きまじめ騎士団長とおてんば山賊の娘

猫又

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囚われのミラルカ

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「一体どこへいっちまったんだろう」
 ミラルカが馬を走らせながら言った。
 カ-タは馬車の中で無言でひざをかかえている。
 レイラが姿を消してから十日がたった。宿場一帯を探してもなんの手掛かりもなく、仕方なくミラルカらはジユダ国の首都ジュラの都へと出発した。カ-タは自分のせいだと思い、あれからろくに食事もとっていなかった。
 しかし序々に反省が怒りに変わり、誰が何を言っても逆に開き直り、つっかるようになっていた。自分でもいけないとは思っているが口のほうが先に出てしまうのだ。
「あんな体……まったくどういうつもりなのか」
 沈黙に耐えきれずミラルカが軽口をたたく。
「何よ。はっきり言えばいいじゃない。あたしのせいだって」
 ミラルカは顔をしかめた。
「あんたのせいだなんて言ってないよ。いいかげんにしなよ。いつまでもすねて、けったくそ悪い」
「どうせあたしがあの人を追い出したわ。あんまりシドがあの人をかまうからいけないのよ。ちょっといじわるを言っただけよ」
 ミラルカははあっと深いため息をついた。
「分かったよ。ところでシドは遅いね。どこまで行ったのか。あ、帰ってきた。どうだい都の様子は」
 シドは自慢の翼をはためかしてミラルカの肩に止まった。ミラルカの一行はもう都のすぐそばまで来ており、その偵察にシドが行っていたのだ。
「やばいようだ。何やら騎馬隊の一行がこちらへやってくる。先頭の馬は大きなジユダの旗をかかげている。村人の噂では王室の予言があり、ジユダに仇なす影が近ずいていて、彼らはそれを討伐にやってきたらしい」
「へえ、なんだいそりゃあ」
「ミラルカ、頼むからもっと緊張してくれ。その影というのは、黒い鳥を連れた二人ずれの娘らしいという事だ」
「そりゃあ。あたしらの事か。大袈裟だね。どうする。シド。戦ってみるかい」
 わりと真剣にミラルカは言ったのだが、シドが呆れたという顔で答えた。
「逃げよう」
「分かった」
 気も早いが諦めもいいミラルカはさっさと馬の方向を変えた。
「いくよ」
 愛馬に鞭をくれ、ミラルカは全速力で駆け出した。宿場から宿場への街道筋は人通りの少なく、ミラルカの馬は何の妨害もなく駆ける事が出来た。しかし長いきつい旅と荷を積んだ馬車は思うようには逃げきれなかった。訓練された騎馬隊は軽々とミラルカの馬に追い付いてきた。荒くれた兵士達はミラルカの横に並び、嘲笑や卑猥な言葉でミラルカにいやがらせをする。かっとなったミラルカが両脇の兵士を剣で薙ぎ倒す。悲鳴をあげ兵が地面に落ちると、後続も剣で応戦してきた。いくらミラルカでもこの戦いは長く続かなかった。弓で馬の尻をうたれ、驚いた馬が跳ね上がる。ミラルカは振り落とされ、馬車は横倒しになった。カ-タは道に転げだして、それを助けようとしたシドは網で捕えられた。ミラルカもカ-タも足を傷め逃げられず捕まった。
「久し振りだな。傷はまだ治らんのか。気の毒にな」
 ダノンが遅れてやってきて自慢気な顔でミラルカを見た。
「お陰様でね。あんたの顔を見ると悪化しそうだよ。それにしても大袈裟だね。娘二人にかかってこの騒ぎかい。自分一人じゃなんにもできないのかね」
 ミラルカはキースの姿を目で探したが彼はどこにも見えず、ほっとした。
「やれやれ口のへらん娘じゃ。自分の立場を少しはわきまえたらどうじゃ」
「そんなに奥ゆかしくは育ってないのさ。一体どういう事さ。これ以上あたしに何の用があるんだい」
「石をよこせ。七色の石を隠し持っておろうが」
「知らないね。石は砂漠で手に入れたんじゃないのかい」
「とぼけるな。まあいいわ。体を調べればすぐ出てくるであろうが、それでは私の気が済まん。城の拷問部屋でたっぷりかわいがってやろう。お前にはいろいろと世話になったからの」 
 ダノンはいやらしい笑いをして、ミラルカは捕えられた。
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