きまじめ騎士団長とおてんば山賊の娘

猫又

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三つの石

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「大丈夫か、カ-タ」
 十五級魔法人カ-タは馴れない旅路に息も絶え絶えだった。
 ベルベットの着衣が重く、歩きずらい。
「うん、ジユダ国って遠いの?」
「何言ってんの。西妖魔を出てまだ数十キロしかきてないよ。ジユダ国まではその何十倍もあるんだぜ」
 魔鳥シドは呆れ顔でカ-タを見た。
「普通なら速歩術で3日でつくんだがなあ。あんたは一ヶ月はかかるだろうね」
「ええ! そんなに歩くの」
 カ-タはへねへなと木陰に座りこんだ。
「こっちの身にもなれよな。俺様だけならもう着いているよ。あんたの歩調にあわせて飛ぶのも大変なんだよ」
「分かったわよ。悪かったわよ。なんならここから帰ればいいじゃないのさ」
「すぐむくれるんだから。だからいつまでも半人前なんだよ」
 なにせささやかな治癒と子供騙しのまやかしの術しか持たないカ-タでは、旅は無謀と言う外なかった。盗賊や妖獣から身を守る手段もないし、食糧や寝ぐらの心配もある。
「ああ、全くしんどい仕事よね。ギラン様もちょいと術で送ってくれればいいのに」
 シドは相手にもならんと言う風にさっさと飛んでいってしまう。
「待ってよう。どうしたの」
 前方でシドの激しい羽ばたきの音がした。普段あまり鳴かない魔鳥が威嚇の叫びを上げ、何かを攻撃していた。
「どうしたのさ」
 カータが慌てて追いかけると、シドは一人の女を守る様に旋回している。
 女は足から血を出し、臭いを嗅ぎ付けた岩オオカミが唸り声をあげている。
「大変。エル、ヘレナ、ジョラ、カイン」
 カ-タは慌ててまやかしの呪文を唱える。とたんに昼間の街道に霧が発し、妖魔の悲痛な叫びと死臭が流れた。カ-タの影は序々に大きくなり、オオカミの上に覆いかぶさった。 魔族が相手では分が悪いとふんだのか、オオカミはしっぽをまいて悔しそうに鳴いて逃げていった。
「大丈夫ですか」
 霧が晴れ元の街道に戻ると、カ-タは女の足を治してやって聞いた。
「ええ、どうもありがとう。おかげで助かったわ」
 旅の女はずいぶん大柄で、美しかった。
 背中には大切そうにハ-プが縛りつけてあった。
「あんたの術でも役に立つじゃないか」
「うるさいね、シドこそたくさん術を持ちながら使わないなんて、いざって時に役立たずじゃないか」
「い、今のは突然だったからさ」
「ふん、どうだか」
「魔法人なのね」
 女が服の汚れを払いながら聞いた。
「え、あたしはカ-タ。このうるさい魔鳥はシド。ジユダ国へ行く途中なの」
「あたしはレイラ、ビサスの島から出てきてマックレ-リ国へ行こうと思ってるの」
「へえ、マックレ-リならジユダへの道筋だね。何しに行くんだい」
 ばさばさと空中を舞っていたシドが舞い降りてきてカータの肩に止まったが、大きなシドに肩を掴まれてカータの身体がよろめいた。
「いててて、シド、失礼よ」
 カ-タがたしなめる。
「あら、いいのよ。人をさがしてるの」
「ふうん、レイラさんの好い人なの」
「まあね、さて助けてもらったお礼をしなくちゃね」
 レイラは布の鞄から財布を取り出そうとしたが、
「あたしみたいな未熟なのはお許しがでるまで魔法でお金をもらってはいけない決まりなの」
 とカータは慌てて言った。
「厳しいのね。じゃあしばらく一緒に旅をさせてくれないかしら。あたしは楽器と声と踊りで旅費を作って旅をしてるの。多分食糧や寝どこには苦労はしないわ。あなたたちと一緒なら危険はないし」
 カ-タとシドに無論文句のあるはずはない。話は決まり、二人と一羽は道ずれとなった。 その夜、久し振りのまともな食事にありついて、カ-タもシドも生き返った心持ちである。その上素晴らしいレイラの歌声は彼らに活力を与えた。汚い木賃宿で客もおかみも疲れきった人ばかりだが、皆嬉しそうに聞き惚れていた。シドは珍しく軽口もたたかず、静かであった。レイラは二つ目の愛の歌を歌い終わると、静かにハ-プを置いた。
「素晴らしいわ。何て奇麗な歌声なの」
 カ-タはレイラを褒め、手をたたき、久し振りに彼女は楽しい気分で眠った。

 次の日、三人は元気に出発した。
「この辺りは、盗賊アレゾの隠れ家が幾つかあるそうだ」
 マックレ-リ国、ジユダ国、ザザ大国、プリンセス王国、そして妖魔地帯を縫うように走る大街道はアレゾの本拠地であった。山や谷を器用に利用し手下を使って彼ら専用の抜け道や隠れ家を作ったせいで、彼はただの一度も追いつめられた事がなかった。ゆうゆうと略奪し逃げおおせたのである。
「財宝なんかも残ってるんじゃないかしら」
「まさか、アレゾは死んでもその一党は残ってるだろうし」
「一度でいいから拝んで見たいわね」
 シドとレイラの会話にカ-タは溜め息をもって答えた。
「は-、むなしい事言わないで。あたし達には縁のない話でしょ」
 レイラが笑う。
「そうね。あたしの持ってるお宝と言えばこの指輪だけ」
 レイラのほっそりした左の指には大きな紫の石がついた指輪がはめられていた。
「まあ、奇麗な石ね。好い人に貰ったの」
 カ-タが聞いた。
「そうなのよ。こんなおもちゃの指輪を信じてるんだからね。あたしもやきがまわったもんね」
「いいじゃない。くれる人がいるだけさ。あたしなんて、十五級になった時にギラン様から戴いたこの守りの石だけよ」
 そう言ってカ-タは革の紐に通し、首に下げていた濃紺の石を見せた。
「こんな奇麗な濃紺の石は初めて見たわ」
「この石はあたしの守護石なのあたしの力の源なのよ」
「それは凄いわ。どんな高価な宝石よりもよっぽど価値があるわね」
「でもねえ」
 カ-タは少し悲しそうに言った。
「シドのはもっと凄いのよ。石自体の魔力値が高くて、彼の術の威力の制限や増幅が出来るし、例えば彼が眠っていても石のおかげで危険や邪気なんかを察知できるの。彼が弱っている時は守護幕をはってくれるし。その他に方向を知り物を探す力もあるの」
「へえ、賢い石があるもんだねえ」
 レイラが感心して言った。
「あたりまえさ。俺は魔鳥の中じゃ第一級クラスなんだぜ。これくらいの石は使えなきゃな。この石を頂くのはカ-タにゃあ百年早い」
 胸をはってそう言い放ったシドの首には濃緑の石がついた首輪がついていた。
「分かってるわよ」
「そうむくれなさんな。はやく十級クラスになろうなあ。俺が着いてていつまでも落ちこぼれじゃ恥ずかしい」
「悪かったね」
 その時、レイラの指とカ-タの胸とシドの首輪の石がそれぞれ鈍い光を発した。
「なんだい、これ」
「なんだか暖かいよ、シド」
 魔鳥は首をひねっていたがやがて瞳を輝かせて言った。
「これは面白い事だ」
 レイラは不気味気に手を払った。
「一体どういう事なの? こんなのは初めてだわ」
「多分、この石達は同じなんだ」
「なにが同じなの」
「同じ石ってことだ。同じ成分、同じ力を持つ石。仲間なのさ」
「だって、あたしのとシドのじゃ随分力が違うわよ」
「そりゃあんたに魔力がないからさ」
「あっそ」
 シドは興奮して羽根をバサバサさせた。
「きっと巡りあった仲間が交信してるんだろう」
 光はだんだん大きくなり、二人と一羽の体を包むようにして消えた。
「わかんないなあ。魔法人は皆持ってるじゃない。今までこんな事なかったわ。シドと二人の時だってなかったもの」
「何か始まるんじゃないかな。きっと」
 そう言ってからシドは考えこんでしまった。   
 
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