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北妖魔へ
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北妖魔は森の入り口ですでに不穏な空気が流れ、むっとさせるような息苦しさがある。 五感が緊張し枯れ葉が動いてもはっとする。
「キース、ノ-ムに会うにはどうすればいいのだ」
心細そうにダノンがキースを振り返った。
「彼らは侵入者をほってはおきますまい。彼らのほうから接近してくるでしょう。我々はただ進むのみです」
「なんとも頼りないな」
ダノンはキースと側近の者二人を連れて北妖魔へ入っていった。どろどろした湿地に足をとられ馬がいなないた。灰色に枯れた木が行方を惑わすように枝をさしのべる。数歩歩いただけでもう右も左も分からなくなった。怪しげな妖獣の咆哮が聞こえる。まだら色の鳥が頭の上で騒ぐ。蛙の顔の虫が飛んできて馬にぺちゃりとひっついた。キースは慌ててその虫を剣でたたきおとした。虫はぐっと鳴いて下に落ちていった。
「気をつけなさい。あれは人でも獣でもひっついて血を吸い、その肉を食らいます」
「鎧甲でくればよかったな」
ダノンはおびえ剣を振り回しながら言った。
「うわあ」
悲鳴があがった。一番後ろにいた従者の馬に飢えた沼人が噛みついたのだ。
泥人は泥の沼の中から生まれる、全身泥の人形だ。
生きた者の気配にだけ反応し、泥の中に引きずり込もうと生まれてくる。
従者は混乱してむやみに剣を振り回すだけで沼人には命中しなかった。キースはへどろでまみれ、悪臭をはなつ沼人を一刀のもとにたたき斬った。しかし二つに切られても沼人はまた一つに合体する。いくら切ってもきりがないのである。その上、沼人は後から後から出てくる。
「走れ!」
何百メートルか夢中で駆け抜け、少し明るい場所で足を止めるとダノンの心臓はもの凄い勢いで脈打っていた。
「なんという場所だ。ノ-ムはまだ出てこんのか」
「さあ、行きましょう」
キースはさっさと先を行く。彼は別に恐ろしくもないようだった。
今や馬の足は半分ほど沼につかっていた。
「ここには沼人はいないようだな」
ダノンがほっとしたように言う。しかしそれもつかの間、地獄の底から響いてくるような唸り声がして妖魔獣の中で一番獰猛と言われる、コフラ-が現れた。体には何万という鋼鉄の毛がはえ、炎を吐き一撃で山を砕くと言われている。かする事さえできないほどの俊敏な動きをし、馬よりも速く走る。コフラ-に出会うとは運がつきたとしかいいようがない。
「キース、どうするのだ」
コフラ-は低くうなると嬉しそうに近ずき飛び掛かる態勢に入った。キースはダノンを後ろにやってコフラ-の真っ向にたった。
コフラ-は自分に刃向かう人を初めて見たので、少し首をかしげ、襲いかかってきた。 がんと音がしてキースの剣はコフラ-の喉を切り裂くはずであった。普通の相手ならば即死であっただろう。しかしコフラ-にはかすり傷一つ与える事が出来なかった。着地と共に再びコフラの攻撃が始まった。キースは右に左に避けながら剣を振り払うのが精一杯である。何度目かにキースは避けそこね、剣は折れ肩から脇腹、悪しくも馬の腹まで傷を負った。赤黒い血が流れ出し、キースの意識を一瞬遠のかせた。彼は馬から転げ落ちた。「伯爵様!」
従者の悲鳴が上がる。ダノンはただぼんやりと見ているだけである。傷ついた戦士は呻き声を上げたまま動けなかった。従者が駆け寄る間もなくコフラ-はキースの目の前で止まり、熱い生臭い息をかけた。キースの四肢を押さえ付けると、どこから食らおうかと物色した。その時、キースの手にある折れた剣が獣の喉奥深くに刺さった。コフラ-はもの凄い叫び声をあげてのたうちまわった。しかしそれはコフラ-に致命傷を与えはせず、怒り狂ったコフラ-の攻撃を激しくさせるだけであった。それでも瞬時に態勢を立て直したキースは懐から何かを取り出し、近くの大樹に向かって走った。その一方を樹に強く突き立てた。今度はコフラ-に向かってもう一方を投げた。それは意志を持つ鋼の鎖であり、コフラ-の体の回りを何度か交差しながら飛んだ。コフラ-はうるさそうに体をねじったがまたキースに飛び交かろうとした。キースはするりと避け、そして獣はそこで身動きができなくなった。もがけばもがくほど鎖はぎりぎりとコフラ-の体を締め付ける。満身の力を込めてキースが引っ張るとそれはぎりぎりと鈍い音を起ててコフラ-の口を裂いていった。コフラ-がもがき苦しむ。喉の傷がコフラ-の力を弱め、喉から首、肩から腹まで鋼鉄の毛の隙間に亀裂が入った。
はっとしたように従者がキースに力を貸してやる。そして、コフラ-の体は真っ二つに裂け、獣はどうと地面に倒れた。キースは肩で大きく息をしたが、彼もまた力つきてしまった。従者が慌てて傷の手当をしたが、かなり弱っていた。
「ダノン様、伯爵様はかなり弱っておられます。一度引き返されたほうが」
「な、何を言うか、ここまで来て引き返すなどできぬ。大丈夫だキースに限って死ぬ筈はない」
と動揺のあまり、いいかげんな事を言う。
「しかし、」
「うるさい! 私は一人でも行くぞ」
ダノンが馬を進めるので仕方がなく従者達も従う。キースの馬はもう駄目だったので一人がキースを後ろに乗せた。
また、灰色の湿地が続く。倒したコフラ-の血の臭いが漂い、死肉を嗅ぎ付けてまたさまざまな獣が集まってくる。警戒を怠らず彼らは先を急いだ。
幾らも進まぬうちに霧がたった。しばらくすると前に進めぬほど濃くなってきた。
「な、なんだ。これでは何も見えないではないか。おい、キースなんとかしろ」
言ってからキースの体に気がつき、一応ダノンは顔を赤らめた。いつもキースに難問を押し付け、自分では何もしない王弟は途方にくれる。どうしようもないのでしばらくじっとしていると霧の中に小さな人影が浮かんだ。
「だ、誰だ」
聞いている者が恥ずかしくなるほど、脅えたささやくような声でダノンは聞いた。
人影は三つあり、真ん中の影が笑った。
「おかしな事を聞きなさる。お前様がたは我らを探しに来たのであろう。のう、ジユダ国のダノン王弟殿」
名を言われてダノンはぎょっとした。少し霧が晴れ、三つの影が姿を現した。
小さな小さな、ダノンの半分くらいの大きさのノ-ムであった。ノ-ムは翠色の肌と瞳を持ち、髪の毛と髭、それに同化している衣は灰色であった。赤い帽子のような物をかぶっているのが妙であった。
「そなたらが北妖魔のノ-ムか」
「さよう。お前様の聞きたい事は分かっておるぞ。しかし我らのかわいがるコフラ-を殺したのは許せぬ。生きてここから出ようとは思わぬ事じゃの」
「待ってくれ、殺したのは悪かったがそうしなければ我々が食われてしまう」
「ここへ入ったが不運。身にあまる大望を持つのは身の破滅じゃな」
ノ-ムはさっさと背を向けた。その時、従者に支えられていたキースが言った。
「待てよ。かわいがる獣なら何故さっさと助けにこない。お主らがすぐ出てくればあいつを殺さずとも済んだ。勝手な事を言うんじゃない」
「ほう、威勢がいいの。先程の戦いを見れば分かる。名うての戦士じゃの」
「世辞はいい、我らの名も目的も知っているならば教えてもらおう。七色の石はどこにある」
ノ-ムはくすくす笑った。
「勝手な事をいいよるのはどっちかの。それが人に物を聞く時の態度か。東妖魔のルドルフだとて土産の一つも持ってくるがの」
「キース、黙っていろ。ノ-ム殿、何が望みだ。ジユダ国産の毛皮でも肉でもなんなりと言って下され。望む物はなんでも用意する。だから教えて下さい」
ダノンが手を揉まんばかりに言った。
「やれやれ節操がないの。ダノン王弟、わしはお主は好かん。剣士よ、こちらにまいれ」
はっきりと言われ、ダノンはむっとしたが何も言わなかった。キースは訝るようにしていたが、素直に馬から下りてノ-ムの後に付いていった。三人のノ-ムは何事か相談していたが、やがて言った。
「キース、わしの名はジャダと言う。今度北妖魔へ来る時は、わしの名を唱えながら来るといい。そうすれば妖獣どもは手だしはできん」
「この次はない」
「まあそう言うな。さて、知りたい事を教えてやってもいいがの、お前も不憫よのう。あんな主人に仕えていては苦労が絶えんじゃろう」
「おおきなお世話だ。早く教えてもらおう。七色の石はどこにある」
「山賊アレゾを知っておるか」
「ああ」
そっけない返事にジャダは舌打ちをした。
「愛想のない奴じゃのう。アレゾの隠し財宝を探す事だ」
「そこに石はあるのか」
「ある。しかし、お前さん達の手には入らぬであろう。石についての予言を聞かせてやろう。『微なる者、西方よりきたりて石に従う、愛なる者、南方よりきたりて邪を征す、活なる者、東方よりきたりて微を助ける、偉大なる力、北方よりこれらを守る』じゃ。少なくとも四つの敵が現れるじゃろう」
「微、愛、活だと。そんな者を恐れはせぬ。とにかく、アレゾの財宝を探せばよいのか。分かった。お主らの礼は何がいいのだ」
「それはお前さんが成功した時のお楽しみにしよう。我らにも楽しみが出来たわい。ま、せいぜいがんばる事じゃ」
「分かった。とにかく礼を言う」
「今度来る時は妻でも連れてまいれよ」
「何を言うか。俺は妻など持たぬ。女など邪魔なだけだ」
「そうかな、そのうち、情をなす乙女が現れるだろう」
「それも予言か」
「好きにとって結構じゃよ」
ノ-ムは笑いながら霧に消え、キースは不可解な面持ちでその場を去った。ダノン王弟は急いだ表情でキースを向かえた。
「どうした、キース。ノ-ムは何と言った。石の在りかは分かったのか」
「は、山賊アレゾの隠し財宝を探せば見付かると」
「何、アレゾの財宝とな。噂には聞いていたが本当にあるのだな。よし、ただちに城へ帰り次は財宝を探しに出るぞ」
意気揚々とダノンは北妖魔を後にした。
「キース、ノ-ムに会うにはどうすればいいのだ」
心細そうにダノンがキースを振り返った。
「彼らは侵入者をほってはおきますまい。彼らのほうから接近してくるでしょう。我々はただ進むのみです」
「なんとも頼りないな」
ダノンはキースと側近の者二人を連れて北妖魔へ入っていった。どろどろした湿地に足をとられ馬がいなないた。灰色に枯れた木が行方を惑わすように枝をさしのべる。数歩歩いただけでもう右も左も分からなくなった。怪しげな妖獣の咆哮が聞こえる。まだら色の鳥が頭の上で騒ぐ。蛙の顔の虫が飛んできて馬にぺちゃりとひっついた。キースは慌ててその虫を剣でたたきおとした。虫はぐっと鳴いて下に落ちていった。
「気をつけなさい。あれは人でも獣でもひっついて血を吸い、その肉を食らいます」
「鎧甲でくればよかったな」
ダノンはおびえ剣を振り回しながら言った。
「うわあ」
悲鳴があがった。一番後ろにいた従者の馬に飢えた沼人が噛みついたのだ。
泥人は泥の沼の中から生まれる、全身泥の人形だ。
生きた者の気配にだけ反応し、泥の中に引きずり込もうと生まれてくる。
従者は混乱してむやみに剣を振り回すだけで沼人には命中しなかった。キースはへどろでまみれ、悪臭をはなつ沼人を一刀のもとにたたき斬った。しかし二つに切られても沼人はまた一つに合体する。いくら切ってもきりがないのである。その上、沼人は後から後から出てくる。
「走れ!」
何百メートルか夢中で駆け抜け、少し明るい場所で足を止めるとダノンの心臓はもの凄い勢いで脈打っていた。
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「さあ、行きましょう」
キースはさっさと先を行く。彼は別に恐ろしくもないようだった。
今や馬の足は半分ほど沼につかっていた。
「ここには沼人はいないようだな」
ダノンがほっとしたように言う。しかしそれもつかの間、地獄の底から響いてくるような唸り声がして妖魔獣の中で一番獰猛と言われる、コフラ-が現れた。体には何万という鋼鉄の毛がはえ、炎を吐き一撃で山を砕くと言われている。かする事さえできないほどの俊敏な動きをし、馬よりも速く走る。コフラ-に出会うとは運がつきたとしかいいようがない。
「キース、どうするのだ」
コフラ-は低くうなると嬉しそうに近ずき飛び掛かる態勢に入った。キースはダノンを後ろにやってコフラ-の真っ向にたった。
コフラ-は自分に刃向かう人を初めて見たので、少し首をかしげ、襲いかかってきた。 がんと音がしてキースの剣はコフラ-の喉を切り裂くはずであった。普通の相手ならば即死であっただろう。しかしコフラ-にはかすり傷一つ与える事が出来なかった。着地と共に再びコフラの攻撃が始まった。キースは右に左に避けながら剣を振り払うのが精一杯である。何度目かにキースは避けそこね、剣は折れ肩から脇腹、悪しくも馬の腹まで傷を負った。赤黒い血が流れ出し、キースの意識を一瞬遠のかせた。彼は馬から転げ落ちた。「伯爵様!」
従者の悲鳴が上がる。ダノンはただぼんやりと見ているだけである。傷ついた戦士は呻き声を上げたまま動けなかった。従者が駆け寄る間もなくコフラ-はキースの目の前で止まり、熱い生臭い息をかけた。キースの四肢を押さえ付けると、どこから食らおうかと物色した。その時、キースの手にある折れた剣が獣の喉奥深くに刺さった。コフラ-はもの凄い叫び声をあげてのたうちまわった。しかしそれはコフラ-に致命傷を与えはせず、怒り狂ったコフラ-の攻撃を激しくさせるだけであった。それでも瞬時に態勢を立て直したキースは懐から何かを取り出し、近くの大樹に向かって走った。その一方を樹に強く突き立てた。今度はコフラ-に向かってもう一方を投げた。それは意志を持つ鋼の鎖であり、コフラ-の体の回りを何度か交差しながら飛んだ。コフラ-はうるさそうに体をねじったがまたキースに飛び交かろうとした。キースはするりと避け、そして獣はそこで身動きができなくなった。もがけばもがくほど鎖はぎりぎりとコフラ-の体を締め付ける。満身の力を込めてキースが引っ張るとそれはぎりぎりと鈍い音を起ててコフラ-の口を裂いていった。コフラ-がもがき苦しむ。喉の傷がコフラ-の力を弱め、喉から首、肩から腹まで鋼鉄の毛の隙間に亀裂が入った。
はっとしたように従者がキースに力を貸してやる。そして、コフラ-の体は真っ二つに裂け、獣はどうと地面に倒れた。キースは肩で大きく息をしたが、彼もまた力つきてしまった。従者が慌てて傷の手当をしたが、かなり弱っていた。
「ダノン様、伯爵様はかなり弱っておられます。一度引き返されたほうが」
「な、何を言うか、ここまで来て引き返すなどできぬ。大丈夫だキースに限って死ぬ筈はない」
と動揺のあまり、いいかげんな事を言う。
「しかし、」
「うるさい! 私は一人でも行くぞ」
ダノンが馬を進めるので仕方がなく従者達も従う。キースの馬はもう駄目だったので一人がキースを後ろに乗せた。
また、灰色の湿地が続く。倒したコフラ-の血の臭いが漂い、死肉を嗅ぎ付けてまたさまざまな獣が集まってくる。警戒を怠らず彼らは先を急いだ。
幾らも進まぬうちに霧がたった。しばらくすると前に進めぬほど濃くなってきた。
「な、なんだ。これでは何も見えないではないか。おい、キースなんとかしろ」
言ってからキースの体に気がつき、一応ダノンは顔を赤らめた。いつもキースに難問を押し付け、自分では何もしない王弟は途方にくれる。どうしようもないのでしばらくじっとしていると霧の中に小さな人影が浮かんだ。
「だ、誰だ」
聞いている者が恥ずかしくなるほど、脅えたささやくような声でダノンは聞いた。
人影は三つあり、真ん中の影が笑った。
「おかしな事を聞きなさる。お前様がたは我らを探しに来たのであろう。のう、ジユダ国のダノン王弟殿」
名を言われてダノンはぎょっとした。少し霧が晴れ、三つの影が姿を現した。
小さな小さな、ダノンの半分くらいの大きさのノ-ムであった。ノ-ムは翠色の肌と瞳を持ち、髪の毛と髭、それに同化している衣は灰色であった。赤い帽子のような物をかぶっているのが妙であった。
「そなたらが北妖魔のノ-ムか」
「さよう。お前様の聞きたい事は分かっておるぞ。しかし我らのかわいがるコフラ-を殺したのは許せぬ。生きてここから出ようとは思わぬ事じゃの」
「待ってくれ、殺したのは悪かったがそうしなければ我々が食われてしまう」
「ここへ入ったが不運。身にあまる大望を持つのは身の破滅じゃな」
ノ-ムはさっさと背を向けた。その時、従者に支えられていたキースが言った。
「待てよ。かわいがる獣なら何故さっさと助けにこない。お主らがすぐ出てくればあいつを殺さずとも済んだ。勝手な事を言うんじゃない」
「ほう、威勢がいいの。先程の戦いを見れば分かる。名うての戦士じゃの」
「世辞はいい、我らの名も目的も知っているならば教えてもらおう。七色の石はどこにある」
ノ-ムはくすくす笑った。
「勝手な事をいいよるのはどっちかの。それが人に物を聞く時の態度か。東妖魔のルドルフだとて土産の一つも持ってくるがの」
「キース、黙っていろ。ノ-ム殿、何が望みだ。ジユダ国産の毛皮でも肉でもなんなりと言って下され。望む物はなんでも用意する。だから教えて下さい」
ダノンが手を揉まんばかりに言った。
「やれやれ節操がないの。ダノン王弟、わしはお主は好かん。剣士よ、こちらにまいれ」
はっきりと言われ、ダノンはむっとしたが何も言わなかった。キースは訝るようにしていたが、素直に馬から下りてノ-ムの後に付いていった。三人のノ-ムは何事か相談していたが、やがて言った。
「キース、わしの名はジャダと言う。今度北妖魔へ来る時は、わしの名を唱えながら来るといい。そうすれば妖獣どもは手だしはできん」
「この次はない」
「まあそう言うな。さて、知りたい事を教えてやってもいいがの、お前も不憫よのう。あんな主人に仕えていては苦労が絶えんじゃろう」
「おおきなお世話だ。早く教えてもらおう。七色の石はどこにある」
「山賊アレゾを知っておるか」
「ああ」
そっけない返事にジャダは舌打ちをした。
「愛想のない奴じゃのう。アレゾの隠し財宝を探す事だ」
「そこに石はあるのか」
「ある。しかし、お前さん達の手には入らぬであろう。石についての予言を聞かせてやろう。『微なる者、西方よりきたりて石に従う、愛なる者、南方よりきたりて邪を征す、活なる者、東方よりきたりて微を助ける、偉大なる力、北方よりこれらを守る』じゃ。少なくとも四つの敵が現れるじゃろう」
「微、愛、活だと。そんな者を恐れはせぬ。とにかく、アレゾの財宝を探せばよいのか。分かった。お主らの礼は何がいいのだ」
「それはお前さんが成功した時のお楽しみにしよう。我らにも楽しみが出来たわい。ま、せいぜいがんばる事じゃ」
「分かった。とにかく礼を言う」
「今度来る時は妻でも連れてまいれよ」
「何を言うか。俺は妻など持たぬ。女など邪魔なだけだ」
「そうかな、そのうち、情をなす乙女が現れるだろう」
「それも予言か」
「好きにとって結構じゃよ」
ノ-ムは笑いながら霧に消え、キースは不可解な面持ちでその場を去った。ダノン王弟は急いだ表情でキースを向かえた。
「どうした、キース。ノ-ムは何と言った。石の在りかは分かったのか」
「は、山賊アレゾの隠し財宝を探せば見付かると」
「何、アレゾの財宝とな。噂には聞いていたが本当にあるのだな。よし、ただちに城へ帰り次は財宝を探しに出るぞ」
意気揚々とダノンは北妖魔を後にした。
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