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ネグレクトされた子供達
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「美香子さんの事じゃないよ。でも本当に死にたいんなら、リスカじゃなくて、練炭中毒が一番楽かな。眠ってそのまま逝ける。車とか練炭とか薬とか用意がいるけどね。場所も探さないと、中途半端に見つかると助けられるし」
美香子さんはあっけにとられたような顔をして俺を見た。
「経験があるの?」
「俺じゃないけどね。死にたがりの仲間がいて、絶対失敗しない楽に死ねる方法を探してさ、結局それで逝っちゃったよ。まあ、楽だったかどうかは本人に聞いてみないことにはなんとも言えないけどね」
「そう」
「首つりもそんなに苦しくないらしいよ。意識がぼーっとしてきてそれで終わりだってさ。十分間見つからなければ成功らしいよ。ただ、辺り一面垂れ流しになるから周囲が迷惑だよね。隣だから俺としては困る」
「その友達はどういう理由で死んじゃったの?」
「ネグレクトされた子供のなれの果てさ。助け出されて施設に預けられ矯正されたけど、もうどうにならなかったって奴」
「ネグレクト……」
見る見る美香子さんの目に涙が溢れてきた。
「可哀想に」
「そうかな」
俺の言葉に美香子さんは顔を上げた。
「早く生まれ変わってくる方がいいんじゃない。狂った自分をもてあまして死にたい死にたいってばか考えてる人生なんてさ。どうせならリセットした方がましなんじゃない。次はもう少しましな親の腹に宿るかもしれないしさ。あいつの為さ」
「そう……かな」
「罪を憎んで人を憎まずなんて、きれい事だよ。犯罪を犯して捕まっても死刑になんてならない。あいつは死んだのにあいつの母親はまだ生きてるんだぜ。例え刑務所に入ったとしても税金で食わせてもらって、楽じゃん。改心もしない。どうせ出て来てもまた同じ事をする。避妊する方法も知らない馬鹿な女がぼろぼろガキ作って虐待して捨てて。いっそ、堕ろしてくれたほうがましだ。命になる前に!」
つい言い過ぎた。死という言葉にはいろいろと言いたい事があるからだ。普段、こんな話をするような友人がいない。だからつい調子づいてしまった。
「っていう風な事を聞いたからさ」
と俺は話を締めくくった。
「龍司君」
美香子さんは目を大きく見開いて俺を見ていた。
「もしかして龍司君もそうなの?」
「え、えーまあ、まあね、そんなこともあったかな」
「そうなの」
美香子さんはうつむいて、
「でも龍司君は死にたいなんて思わないのね」
と言った。
「俺達はかわいそうな子供だった。かわいそうな子供はずっとかわいそうな子供で、誰もそこから助けてなんてくれない。大人も遠巻きにかわいそうねって言うだけなんだ。だからさ、俺は自分でそこから逃げ出さなきゃならなかった。俺はかわいそうなんかじゃなく、自分の足で立つ一人の人間になりたいと思わないとだめなんだ。俺の仲間はかわいそうな子供のまま死んだ奴もいるし、常識外れの大人になったのもいる。普通の大人になった奴もいるし、まだ子供のままで母親を待ってる奴もいる」
「龍司君は強いのね」
「そうでもないよ。俺はね、人より薄情なんだと思う。だから母親にも親戚にも施設の先生にも期待しなかったんだ。だから、きっと傷が浅いんだよ」
俺は照れ隠しに残ったビールを一気に飲み干した。美香子さんは黙ってしまって、グラスの水滴を見つめていた。余計な事を話してしまった。俺のことよりも美香子さんの死にたい事情を聞いてあげた方がよかったのかもしれない。だけど、俺はなんだか眠たくなってしまったので、
「美香子さんにもそういう重い事情があるかもしんないけど、死ねないって事は何かやり残した事があるんだよ。きっと」
と締めくくるように付け加えた。
「やり残した事……」
「うん、今は思いつかないかもしれないけど、きっと見つかるよ」
「そうかしら……」
「うん」
「龍司君も探してるの?」
美香子さんの声は涙声になっていた。目は真っ赤でしゃべるたびに涙がはらはらとこぼれ落ちる。
「そう……だね。探してる。だからさ、俺は狂気には墜ちない。俺にはきっと何か残ってると信じてるからまだ大丈夫」
美香子さんはあっけにとられたような顔をして俺を見た。
「経験があるの?」
「俺じゃないけどね。死にたがりの仲間がいて、絶対失敗しない楽に死ねる方法を探してさ、結局それで逝っちゃったよ。まあ、楽だったかどうかは本人に聞いてみないことにはなんとも言えないけどね」
「そう」
「首つりもそんなに苦しくないらしいよ。意識がぼーっとしてきてそれで終わりだってさ。十分間見つからなければ成功らしいよ。ただ、辺り一面垂れ流しになるから周囲が迷惑だよね。隣だから俺としては困る」
「その友達はどういう理由で死んじゃったの?」
「ネグレクトされた子供のなれの果てさ。助け出されて施設に預けられ矯正されたけど、もうどうにならなかったって奴」
「ネグレクト……」
見る見る美香子さんの目に涙が溢れてきた。
「可哀想に」
「そうかな」
俺の言葉に美香子さんは顔を上げた。
「早く生まれ変わってくる方がいいんじゃない。狂った自分をもてあまして死にたい死にたいってばか考えてる人生なんてさ。どうせならリセットした方がましなんじゃない。次はもう少しましな親の腹に宿るかもしれないしさ。あいつの為さ」
「そう……かな」
「罪を憎んで人を憎まずなんて、きれい事だよ。犯罪を犯して捕まっても死刑になんてならない。あいつは死んだのにあいつの母親はまだ生きてるんだぜ。例え刑務所に入ったとしても税金で食わせてもらって、楽じゃん。改心もしない。どうせ出て来てもまた同じ事をする。避妊する方法も知らない馬鹿な女がぼろぼろガキ作って虐待して捨てて。いっそ、堕ろしてくれたほうがましだ。命になる前に!」
つい言い過ぎた。死という言葉にはいろいろと言いたい事があるからだ。普段、こんな話をするような友人がいない。だからつい調子づいてしまった。
「っていう風な事を聞いたからさ」
と俺は話を締めくくった。
「龍司君」
美香子さんは目を大きく見開いて俺を見ていた。
「もしかして龍司君もそうなの?」
「え、えーまあ、まあね、そんなこともあったかな」
「そうなの」
美香子さんはうつむいて、
「でも龍司君は死にたいなんて思わないのね」
と言った。
「俺達はかわいそうな子供だった。かわいそうな子供はずっとかわいそうな子供で、誰もそこから助けてなんてくれない。大人も遠巻きにかわいそうねって言うだけなんだ。だからさ、俺は自分でそこから逃げ出さなきゃならなかった。俺はかわいそうなんかじゃなく、自分の足で立つ一人の人間になりたいと思わないとだめなんだ。俺の仲間はかわいそうな子供のまま死んだ奴もいるし、常識外れの大人になったのもいる。普通の大人になった奴もいるし、まだ子供のままで母親を待ってる奴もいる」
「龍司君は強いのね」
「そうでもないよ。俺はね、人より薄情なんだと思う。だから母親にも親戚にも施設の先生にも期待しなかったんだ。だから、きっと傷が浅いんだよ」
俺は照れ隠しに残ったビールを一気に飲み干した。美香子さんは黙ってしまって、グラスの水滴を見つめていた。余計な事を話してしまった。俺のことよりも美香子さんの死にたい事情を聞いてあげた方がよかったのかもしれない。だけど、俺はなんだか眠たくなってしまったので、
「美香子さんにもそういう重い事情があるかもしんないけど、死ねないって事は何かやり残した事があるんだよ。きっと」
と締めくくるように付け加えた。
「やり残した事……」
「うん、今は思いつかないかもしれないけど、きっと見つかるよ」
「そうかしら……」
「うん」
「龍司君も探してるの?」
美香子さんの声は涙声になっていた。目は真っ赤でしゃべるたびに涙がはらはらとこぼれ落ちる。
「そう……だね。探してる。だからさ、俺は狂気には墜ちない。俺にはきっと何か残ってると信じてるからまだ大丈夫」
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