テキサス王の花嫁

猫又

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ささやかな願い

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 馬の世話を終え、アリスは厩舎を出た。
 遠くの方で雪の中で牛を追い立てている牧童達の姿が目に入った。
「一緒に駆けたら、気持ちいいでしょうね」
 とアリスは呟いた。
 この牧場は気持ちのいい場所だ、自分の家へ帰れないのなら、ここで暮らしたいとアリスは思った。アリスの父の二度目の妻は実子であるケニーだけを溺愛して、全ての財産をケニーだけに継がせたいと考えていた。前妻は聡明で美しく継母はそれを酷く嫉んでおり、美しい前妻に生き写しのアリスの事もまた嫌っていた。
 どこかに自分だけを愛してくれる人と家族を作る、それがアリスのささやかな願いだったが、継母は彼女を遠く離れたテキサスに追いやった。
 そしてアリスは異母弟の為に二度しか会った事のない男の花嫁になるのだ。
「でもここは気持ちがいい場所だわ。ここで暮らせるようにドラゴにお願いしてみたらどうかしら」
 アリスは小さな声で呟いた。
「それは困るな」
 と後ろで声がしてアリスははっと振り返った。
「ルーク」
 ルークが大きな黒い馬に乗ってアリスを見下ろしていた。
「まあ、なんて素敵な馬、綺麗な毛並み」
 とアリスが両手を胸の前でぎゅっと握って笑った。
 ルークは馬から降りてアリスの前に立った。
「馬に乗れるんだって?」
「ええ、私の白馬はサラマンダーという名前なの。とっても賢くて綺麗な馬なのよ」
 とアリスは自慢そうに言って笑った。
「そうか、だが君は二度と馬に乗る事はないだろう」
 とルークが言った。
 アリスの笑みが消え、
「何故?」
 と聞いた。
「ドラゴは馬に乗らない、だから花嫁である君が乗る事も反対すると思う」
「どうしてドラゴは馬に乗らないの? 牧場主なのに? ここは実家なんでしょう? だったら小さい頃から慣れ親しんでるはず」
「全ての牧場主が馬や牛に精通しているわけではないさ。人を雇って経営さえうまくいっていればいいという主もいる」
「そう……なの。ではここで暮らすというのも叶わない?」
「ああ、どうせドラゴは年に一回くらいしか顔を見せない。華やかで便利な都会が好きなんだろう」
 アリスが酷くがっかりしたように俯いたので、
「君だって買い物をしたり、美味いものを食べたり、宝石で着飾ったりする方がいいんだろう?」
 とルークは冷たく言った。
「十万ドルで花嫁になるくらいだからな。可愛らしくしてれば二、三年は花嫁でいられるだろう」
「あの、あなたはドラゴが嫌いなの?」
 とアリスが聞いた。
 ルークはじろっとアリスを見下ろして、
「ああ、嫌いだね。だから、さっさと出て行って欲しい、君もね」
 と言った。
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