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龍司の世界
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本当に俺達は同じ人間なんだろうか? と本気で考えたのは龍司に連れられて生まれて初めて足を踏み入れたキャバクラという空間だった。席にやってきた女の子はピンクのふわふわした何かを着て、もっさりとした大きく盛り上がった髪は茶色いビニールのようだった。石膏で塗り固めたような白い肌に重そうなびらびらしたまつげ、やたらに唇を尖らせてしゃべるのがみんな共通していた。女の子に興味がない事はないが、何をしゃべっていいのか全然分からない俺はただ龍司の横で座って異星人のような女の子達を眺めていた。龍司は店の常連らしく、どの女の子とも慣れた様子で話す。商売なのか本気なのか女の子達はみんな龍司のしゃべりに大袈裟に体をよじったり、龍司にしなだれかかったりして笑った。龍司が俺の事を双子の弟だと紹介したので、女の子達には大受けだった。
「顔はそっくりだけどぉ、感じが違うね」
ユイちゃんと名乗った娘が笑顔で言った。俺は返事のしようがなく、ただユイちゃんの笑顔を正視できずに視線をきょろきょろさせた。ユイちゃんは俺が照れているのだと思ったらしく、きゃっきゃと手をたたいてまた笑った。
「でも龍司君よりぃ、純な感じ?」
ユイちゃんの笑顔を正視出来ない理由は近所の保険屋のおばさんとそっくりだったからだ。顔が似てるんじゃなく、笑顔が同じだった。営業用のお愛想笑いが仮面のように顔にはりついているんだ。その上、私はこんなに親切で丁寧であなたの事をすごく考えてあげてるのよって顔に書いてある。保険屋のおばさんがどこかの誰かの顧客の話をする時に涙ぐんで、「本当にありがとうって感謝してもらってね、私も嬉しかったわ。がんばったかいがあったの」と言っていた事がある。本当に自分に酔っている感じだった。お客様にこんなに感謝される私! だからあなたも私の保険に入らないっときたもんだ。
きっとユイちゃんも凄腕のキャバ嬢だろうと思う。客全員に特別って顔が出来て、いい思いをさせてあげられるんだろう。だが、その心はきっと金勘定で必死なんだろうな。
金に汚い奴っていうのは分かるもんだ。嫌な匂いがぷんぷんする。
「そういう人、ユイ、好きかも」
かもって何だよ、好きなのかそうでないのかはっきりしろよ。ていうか、なんであんたに好かれなきゃならないんだ。あんたに選ぶ権利があるのかよ。
ああ、駄目だな。俺、この先きっとまともな恋愛は出来ないと思う。女は信用ならないからな。あのろくでなしの母親が身をもって俺に教えたんだ。女はみんな金目当てさ。
そんな俺の心中を察したのか龍司がげらげらと笑い出した。
「お前、ほんっとに真面目だな。世の中の女がみんな金目当てのこんなキャバスケばかりじゃねえぞ」
「あ、龍司君ひど~い。金目当てだなんてぇ、ユイはぁ、お客様にすこしでも心を癒して欲しくてぇ、この仕事してるんだよぉ。みんな、そうだよ。ねえ」
ユイちゃんが他の女の子にそう言うと、皆が口々にうなずいてユイちゃんに同意した。「金持ってねえ客には肘鉄くらわすじゃねえか」
と龍司。
「だってぇ、やっぱお店に来てくれなきゃ駄目だよ。ユイはお店にいるんだしぃ。プライベートで会いたいとかって言われてもぉ困る。ユイに会いたいんならお店に来て欲しいし、お金がないならバイトでもすればいいのに。店に行くお金はないけど会いたいとかって無理だよ。龍司君もそう思うでしょ?」
「そりゃ、正論だ。金のない奴は何にもする権利はねえ」
「だよね~」
龍司ははっはっはと笑ってから俺の肩をたたき、
「こいつは金持ちだぞ。時給九百円のバイトしてるからな」
と言った。そんなの金持ちの範囲にはいらねえよと思ったら、女の子達がきゃーと叫んだ。
「超リッチじゃん。どんなバイトしてるの? もしかしてやばい事やってるの?」
「龍司君もいつもリッチだけど、弟君も余裕じゃん~」
あ、そうか、時給九千円と思えば確かにリッチだわな、そりゃ。
肩をすくめた俺を見て龍司が楽しそうに笑った。そこへ、
「お連れ様がお見えです」とボーイが男を一人案内してきた。店に入る時もそうだったけど、龍司はこの店ではいい顔なんだろう。大枚はたいて遊ぶのか、店員や女の子の態度がとても丁寧だ。
「あ、斉藤さんじゃん」
顔を上げると、
「し、重森」
重森和希512が立っていた。
「こっちで何やってるんですか? 何か買い物?」
「いや、そうじゃなくて、ちょっとした事故で、こっちへ」
「へえ、あ、そうだ、郷田にアレ渡してくれました?」
「あ、わりい、忘れてた」
重森はへへへと笑って、
「まあいいっすけどね。どうせ、もう会う事もないだろうし」
と言った。
「そうだな、リスクを考えるとあんまなぁ」
「ええ」
女の子にグラスを勧められて、重森は濃い水割りをぐいっと飲んだ。
え、こいつ未成年だろ。いいのか。
「け、どいつもこいつも腰抜けどもめ」
と言ったのは龍司だった。
「え、龍司さん、まだやるんすか」
「当たり前だろ。こんなぼろい商売」
「でも、ほどほどにしとかないとゾンビライダーもやばいし、それに霧島君達が龍司さんの羽振りを妬んでちょっかいかけてきてるし」
と重森が心配そうに言った。
「霧島?」
俺の問いに龍司はふんと鼻で笑ったが重森が、
「この辺りをうろうろしてるチーマーで霧島ってのが頭なんです。これがちょっとやばい男で、回線が一本切れてるっていうか、金の為なら何でもするんですよ。人殺しても平気っていう感じで」
と説明した。
「へえ」
「龍司さんがどうもいい金儲けの方法を知ってそうだと噂が広まってて、いろんなやつらから目ぇつけられてるけど、霧島が一番やばいっすね。龍司さん、金遣い派手だから、目立つんですよ」
まじかよ。危ない思いをして手に入れた金をどうして無駄に使うかなぁ。キャバクラでいい顔になってもちやほやされるのは今のうちだけだ。老後の為に蓄えておけよ。と思ったが、そんな助言はしてもこの男には無駄そうなので黙っていた。
龍司は重森の言葉も軽く聞き流すだけだった。よっぽっど腕に自信があるんだろうか。
隣の世界に存在するだけなのに、ずいぶんと俺とは違う。
それから重森もくわえて三人で相当飲んだ。重森はすぐに酔っぱらってわけの分からない言葉をしゃべり始めた。俺はあまり酒に酔わない方なのだが、次元の影響か今夜はどうも神経が高揚しているように感じた。早く元の世界に帰らなきゃと思うのだが、龍司との会話も酒もが楽しかった。俺の人生の中でこんなに楽しい時間を過ごしたのは生まれて初めてかもしれない。龍司は顔色も変わらず、酔ったような素振りも見せなかった。
「顔はそっくりだけどぉ、感じが違うね」
ユイちゃんと名乗った娘が笑顔で言った。俺は返事のしようがなく、ただユイちゃんの笑顔を正視できずに視線をきょろきょろさせた。ユイちゃんは俺が照れているのだと思ったらしく、きゃっきゃと手をたたいてまた笑った。
「でも龍司君よりぃ、純な感じ?」
ユイちゃんの笑顔を正視出来ない理由は近所の保険屋のおばさんとそっくりだったからだ。顔が似てるんじゃなく、笑顔が同じだった。営業用のお愛想笑いが仮面のように顔にはりついているんだ。その上、私はこんなに親切で丁寧であなたの事をすごく考えてあげてるのよって顔に書いてある。保険屋のおばさんがどこかの誰かの顧客の話をする時に涙ぐんで、「本当にありがとうって感謝してもらってね、私も嬉しかったわ。がんばったかいがあったの」と言っていた事がある。本当に自分に酔っている感じだった。お客様にこんなに感謝される私! だからあなたも私の保険に入らないっときたもんだ。
きっとユイちゃんも凄腕のキャバ嬢だろうと思う。客全員に特別って顔が出来て、いい思いをさせてあげられるんだろう。だが、その心はきっと金勘定で必死なんだろうな。
金に汚い奴っていうのは分かるもんだ。嫌な匂いがぷんぷんする。
「そういう人、ユイ、好きかも」
かもって何だよ、好きなのかそうでないのかはっきりしろよ。ていうか、なんであんたに好かれなきゃならないんだ。あんたに選ぶ権利があるのかよ。
ああ、駄目だな。俺、この先きっとまともな恋愛は出来ないと思う。女は信用ならないからな。あのろくでなしの母親が身をもって俺に教えたんだ。女はみんな金目当てさ。
そんな俺の心中を察したのか龍司がげらげらと笑い出した。
「お前、ほんっとに真面目だな。世の中の女がみんな金目当てのこんなキャバスケばかりじゃねえぞ」
「あ、龍司君ひど~い。金目当てだなんてぇ、ユイはぁ、お客様にすこしでも心を癒して欲しくてぇ、この仕事してるんだよぉ。みんな、そうだよ。ねえ」
ユイちゃんが他の女の子にそう言うと、皆が口々にうなずいてユイちゃんに同意した。「金持ってねえ客には肘鉄くらわすじゃねえか」
と龍司。
「だってぇ、やっぱお店に来てくれなきゃ駄目だよ。ユイはお店にいるんだしぃ。プライベートで会いたいとかって言われてもぉ困る。ユイに会いたいんならお店に来て欲しいし、お金がないならバイトでもすればいいのに。店に行くお金はないけど会いたいとかって無理だよ。龍司君もそう思うでしょ?」
「そりゃ、正論だ。金のない奴は何にもする権利はねえ」
「だよね~」
龍司ははっはっはと笑ってから俺の肩をたたき、
「こいつは金持ちだぞ。時給九百円のバイトしてるからな」
と言った。そんなの金持ちの範囲にはいらねえよと思ったら、女の子達がきゃーと叫んだ。
「超リッチじゃん。どんなバイトしてるの? もしかしてやばい事やってるの?」
「龍司君もいつもリッチだけど、弟君も余裕じゃん~」
あ、そうか、時給九千円と思えば確かにリッチだわな、そりゃ。
肩をすくめた俺を見て龍司が楽しそうに笑った。そこへ、
「お連れ様がお見えです」とボーイが男を一人案内してきた。店に入る時もそうだったけど、龍司はこの店ではいい顔なんだろう。大枚はたいて遊ぶのか、店員や女の子の態度がとても丁寧だ。
「あ、斉藤さんじゃん」
顔を上げると、
「し、重森」
重森和希512が立っていた。
「こっちで何やってるんですか? 何か買い物?」
「いや、そうじゃなくて、ちょっとした事故で、こっちへ」
「へえ、あ、そうだ、郷田にアレ渡してくれました?」
「あ、わりい、忘れてた」
重森はへへへと笑って、
「まあいいっすけどね。どうせ、もう会う事もないだろうし」
と言った。
「そうだな、リスクを考えるとあんまなぁ」
「ええ」
女の子にグラスを勧められて、重森は濃い水割りをぐいっと飲んだ。
え、こいつ未成年だろ。いいのか。
「け、どいつもこいつも腰抜けどもめ」
と言ったのは龍司だった。
「え、龍司さん、まだやるんすか」
「当たり前だろ。こんなぼろい商売」
「でも、ほどほどにしとかないとゾンビライダーもやばいし、それに霧島君達が龍司さんの羽振りを妬んでちょっかいかけてきてるし」
と重森が心配そうに言った。
「霧島?」
俺の問いに龍司はふんと鼻で笑ったが重森が、
「この辺りをうろうろしてるチーマーで霧島ってのが頭なんです。これがちょっとやばい男で、回線が一本切れてるっていうか、金の為なら何でもするんですよ。人殺しても平気っていう感じで」
と説明した。
「へえ」
「龍司さんがどうもいい金儲けの方法を知ってそうだと噂が広まってて、いろんなやつらから目ぇつけられてるけど、霧島が一番やばいっすね。龍司さん、金遣い派手だから、目立つんですよ」
まじかよ。危ない思いをして手に入れた金をどうして無駄に使うかなぁ。キャバクラでいい顔になってもちやほやされるのは今のうちだけだ。老後の為に蓄えておけよ。と思ったが、そんな助言はしてもこの男には無駄そうなので黙っていた。
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