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喧噪
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「こんな貧乏牧場、売っぱらっちまってよかったんだぞ! それをお前らが泣いて頼むから残してやったんじゃねえか! ああん? 恩知らずなのはどっちだだ!」
とドラゴが大声で怒鳴った。
「よくもそんな事を言えるわね。先代が亡くなった時に、牧場は赤字だったじゃないの。それもこれもドラゴが借金の尻ぬぐいをさせてたからでしょ。その借金を返し、テキサス一、二を争うほどの大牧場にしたのはルークじゃないの」
エイラは顔を真っ赤にして言った。
ドラゴには言ってやりたいことがたくさんあり、それをずっと我慢していた部分もあったので、一度言い出したら、自分でも止まらなくなってしまっていた。
「もう、よせ、エイラ」
と夫のジョージがエイラの腕を押さえた。
妻の言い分は何の引け目もなく正論であるが、ドラゴを怒らせたら本当に牧場を売ってしまうだろう、とジョージは思った。自分たちだけならまだしも、先代からこの牧場に住んで働き、年をとり引退目前の牧童も多数いるのだ。そうなると彼らの生きがいや住む場場所も無くしてしまう事になる。
引退する牧童にはルークが盛大なパーティと十分な退職金を渡すのが慣例だが、一気に何十人もの解雇に対応出来る保証はない。牧場を売った金はドラゴが懐に入れてしまうのは明白だ。
ジョージに止められ、エイラは口を閉ざした。
「エイラもジョージもいつだって辞めてくれて構わないんだぞ?」
とドラゴが言った。
「そんなに俺に不満があるなら、辞めればいいじゃねえか。どうなんだ!」
ドラゴは怒った勢いでテーブルをドンっと叩いた。
酒瓶が倒れ、料理の皿の上に酒がこぼれた。
アリスはビクッと身を縮めた。
亡き母も父も穏やかで、大声で叱咤されることに慣れてないアリスは恐怖を覚えた。
継母のエレインはヒステリックに甲高い声で攻撃するように話す女だったので、アリスはそのような口調の人間が苦手だった。
目の前にいる男はまさしく攻撃的な人間だったが、それが自分の夫になる男だと認識していてもドラゴの怒号にアリスは心が締め付けられるような気がした。
ルークはアリスが両手で自分の腕をぎゅっと掴んでいるのに気がついた。
かすかに身体も震えている。
「食事時にやめてくれ。これまで通りにドラゴには仕送りをするし、好きなようにすればい。だから牧場の事は放っておいてくれ。雇い人も何十人もいるし、皆、生活がかかってるんだ。牧場を売るなんて言葉にも出さないでくれ。不安が広がるだけだ。ここに滞在するのも好きなだけいればいいが出産が近い牛が何頭もいるんだ。俺たちは忙しい、邪魔だけはしないでくれ」
とルークが言った。
ドラゴは「ケッ」と言って、酒瓶を取り上げラッパ飲みをした。
「けど」
とルークが話を続けた。
「もう十分に好きな事をしてきただろう? そろそろドラゴも牧場の仕事をやってみたらどうだ?」
「はあ?」
「ガキの頃は馬に乗って、見回りについて走っただろ。馬や牛の出産にも徹夜でついてやったりした。嫌いじゃないはずだろ」
ルークの言葉にドラゴはふんっと鼻で笑った。
「ガキの頃の話だ。お前は糞まみれでも平気だろうが、俺は嫌だね」
「そうなら仕方ない。ごちそう様、牛舎に行ってくる」
ルークはフォークを置いて立ち上がった。
「け」
とドラゴは言い、アンジーの腰を抱いてから立ち上がった。
「おい! 部屋に酒持ってこい!」
そう言うと、ドタドタとダイニングを出て行った。
とドラゴが大声で怒鳴った。
「よくもそんな事を言えるわね。先代が亡くなった時に、牧場は赤字だったじゃないの。それもこれもドラゴが借金の尻ぬぐいをさせてたからでしょ。その借金を返し、テキサス一、二を争うほどの大牧場にしたのはルークじゃないの」
エイラは顔を真っ赤にして言った。
ドラゴには言ってやりたいことがたくさんあり、それをずっと我慢していた部分もあったので、一度言い出したら、自分でも止まらなくなってしまっていた。
「もう、よせ、エイラ」
と夫のジョージがエイラの腕を押さえた。
妻の言い分は何の引け目もなく正論であるが、ドラゴを怒らせたら本当に牧場を売ってしまうだろう、とジョージは思った。自分たちだけならまだしも、先代からこの牧場に住んで働き、年をとり引退目前の牧童も多数いるのだ。そうなると彼らの生きがいや住む場場所も無くしてしまう事になる。
引退する牧童にはルークが盛大なパーティと十分な退職金を渡すのが慣例だが、一気に何十人もの解雇に対応出来る保証はない。牧場を売った金はドラゴが懐に入れてしまうのは明白だ。
ジョージに止められ、エイラは口を閉ざした。
「エイラもジョージもいつだって辞めてくれて構わないんだぞ?」
とドラゴが言った。
「そんなに俺に不満があるなら、辞めればいいじゃねえか。どうなんだ!」
ドラゴは怒った勢いでテーブルをドンっと叩いた。
酒瓶が倒れ、料理の皿の上に酒がこぼれた。
アリスはビクッと身を縮めた。
亡き母も父も穏やかで、大声で叱咤されることに慣れてないアリスは恐怖を覚えた。
継母のエレインはヒステリックに甲高い声で攻撃するように話す女だったので、アリスはそのような口調の人間が苦手だった。
目の前にいる男はまさしく攻撃的な人間だったが、それが自分の夫になる男だと認識していてもドラゴの怒号にアリスは心が締め付けられるような気がした。
ルークはアリスが両手で自分の腕をぎゅっと掴んでいるのに気がついた。
かすかに身体も震えている。
「食事時にやめてくれ。これまで通りにドラゴには仕送りをするし、好きなようにすればい。だから牧場の事は放っておいてくれ。雇い人も何十人もいるし、皆、生活がかかってるんだ。牧場を売るなんて言葉にも出さないでくれ。不安が広がるだけだ。ここに滞在するのも好きなだけいればいいが出産が近い牛が何頭もいるんだ。俺たちは忙しい、邪魔だけはしないでくれ」
とルークが言った。
ドラゴは「ケッ」と言って、酒瓶を取り上げラッパ飲みをした。
「けど」
とルークが話を続けた。
「もう十分に好きな事をしてきただろう? そろそろドラゴも牧場の仕事をやってみたらどうだ?」
「はあ?」
「ガキの頃は馬に乗って、見回りについて走っただろ。馬や牛の出産にも徹夜でついてやったりした。嫌いじゃないはずだろ」
ルークの言葉にドラゴはふんっと鼻で笑った。
「ガキの頃の話だ。お前は糞まみれでも平気だろうが、俺は嫌だね」
「そうなら仕方ない。ごちそう様、牛舎に行ってくる」
ルークはフォークを置いて立ち上がった。
「け」
とドラゴは言い、アンジーの腰を抱いてから立ち上がった。
「おい! 部屋に酒持ってこい!」
そう言うと、ドタドタとダイニングを出て行った。
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