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謎の男
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ダノンの一行はすでに北妖魔の入口へたどり着いていた。しかしナスは逸る心を押さえ、キースらの来るのを待つ態勢をとった。北妖魔は一段と危険な様子で彼らを向かえていたのだ。木々にすら敵意を感じる。獣の唸り声は彼らを拒否し、見えない壁が立ちはだかっている。ナスは考えを変えた。キースを出し抜くよりも彼にこの危険地帯を突破してもらおう。自分達はその後を付いてゆくのが賢明であろう。
「何故すぐに行かぬ。早くノ-ムの元に行き七つ目の石を手に入れるのだ」
じれるダノンをナスは冷ややかに見た。
「妖魔獣だけならば、このわしにでも追い払う事はできよう。じゃがノ-ムを相手にこの年寄りをこき使うものではない。まあ待て。愚かな者どもがじきやってくる。危険をかえりみない勇敢な者どもじゃ。ひっひっ」
ダノンはおもしろくない。今や彼に指導権はなかった。動くの止まるもナスの考え一つなのである。といってダノンはこれと言う計画も頭にないままここまできたのである。王になった自分の姿を思っては楽しんでいただけだから、今さら指揮をしろと言われても困る。しかし、ナスは自分に一言相談してもよいのではないかとも思う。ダノンは馬から一人下りて、ぶらぶらと歩きはじめた。追ってくる側近をうるさそうに追い払い、遠目に見える妖魔の森を眺めた。ナス達はキースにきずかれないような位置に幕を作り、ナスの呪文で結界を張った。ナスの元でくるくる働く側近達もダノンよりもナスの指示に従っている。口が達者なだけであったダノンを役に立たない奴と思っているのかもしれない。
「ふん、今に見ておれ」
何となく不満気につぶやく。
「ははは。さみしそうだな」
ダノンは振り返った。誰もいない。
「おい、こっちだ。ジユダ国のダノン王弟。今頃自分に何の力もない事が分かったのか。口だけでは誰もお前を尊敬せんだろう」
「な、何者だ」
ダノンはきょろきょろと辺りを見た。
突然に彼の前に一人の男が現れた。銀髪の髪が長く腰のあたりまで流れている。風に乱れるのを優雅に直しながら、ダノンに流し目をくれた。ダノンは仰天した。陶器のように透き通る白い肌。薄い格好のよい唇はほんのり赤い。端正な、いや完璧と言っていいほどの美しさである。美しいと言っても、野性を匂わせるキースとは正反対の優美で、しかも廉潔の士であった。
「そ、そなたは何者だ。どうして、私の名を知っておるのだ。いや、そんな事よりも何という美しさだ。ぜひ名を教えて欲しい」
美しい青年はくすくす笑って、
「私の名前か? そんな事よりも私はお前に忠告に来たのだ。それを聞きたくはないか」
「忠告だと。なんの事だ」
「一刻も早くここから立ち去れ。死にたくはないだろう」
「何を言うのだ、美しい人よ。私には偉大な望みがあるのだ。もうすぐそれが叶う。今更後にはひけん」
「妖魔王を操り、この世のありとあらゆる権力を手にいれる事が偉大な事か。そんな事をしてどうするのだ。血と裏切り、戦乱と恐怖これらを総てお前が統率できるのかな」
「そのような世にはしない。平和に民が暮らせる時代を」
青年は冷笑した。
「お前が考えているのは賛美される自分の姿だけであろう。中身のないその頭には黄金の冠は似合わんと思うがな。お前が妖魔王をどのように考えているかは知らんが、そう甘くはないぞ。お前のように何も考えていない奴には、忠告など無駄な事だったかな」
青年は楽しそうに口笛を吹いた。
またどこからともなく一頭の馬が現れ、彼は身軽に飛び乗った。
「生きていればまたいずれ」
来た時と同じように彼はふいに見えなくなった。残ったダノンは怒る事も忘れて茫然と立ち尽くした。
「ダノン殿、あまり一人で歩くのはいけません。危険ですぞ」
「ああ、ナスか」
ナスが探しにやってくるまでダノンはほうけたように立っていた。
ナスにつつかれてようやく我に返ったのである。
「何をやっておるのじゃ。キースめがやってきましたぞ。今、森の入口にいますぞ」
「そ、そうか。よし」
ダノンはあたふたと幕まで戻った。
「何故すぐに行かぬ。早くノ-ムの元に行き七つ目の石を手に入れるのだ」
じれるダノンをナスは冷ややかに見た。
「妖魔獣だけならば、このわしにでも追い払う事はできよう。じゃがノ-ムを相手にこの年寄りをこき使うものではない。まあ待て。愚かな者どもがじきやってくる。危険をかえりみない勇敢な者どもじゃ。ひっひっ」
ダノンはおもしろくない。今や彼に指導権はなかった。動くの止まるもナスの考え一つなのである。といってダノンはこれと言う計画も頭にないままここまできたのである。王になった自分の姿を思っては楽しんでいただけだから、今さら指揮をしろと言われても困る。しかし、ナスは自分に一言相談してもよいのではないかとも思う。ダノンは馬から一人下りて、ぶらぶらと歩きはじめた。追ってくる側近をうるさそうに追い払い、遠目に見える妖魔の森を眺めた。ナス達はキースにきずかれないような位置に幕を作り、ナスの呪文で結界を張った。ナスの元でくるくる働く側近達もダノンよりもナスの指示に従っている。口が達者なだけであったダノンを役に立たない奴と思っているのかもしれない。
「ふん、今に見ておれ」
何となく不満気につぶやく。
「ははは。さみしそうだな」
ダノンは振り返った。誰もいない。
「おい、こっちだ。ジユダ国のダノン王弟。今頃自分に何の力もない事が分かったのか。口だけでは誰もお前を尊敬せんだろう」
「な、何者だ」
ダノンはきょろきょろと辺りを見た。
突然に彼の前に一人の男が現れた。銀髪の髪が長く腰のあたりまで流れている。風に乱れるのを優雅に直しながら、ダノンに流し目をくれた。ダノンは仰天した。陶器のように透き通る白い肌。薄い格好のよい唇はほんのり赤い。端正な、いや完璧と言っていいほどの美しさである。美しいと言っても、野性を匂わせるキースとは正反対の優美で、しかも廉潔の士であった。
「そ、そなたは何者だ。どうして、私の名を知っておるのだ。いや、そんな事よりも何という美しさだ。ぜひ名を教えて欲しい」
美しい青年はくすくす笑って、
「私の名前か? そんな事よりも私はお前に忠告に来たのだ。それを聞きたくはないか」
「忠告だと。なんの事だ」
「一刻も早くここから立ち去れ。死にたくはないだろう」
「何を言うのだ、美しい人よ。私には偉大な望みがあるのだ。もうすぐそれが叶う。今更後にはひけん」
「妖魔王を操り、この世のありとあらゆる権力を手にいれる事が偉大な事か。そんな事をしてどうするのだ。血と裏切り、戦乱と恐怖これらを総てお前が統率できるのかな」
「そのような世にはしない。平和に民が暮らせる時代を」
青年は冷笑した。
「お前が考えているのは賛美される自分の姿だけであろう。中身のないその頭には黄金の冠は似合わんと思うがな。お前が妖魔王をどのように考えているかは知らんが、そう甘くはないぞ。お前のように何も考えていない奴には、忠告など無駄な事だったかな」
青年は楽しそうに口笛を吹いた。
またどこからともなく一頭の馬が現れ、彼は身軽に飛び乗った。
「生きていればまたいずれ」
来た時と同じように彼はふいに見えなくなった。残ったダノンは怒る事も忘れて茫然と立ち尽くした。
「ダノン殿、あまり一人で歩くのはいけません。危険ですぞ」
「ああ、ナスか」
ナスが探しにやってくるまでダノンはほうけたように立っていた。
ナスにつつかれてようやく我に返ったのである。
「何をやっておるのじゃ。キースめがやってきましたぞ。今、森の入口にいますぞ」
「そ、そうか。よし」
ダノンはあたふたと幕まで戻った。
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