テキサス王の花嫁

猫又

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歓迎

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「おい、起きろ。飯だ」
 揺り起こされてアリスはぱっと目を開いた。
「す、すみません」
 暖炉の暖かさで眠ってしまったんだ、と気づいてアリスの顔が真っ赤になった。
「長旅だもの、疲れてるのよ」
 とエイラが言って笑った。
 案内された食堂には恰幅のよい男が椅子に座っていて、
「夫のジョージよ」
 とエイラが言い、ジョージが立ち上がって手を差し出したのでアリスはその大きな手を握った。
「ジョージは牧童頭なの。他の牧童は小屋の食堂で食事するんだけど、あたし達は家族のようなものだから、こちらでね」
「アリス・スプリングです。よろしくお願いします」
 とアリスは言った。
 一枚板の大きなダイニングテーブルでエイラは次々にアリスに食事を勧め、ジョージはアリスの国の事を聞きたがり、そしてルークは静かに食事をするだけだった。
「じゃあ、君も牧場で育ったんだね?」
 とジョージが言い、アリスは嬉しそうにうなずいた。
「ええ、父や牧童の人達と一緒に羊を追ったり、餌の世話もやっていたわ。だから、その、ここでもお手伝い出来ると思うの」
「そりゃ、頼もしいね、なあ、ルーク」
 とジョージがルークに言ったが、ルークはふっと笑って、
「ドラゴの妻になる娘だぞ。そんなことさせられるもんか。ドラゴが引き取りに来るまで綺麗にくるんで奥にしまっとけ」
 と言った。   
「で、でも、ドラゴはここの牧場主なんでしょう? それなら妻になる私も働かないと」
 とアリスが言ったが、ルークはクスッと笑ってから立ち上がった。
「ごちそうさん、エイラ、このお嬢さんには客室を与えて、なるべく部屋から出ないように言っといてくれ。この忙しい時期にうろちょろされたら迷惑だ」
 とルークはそう言ってアリスに背を向けた。
「もう、ルークったら、ほんと無愛想なんだから。アリス、気にしないでね」
「ええ、あの、私、ルークに歓迎されてないんですか?」
 エイラとジョージは顔を見合わせて肩をすくめた。
「ドラゴが来れば分かると思うから先に言っておくわ。ルークとドラゴはあまり仲がよくないの。年も離れてるし、一緒に事業をやっているわけでもないから、二人に接点はあまりないし、だからルークはあなたにも距離を置くだろうけど、仕方ないわ」
 とエイラが言った。
「そうですか……」
「それに、ドラゴはあなたをすぐにもっと暖かい土地へ連れて行くだろうしね」
「ここに住んでるんじゃないんですか?」
「ドラゴはここが……いえ、ドラゴは仕事で世界中を回ってるから、きっとあなたもそういう生活になると思うわ」
「そうなんですか。私、てっきりここでドラゴと一緒に牧場の仕事をすると思ってましたから、それはちょっぴり残念です」
 と言ってアリスはえへへと笑った。
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