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出会い
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その瞬間、酒場中が大きな笑い声で揺れた。
「なんてこった。こんな若い娘までか。あんたいくつかね?」
「十九です」
「へえ、金目当てとしてもその器量じゃもっとましな男がいるだろうに。かなり貰ったのかい?」
主人はあっはっはと笑いながら、金を意味する指の動きをして見せた。
娘は真っ赤になって俯いた。
その時、ドアが開いて男が一人入って来た。
娘はぱっと顔を上げて、目当ての人物でない事にまた下を向いた。
「やあ、ルーク、あんたかい、あんたの兄さんを待ってる娘がここにいるんだがね」
と主人が男に声をかけた。
ルーク・ウォルトンはしげしげと娘を見て、「何てこった」と言った。
娘はもう一度顔を上げてルークを見上げた。
大きな男だがほっそりとしている。
上着は分厚い防寒着だったが、カウボーイハットにブーツ、精悍な顔つきに力のある瞳。
素晴らしく美しく力強い男に娘は見とれてから、パッと目を伏せた。
ルークは娘の前の椅子にどがっと乱暴に座り、「このまま帰れ」と言った。
「え?」
「名前は?」
「アリス。アリス・スプリングです」
側で聞いていた主人が「スプリングだって? 聞いたか!! この極寒のテキサスに春が来たぞ!!」と言って、酒場がまた笑いに包まれた。
「兄貴は来ない」
「え? そんなここで待つようにって言われて」
「急ぎの用件が入ってそっちへ行った。俺はやつの代わりにあんたを迎えに来たんだが、あんたにはこのまま自分の国へ帰るように勧める」
「それは出来ません。あの人の花嫁になるって約束したんです」
きっぱりと言うアリスにルークは一瞬戸惑ったが「あんたがそう言うならそれでいいさ。だが後悔しても俺に八つ当たりするなよ。俺は帰る方を勧めたんだからな」と冷たく言った。
アリスはおどおどと何故、この男は自分に冷たいんだろう、帰るように言うのだろう、と考えた。
ルークが立ち上がり「行くぞ、荷物はこれか」と言い、アリスの横に置いてあるスーツケースを手にした。
「あ、はい」
ルークはアリスの荷物を乱暴に車に放り込むと、「兄貴は一週間は来ないと思うぞ。退屈だろうがしょうがない」と言った。
「退屈だなんて。ミスター・ウォルトンは牧場を経営してるんでしょう? 私の実家もオーストラリアで小さいけど牧場をやってたから、私、何だってお手伝いできるわ」
とアリスが嬉しそうな笑顔で言った。
ルークはまじまじとアリスを見て、それから「乗れ、出発する」とぶっきらぼうに言った。
「なんてこった。こんな若い娘までか。あんたいくつかね?」
「十九です」
「へえ、金目当てとしてもその器量じゃもっとましな男がいるだろうに。かなり貰ったのかい?」
主人はあっはっはと笑いながら、金を意味する指の動きをして見せた。
娘は真っ赤になって俯いた。
その時、ドアが開いて男が一人入って来た。
娘はぱっと顔を上げて、目当ての人物でない事にまた下を向いた。
「やあ、ルーク、あんたかい、あんたの兄さんを待ってる娘がここにいるんだがね」
と主人が男に声をかけた。
ルーク・ウォルトンはしげしげと娘を見て、「何てこった」と言った。
娘はもう一度顔を上げてルークを見上げた。
大きな男だがほっそりとしている。
上着は分厚い防寒着だったが、カウボーイハットにブーツ、精悍な顔つきに力のある瞳。
素晴らしく美しく力強い男に娘は見とれてから、パッと目を伏せた。
ルークは娘の前の椅子にどがっと乱暴に座り、「このまま帰れ」と言った。
「え?」
「名前は?」
「アリス。アリス・スプリングです」
側で聞いていた主人が「スプリングだって? 聞いたか!! この極寒のテキサスに春が来たぞ!!」と言って、酒場がまた笑いに包まれた。
「兄貴は来ない」
「え? そんなここで待つようにって言われて」
「急ぎの用件が入ってそっちへ行った。俺はやつの代わりにあんたを迎えに来たんだが、あんたにはこのまま自分の国へ帰るように勧める」
「それは出来ません。あの人の花嫁になるって約束したんです」
きっぱりと言うアリスにルークは一瞬戸惑ったが「あんたがそう言うならそれでいいさ。だが後悔しても俺に八つ当たりするなよ。俺は帰る方を勧めたんだからな」と冷たく言った。
アリスはおどおどと何故、この男は自分に冷たいんだろう、帰るように言うのだろう、と考えた。
ルークが立ち上がり「行くぞ、荷物はこれか」と言い、アリスの横に置いてあるスーツケースを手にした。
「あ、はい」
ルークはアリスの荷物を乱暴に車に放り込むと、「兄貴は一週間は来ないと思うぞ。退屈だろうがしょうがない」と言った。
「退屈だなんて。ミスター・ウォルトンは牧場を経営してるんでしょう? 私の実家もオーストラリアで小さいけど牧場をやってたから、私、何だってお手伝いできるわ」
とアリスが嬉しそうな笑顔で言った。
ルークはまじまじとアリスを見て、それから「乗れ、出発する」とぶっきらぼうに言った。
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