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ドラゴ帰館
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牧場を構える風景には似合わないスポーツカーが領地内に走り込んで来て、作業をしていた者達はそれぞれに手を止めたり、こそこそと話し合ったりした。
高級車は乱暴に屋敷の前に乱雑に駐車すると、運転席から背の高い男が降りてきた。
助手席からは官能的な肉体を覆う布地が非常に少ないドレスを着た女がピンヒールの靴でぬかるんだ地面に降りて文句を言った。
「やだぁ、泥だらけになっちゃうじゃない。ドラゴ」
「牛のクソが落ちてるから気をつけろよ、アンジー」
アンジーと呼ばれた女は、しかめっ面でドラゴを睨みつけた。
「おい! 主様のお帰りだ!! 出迎えも出来ねのか、田舎モンは!!」
とドラゴが大きな大きな声で言った。
ドラゴは長身の綺麗なだった。
高級車にスタイリッシュなブランドの服装、高級腕時計、そして色気のある女を傍らに置いて、派手な都会の広告を切り取ってそのまま連れて来たような男だった。
逞しい体躯に黒髪、表情はルークとよく似ているが、酒に焼けた声と、しまりのない口元が働く者ではない事を示している。
屋敷の中央の扉が開いて、エイラが顔を出した。
「大袈裟に言わないで、自分で戸を開けて入って来なさいよ。どうせすぐに行くんでしょう?」
「エイラ、久しぶりだな」
とドラゴが言い、エイラはドラゴを見てそしてアンジーを見た。
「呆れた、あなた、アリスを迎えに来たんじゃないの? 花嫁を迎えに女連れって」
とエイラが気分を害した声で言った。
「花嫁? ああ、そうか、そうだな。そんな奴いたな」
「ほんとにあんたって!!」
エイラは腰に手を当てて仁王立ちしている。
「いい加減、あんたもここでルークと一緒に働いたらどうなの? 財産を食いつぶしてばかりいないで!!」
「なんだ? ルークがそう言ってるのか?」
「ルークはそんなこと言わないわ。いつだって真面目で、文句一つ言わないで働いてるわよ」
「じゃあ、いいじゃねえか。ルークは働くのが好きなんだ。俺は金を遣う方が好きだ。ルークもここが嫌ならいつだって出ていけばいいだけだ。そうだろ。だが、あいつには一銭も入らないがな」
ドラゴはがっはっはと笑った。
「しばらく滞在するぞ、荷物運んでおけ」
と言い、ドラゴはアンジーの腰を抱いて屋敷の中に入って行った。
「本当に見下げ果てた男」
とエイラは呟いた。
エイラとジョージの夫婦はこの牧場の使用人だが、ドラゴ、ルークとの幼なじみでもある。エイラもジョージも共に両親が先代の時にこの牧場で働き、そしてその子供達も一緒に育ってきた。ドラゴは尊大で意地の悪いお屋敷の総領息子で、ルークは心優しいその弟だった。今となっては牧場主であるドラゴにはそれなりな対応をしなければならないのは理解しているが、エイラもジョージも働きもせずに金を食い潰すだけのドラゴに対して、そんな態度を取る努力さえ嫌だった。
「エイラ」
ドラゴ帰館を聞いてジョージがやってきた。
「なんだこりゃ、凄い車だな」
玄関前に乗り付けてあるドラゴの車にジョージが目を丸くした。
「女連れで帰ってきて、しばらく滞在するんですってよ。荷物、入れてくれる?」
「女連れ?」
「そうよ、いつものグラマーで派手な女よ。アリスの事なんか気にも留めてないわ」
「そりゃあ……アリスも気の毒に」
「アリスにはルークの方がお似合いだと思うんだけど」
「それは……俺たちがどうこう言えないだろ」
「先代のウォルトンさんもどうしてあんな遺言を残したのかしら。そんなにドラゴだけが可愛いかったのかしらね」
「さあなぁ」
ジョージは肩をすくめて、ドラゴの車の中を覗いてスーツケースを取り出した。
高級車は乱暴に屋敷の前に乱雑に駐車すると、運転席から背の高い男が降りてきた。
助手席からは官能的な肉体を覆う布地が非常に少ないドレスを着た女がピンヒールの靴でぬかるんだ地面に降りて文句を言った。
「やだぁ、泥だらけになっちゃうじゃない。ドラゴ」
「牛のクソが落ちてるから気をつけろよ、アンジー」
アンジーと呼ばれた女は、しかめっ面でドラゴを睨みつけた。
「おい! 主様のお帰りだ!! 出迎えも出来ねのか、田舎モンは!!」
とドラゴが大きな大きな声で言った。
ドラゴは長身の綺麗なだった。
高級車にスタイリッシュなブランドの服装、高級腕時計、そして色気のある女を傍らに置いて、派手な都会の広告を切り取ってそのまま連れて来たような男だった。
逞しい体躯に黒髪、表情はルークとよく似ているが、酒に焼けた声と、しまりのない口元が働く者ではない事を示している。
屋敷の中央の扉が開いて、エイラが顔を出した。
「大袈裟に言わないで、自分で戸を開けて入って来なさいよ。どうせすぐに行くんでしょう?」
「エイラ、久しぶりだな」
とドラゴが言い、エイラはドラゴを見てそしてアンジーを見た。
「呆れた、あなた、アリスを迎えに来たんじゃないの? 花嫁を迎えに女連れって」
とエイラが気分を害した声で言った。
「花嫁? ああ、そうか、そうだな。そんな奴いたな」
「ほんとにあんたって!!」
エイラは腰に手を当てて仁王立ちしている。
「いい加減、あんたもここでルークと一緒に働いたらどうなの? 財産を食いつぶしてばかりいないで!!」
「なんだ? ルークがそう言ってるのか?」
「ルークはそんなこと言わないわ。いつだって真面目で、文句一つ言わないで働いてるわよ」
「じゃあ、いいじゃねえか。ルークは働くのが好きなんだ。俺は金を遣う方が好きだ。ルークもここが嫌ならいつだって出ていけばいいだけだ。そうだろ。だが、あいつには一銭も入らないがな」
ドラゴはがっはっはと笑った。
「しばらく滞在するぞ、荷物運んでおけ」
と言い、ドラゴはアンジーの腰を抱いて屋敷の中に入って行った。
「本当に見下げ果てた男」
とエイラは呟いた。
エイラとジョージの夫婦はこの牧場の使用人だが、ドラゴ、ルークとの幼なじみでもある。エイラもジョージも共に両親が先代の時にこの牧場で働き、そしてその子供達も一緒に育ってきた。ドラゴは尊大で意地の悪いお屋敷の総領息子で、ルークは心優しいその弟だった。今となっては牧場主であるドラゴにはそれなりな対応をしなければならないのは理解しているが、エイラもジョージも働きもせずに金を食い潰すだけのドラゴに対して、そんな態度を取る努力さえ嫌だった。
「エイラ」
ドラゴ帰館を聞いてジョージがやってきた。
「なんだこりゃ、凄い車だな」
玄関前に乗り付けてあるドラゴの車にジョージが目を丸くした。
「女連れで帰ってきて、しばらく滞在するんですってよ。荷物、入れてくれる?」
「女連れ?」
「そうよ、いつものグラマーで派手な女よ。アリスの事なんか気にも留めてないわ」
「そりゃあ……アリスも気の毒に」
「アリスにはルークの方がお似合いだと思うんだけど」
「それは……俺たちがどうこう言えないだろ」
「先代のウォルトンさんもどうしてあんな遺言を残したのかしら。そんなにドラゴだけが可愛いかったのかしらね」
「さあなぁ」
ジョージは肩をすくめて、ドラゴの車の中を覗いてスーツケースを取り出した。
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