と教えられる。戦々恐々としながらもバイトを続けていたが、ひとりでいるとき、その男の子らしき声がして──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる