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甘いひととき
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ミラルカは目を覚ました。体が暖かく、痛みは消えていた。自分が豪華な部屋の大きな贅沢なベッドに寝ているのを知って、驚いて起き上がった。ぼろぼろの衣服は総レ-スの夜着に変えられていたし、傷は手当がしてあった。部屋をノックする音がして、召し使いの女が湯気のたつス-プと果物を持ってきた。
「お目覚めですか。ゆっくり動いてくださいな。傷が開きます。さあ、暖かいス-プを飲んで下さいな」
女は優しく、そっとミラルカの背にやわらかい枕を添えてくれた。
「ここはどこ」
まだ覚め切らぬ頭を振ってミラルカは聞いた。
「まあ、ここはキース・キャラバン伯爵様のお邸です。伯爵様はさっきから外でうろうろと、あなたが目を覚まされるのを待っておいでですわ」
小鳥のようにかわいらしく笑うと女は、
「伯爵様をお呼びしますわ」
と、言って出ていった。
「え、ちょっと」
ミラルカは頭が混乱した。牢から出た所からの記憶がなかった。
キースが助けてくれたのだろうか? それでは彼は王弟や恩ある国王さえも裏切る事になる。
それにシドはどうしたんだろう、とミラルカは働かない頭でぼんやりと考えた。
そっと扉が開き、キースが顔を出した。
「気分はどうだ。まだ痛むか」
「ううん、大丈夫。シドはどうしたの」
「彼は城にいる。心配せずに何か口にしろ。体力を回復せんと戦えまい」
「うん」
素直にミラルカはス-プをすくって飲んだ。暖かいス-プがミラルカの腹を刺激して、急に空腹を自覚した。がつがつと食べ、飲んでミラルカは一息ついた。
「お前の食べっぷりは見事だな」
キースが笑った。
「どうして助けてくれたの。王を裏切る事になる」
「さあな、お前に惚れたというだけではいかんか」
どうしてこの男は照れもせずにこんな言葉が言えるのだろうか。
「ば、ばかばかしい。女一人の為に国を捨てるって言うの?」
ミラルカは赤くなったが、努めて厳しい声で言った。
キースはそんなミラルカを見て優しい顔で微笑んだ。
「では教えてやろう。王弟は男色家でな。国の為なら喜んで命を捨てる覚悟だが、色の為にこの身をさらす事は出来ん」
「へえ、あの男が……? まったく呆れるね」
ミラルカは砂でも噛んだように唇を歪めた。
召し使いが来て、黙って皿を下げた。さっきの女とは違う娘だが、彼女もまたミラルカに優しいまなざしを投げた。娘が行ってしまうとミラルカはキースに聞いた。
「ここの人は皆親切だね。あたしみたいな野蛮ななりの女に。どうして厭な顔をしないんだろう」
「主人が奴隷の子と知っているからさ。そしてここにいる者は皆一度は悪い事に手をだしていた。ここへ来て彼らは更生したのさ」
「へえ」
なんとなく親しみを覚え、ミラルカはやっとくつろいだ気になった。
そして照れながら小さな声で言った。
「助けてもらってありがとう」
「礼にはおよばん。けしかけたのは、あの魔鳥だ。なかなか、厳しい奴だな」
キースはベッドに座り、ミラルカのうなじに手を回した。
優しく髪をなで、そしてミラルカにキスをした。
「初めて砂漠であった時からこの日を夢に見ていたぞ」
本来照れ屋なキースには、精一杯の口説き文句である。それ以上は何も言えず、キースはミラルカを抱き締めた。何度も何度も、ミラルカの顔中にキスをする。ミラルカはもう抵抗もせずなるがままになっていた。こんなに甘美で優しい気分になったのは初めての事だった。胸を甘い痛みが走り、頭はくらくらする。
初めての快感はキースを愛しているのかと思うほどだ。
「ま、待って。こんな事をしてる場合じゃない。早くカ-タとシドを助けなくちゃ」
「分かってる。傷が治ってからゆっくりと愛してやるさ。残念だがな」
いたずらっぽく笑ってキースはミラルカから離れた。
「城へ行って様子を見てくる」
もう一度キスをして、キースは出ていった。
キースが馬で邸を出ていったと同時に、少数の馬が邸の前で止まった。
影は邸を静かに乗り越え、入り込んだ。
ミラルカは油断をしていた。
武器もなにもなく、侵入者に身をさらす事になった。
薬をかがされ、意識を失ったミラルカの体を影はまた静かに運び去った。
「お目覚めですか。ゆっくり動いてくださいな。傷が開きます。さあ、暖かいス-プを飲んで下さいな」
女は優しく、そっとミラルカの背にやわらかい枕を添えてくれた。
「ここはどこ」
まだ覚め切らぬ頭を振ってミラルカは聞いた。
「まあ、ここはキース・キャラバン伯爵様のお邸です。伯爵様はさっきから外でうろうろと、あなたが目を覚まされるのを待っておいでですわ」
小鳥のようにかわいらしく笑うと女は、
「伯爵様をお呼びしますわ」
と、言って出ていった。
「え、ちょっと」
ミラルカは頭が混乱した。牢から出た所からの記憶がなかった。
キースが助けてくれたのだろうか? それでは彼は王弟や恩ある国王さえも裏切る事になる。
それにシドはどうしたんだろう、とミラルカは働かない頭でぼんやりと考えた。
そっと扉が開き、キースが顔を出した。
「気分はどうだ。まだ痛むか」
「ううん、大丈夫。シドはどうしたの」
「彼は城にいる。心配せずに何か口にしろ。体力を回復せんと戦えまい」
「うん」
素直にミラルカはス-プをすくって飲んだ。暖かいス-プがミラルカの腹を刺激して、急に空腹を自覚した。がつがつと食べ、飲んでミラルカは一息ついた。
「お前の食べっぷりは見事だな」
キースが笑った。
「どうして助けてくれたの。王を裏切る事になる」
「さあな、お前に惚れたというだけではいかんか」
どうしてこの男は照れもせずにこんな言葉が言えるのだろうか。
「ば、ばかばかしい。女一人の為に国を捨てるって言うの?」
ミラルカは赤くなったが、努めて厳しい声で言った。
キースはそんなミラルカを見て優しい顔で微笑んだ。
「では教えてやろう。王弟は男色家でな。国の為なら喜んで命を捨てる覚悟だが、色の為にこの身をさらす事は出来ん」
「へえ、あの男が……? まったく呆れるね」
ミラルカは砂でも噛んだように唇を歪めた。
召し使いが来て、黙って皿を下げた。さっきの女とは違う娘だが、彼女もまたミラルカに優しいまなざしを投げた。娘が行ってしまうとミラルカはキースに聞いた。
「ここの人は皆親切だね。あたしみたいな野蛮ななりの女に。どうして厭な顔をしないんだろう」
「主人が奴隷の子と知っているからさ。そしてここにいる者は皆一度は悪い事に手をだしていた。ここへ来て彼らは更生したのさ」
「へえ」
なんとなく親しみを覚え、ミラルカはやっとくつろいだ気になった。
そして照れながら小さな声で言った。
「助けてもらってありがとう」
「礼にはおよばん。けしかけたのは、あの魔鳥だ。なかなか、厳しい奴だな」
キースはベッドに座り、ミラルカのうなじに手を回した。
優しく髪をなで、そしてミラルカにキスをした。
「初めて砂漠であった時からこの日を夢に見ていたぞ」
本来照れ屋なキースには、精一杯の口説き文句である。それ以上は何も言えず、キースはミラルカを抱き締めた。何度も何度も、ミラルカの顔中にキスをする。ミラルカはもう抵抗もせずなるがままになっていた。こんなに甘美で優しい気分になったのは初めての事だった。胸を甘い痛みが走り、頭はくらくらする。
初めての快感はキースを愛しているのかと思うほどだ。
「ま、待って。こんな事をしてる場合じゃない。早くカ-タとシドを助けなくちゃ」
「分かってる。傷が治ってからゆっくりと愛してやるさ。残念だがな」
いたずらっぽく笑ってキースはミラルカから離れた。
「城へ行って様子を見てくる」
もう一度キスをして、キースは出ていった。
キースが馬で邸を出ていったと同時に、少数の馬が邸の前で止まった。
影は邸を静かに乗り越え、入り込んだ。
ミラルカは油断をしていた。
武器もなにもなく、侵入者に身をさらす事になった。
薬をかがされ、意識を失ったミラルカの体を影はまた静かに運び去った。
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