テキサス王の花嫁

猫又

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買われた花嫁

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「ようこそ、極寒のテキサスへ」
 と出迎えた女性が微笑みながらアリスに優しく言ったので、 アリスはほっと息をついた。
「初めまして、アリス・スプリングです」
 アリスはニット帽を取りながら真っ赤な顔で言った。
 ルークの車で一時間走り、ついた場所は広大な牧場だった。 
 一面が真っ白いい雪で覆われているが、どこまでも伸びる柵は終わりが見えない。
 屋敷とも呼べる大きな家と牧童小屋が何軒も並び、そして後方には厩舎がずらりと連なっていた。
「寒かったでしょう? 私はエイラ・ストーン。暖炉の前で暖まって、すぐに夕飯にするから」
「何かお手伝いでも」
「いいえ、大丈夫」
 アリスは言われた通りに暖炉の前の椅子に腰を下ろした。
 パチパチと暖炉の火が燃える音が長旅の疲れをまどろみに連れていく。 
 ゆっくりとまぶたは落ち、脳内ではテキサスへやってくる前の日々がぐるぐると周り始めていた。


「頼むよ、アリス、向こうはお前を是非にと望んでいるんだ。お前と結婚したら、うちの経営も援助してくれるし、弟のケリーの医療費も惜しみなく出してくれるし、ミスターウォルトンのコネで世界で一番優秀な心臓外科医を紹介してくれると言うんだ」
 父親はすがるような目でアリスを見て、そして懇願した。
 だが義母のエレインは冷たい目でアリスを見て、「弟の命がかかっているのに、何を悩んでいるの?」と金切り声で言った。
 ケリーは父親と義母の子供だが、自分は前妻の娘である、という事をアリスは理解していた。小さいながらも優秀な馬を排出する牧場を継がせるのはエレインにとって実子であるケリーしかいなかった。だがそのケリーは病に倒れていた。早急に心臓の手術を行わなければならず、莫大な医療費が早急に必要だった。
 アリスに拒否権はなく、言われるがままに出向いたパーティでドラゴ・ウォルトンに会った。ドラゴは年配の男でごつごつした男だった。
 その場でアリスを値踏みし、バージンかどうかを確認した。
 万が一、バージンでない事が発覚、嘘であった場合に莫大な違約金を請求すると初めて会った場でアリスにそう言い放った。
 それでもアリスはうなずくしかなかった。
 エレインとは上手くいかないが、弟のケリーは可愛いかったからだ。 
 まだ小さな弟を死なせる事はとても出来ない。
 ケリーの為にも一生懸命、ドラゴの良い妻になろうとアリスは思っていた。           相手は牧場主で、アリスにも牧場で働いた経験がある。
 それできっとうまくやっていけるに違いない、とアリスは考えていた。
 例え……今は愛がなくても、二人の間に必ずそれは芽生えていくはず……         
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