テキサス王の花嫁

猫又

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 翌日、一睡も出来ずに夜を明かしたアリスが厩舎へ行くと子牛の姿がなかった。
「あの子牛がいないんですけど……」
 母牛の側で餌の藁をほぐしていた若い牧童が、
「ああ、あの牛はドクターに引き取ってもらったらしいよ。以前からああいう症例が出た場合、研究用に譲ってもらえないかと打診されていたからね」
 と言った。 
「そんな……」
「可哀想だけどね、仕方がないよ。食用にも繁殖用にもならない牛を置いておくわけにはいかないからね」
「……」
 アリスはトボトボと厩舎を出た。
 理屈では分かっているつもりだったが、いなくなった子牛が不憫だった。
 ふらふらと食堂絵へ行くと、牧童達の朝食の時間で賑わっていた。
 窓際にルークの姿もあった。
 入り口から入ったアリスの姿に若い牧童達は口々に声をかけたりしたが、ルークだけは視線を合わせもしなかった。
「お手伝いします……」
 カウンターへ行き声をかけると、マイナおばさんが「助かるわぁ、これ、ルークに持って言ってちょうだい!」とトレーに乗せたホットミルクと焼きたてのパンを差し出した。
「はい」
 アリスはトレーをルークの元まで運び、
「おはようございます」
 と声をかけた。
 ルークは読んでいた新聞をパサッと椅子に置いてから、
「おはよう」
 と返事をした。
「あの子牛、ドクターが連れて行ったんですね」
「ああ、いつまでもあれに金も暇もかけられないからな」
 と言ったルークの声は冷たかった。
「そうです……ね」
 と言い、ルークに背を向けたアリスに、
「君もちょうどよかったんじゃないか。明日、ドラゴが来るらしい、花嫁を迎えにな」
 と言う、ルークの声が追いかけてきた。
「え?」
「もう厩舎にもここにも出入りは止めてくれ。荷物をまとめて、綺麗なドレスを着て大人しくドラゴを待ってるんだな」
 振り返ったアリスの目はとても悲しそうだったが、ルークは彼女の目をみようともしなかった。
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