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恋人役
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るりかの写真を見てみどりちゃんを思い出した。今、街のあちこちにるりかの顔写真が貼られてある。るりかの目玉デザートが市長夫妻にふるまわれてからもう一ヶ月になる。
るりかの両親が心配して、尋ね人のようなチラシを作って配ったり、貼ったりしている。
美奈子も表面上は沈んだ面持ちで義両親とともにるりかの行方を気にしていた。
何をしてもるりかはもう二度と顔を見せる事はないのだが、るりかの両親は藤堂にあることを願い出た。
「どうかるりかと結婚すると言ってください。藤堂さんのその言葉を聞けばるりかも戻ってくるはずですから」
藤堂は目の玉が飛び出るほど驚いたような顔をしているし、美奈子は手で口元を覆った。 美里は両手に大きなゴミ袋を持っていたのだが、それを床に落としてしまった。
店は閉店したばかりだった。八時までのパートさんはすでに帰っている。八時半まで勤務の美里と藤堂の二人で店じまいをしていたところに、美奈子がるりかの失踪後ずいぶんと老けた義両親を連れてやってきたのだった。
「それは……お気の毒ですが」
と藤堂が言い始めた瞬間、るりかの母親は土下座する勢いで藤堂にすがりついた。
「お願いします! お願いします!」
「お義母さん……いくらなんでも」
と美奈子が呆れ顔で言った。
「藤堂さんがるりかと結婚さえしてくれたら! 財産はすべて差し上げます!」
と母親の言葉に美奈子がむっとなる。
「ちょ、お義母さん……財産すべてって」
「あなたは黙ってて!」
「うちの人の取り分はどうなるんですか?」
「あなたはるりかが心配じゃないの? やっぱりうちの財産目当てなのね! るりかの言ったとおりだったわ……」
「お義母さん! いくらなんでも!」
ゴミを捨てに行きたいんですけど、と思いながら、美里は大きなゴミ袋を二つ下げたまま突っ立っていた。
「お断りします」
と二人の間を割ったのは藤堂だった。
「藤堂さん……」
「るりかさんが行方不明なのはお聞きしましたし、さぞご心配でしょうけど、結婚の話は無理でしょう」
「藤堂さん! お願いします。嘘でもいいんです! そういうことにしてニュースに流してもらえば、どこかでそれを耳にしてるりかが戻ってくると思うんです」
「そんなのオーナーに迷惑ですよ、お義母さん! ね、オーナー」
と美奈子。
「ええ、まあ」
「それにオーナーにはもう決まった人がいるんです! 恋人が! るりかさんじゃないちゃんとした恋人が!」
「……」
るりかの母親は一瞬戸惑って、
「るりかがちゃんとしていないって言うの!? 美奈子さん!」
と叫んだ。
「いえ、そうじゃないですけど……ねえ、美里さん!」
「はあ?」
突然、美奈子に話題を振り分けられ美里は慌てた。るりかの母親が美里を見た。
「あなた……西条さん、藤堂さんの恋人ってあなた?」
「へ」
美里は慌ててかぶりを振ろうとぶんぶんと頭を動かしたところで、
「そうなんです」
と言ったのは藤堂だった。
「彼女とは結婚を前提としたつきあいをしてるんです。ですから、るりかさんと結婚もおつきあいも無理なんです」
「いくら?」
るりかの母親が美里の方へ向いた。
「へ?」
「いくら払ったら藤堂さんと別れてくれるの?!」
るりかの母親はよほどにせっぱつまったんだろう。
後でこっそり言えば相談にのらないでもないのに、藤堂の目の前で言ってしまった。
「無理ですね。彼女が俺と別れると言っても俺は別れる気はありませんし、ましてるりかさんとどうこうなるっていうのは永遠に無理です」
と藤堂が冷たく言い放った。
るりかの両親が心配して、尋ね人のようなチラシを作って配ったり、貼ったりしている。
美奈子も表面上は沈んだ面持ちで義両親とともにるりかの行方を気にしていた。
何をしてもるりかはもう二度と顔を見せる事はないのだが、るりかの両親は藤堂にあることを願い出た。
「どうかるりかと結婚すると言ってください。藤堂さんのその言葉を聞けばるりかも戻ってくるはずですから」
藤堂は目の玉が飛び出るほど驚いたような顔をしているし、美奈子は手で口元を覆った。 美里は両手に大きなゴミ袋を持っていたのだが、それを床に落としてしまった。
店は閉店したばかりだった。八時までのパートさんはすでに帰っている。八時半まで勤務の美里と藤堂の二人で店じまいをしていたところに、美奈子がるりかの失踪後ずいぶんと老けた義両親を連れてやってきたのだった。
「それは……お気の毒ですが」
と藤堂が言い始めた瞬間、るりかの母親は土下座する勢いで藤堂にすがりついた。
「お願いします! お願いします!」
「お義母さん……いくらなんでも」
と美奈子が呆れ顔で言った。
「藤堂さんがるりかと結婚さえしてくれたら! 財産はすべて差し上げます!」
と母親の言葉に美奈子がむっとなる。
「ちょ、お義母さん……財産すべてって」
「あなたは黙ってて!」
「うちの人の取り分はどうなるんですか?」
「あなたはるりかが心配じゃないの? やっぱりうちの財産目当てなのね! るりかの言ったとおりだったわ……」
「お義母さん! いくらなんでも!」
ゴミを捨てに行きたいんですけど、と思いながら、美里は大きなゴミ袋を二つ下げたまま突っ立っていた。
「お断りします」
と二人の間を割ったのは藤堂だった。
「藤堂さん……」
「るりかさんが行方不明なのはお聞きしましたし、さぞご心配でしょうけど、結婚の話は無理でしょう」
「藤堂さん! お願いします。嘘でもいいんです! そういうことにしてニュースに流してもらえば、どこかでそれを耳にしてるりかが戻ってくると思うんです」
「そんなのオーナーに迷惑ですよ、お義母さん! ね、オーナー」
と美奈子。
「ええ、まあ」
「それにオーナーにはもう決まった人がいるんです! 恋人が! るりかさんじゃないちゃんとした恋人が!」
「……」
るりかの母親は一瞬戸惑って、
「るりかがちゃんとしていないって言うの!? 美奈子さん!」
と叫んだ。
「いえ、そうじゃないですけど……ねえ、美里さん!」
「はあ?」
突然、美奈子に話題を振り分けられ美里は慌てた。るりかの母親が美里を見た。
「あなた……西条さん、藤堂さんの恋人ってあなた?」
「へ」
美里は慌ててかぶりを振ろうとぶんぶんと頭を動かしたところで、
「そうなんです」
と言ったのは藤堂だった。
「彼女とは結婚を前提としたつきあいをしてるんです。ですから、るりかさんと結婚もおつきあいも無理なんです」
「いくら?」
るりかの母親が美里の方へ向いた。
「へ?」
「いくら払ったら藤堂さんと別れてくれるの?!」
るりかの母親はよほどにせっぱつまったんだろう。
後でこっそり言えば相談にのらないでもないのに、藤堂の目の前で言ってしまった。
「無理ですね。彼女が俺と別れると言っても俺は別れる気はありませんし、ましてるりかさんとどうこうなるっていうのは永遠に無理です」
と藤堂が冷たく言い放った。
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