土御門十二神〜赤の章〜

猫又

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赤狼と桜姫

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 金色の鬼が赤狼にとどめを刺してやろうかと腕を伸ばした。
 その足下に桜子が走り寄る。
「桜姫……」
 金の鬼は足下の桜子を見た。
 桜子は足を止めて金色の鬼を見上げた。
 ずうんと音がし、桜子の目の前に鬼が跪いた。
 桜子の身体を掴もうと大きな手が伸びてきた。
 緑鼬と橙狐がうなりを上げて桜子の前に飛び出したが、指一本ではじき飛ばさされてしまった。
「て、てめえ! 桜子に触るな!!!! クソ鬼! ふざけんな!!」
 という怒号とともに赤狼が牙を剝いて飛んできた。
 酷く傷ついているはずなのだが、それでも桜子を助けようと気力を振りしぼっている。
 鬼の肩に噛みつき、その鋭い牙が肩の肉に食い込んでいく。
 固そうな皮膚が破れ肉が裂け、鮮血がしたたり落ちる。
 赤狼はぺっと鬼の肉を吐き出してから、今度は首筋に噛みついた。
 痛かったのだろう。
 鬼が悲鳴のような怒号を発し、立ち上がり暴れ出した。
 怒り心頭なのだろう、今までよりも勢いを増した金の鬼が赤狼につかみかかった。
 金色の尖った爪が赤狼の身体にめり込む。
 赤狼が痛みに顔をしかめた。金の鬼は大きな拳を赤狼の顔にたたき込んだ。 
 顔の形が歪むほどの衝撃で殴られ、赤狼は息をするのも辛そうに肩で息をした。

『やめて……やめなさい! 闘鬼! 赤狼を傷つける事は許しません! 十二神は……我らは家族も同様の絆……大切な仲間を傷つける事は許しません!』

 桜子は闘鬼の方へ手を伸ばしながらそう叫んだ。
 桜子である意識はあるが、その中で誰か他の人間が赤狼を救えと叫んでいる。
『もう……二度と……赤狼を失う事は許しません! 姫は……姫は……』
 そう叫んでから桜子の唇の動きが止まった。
 霧が晴れるように頭の中がクリアになるに従って、蘇ってくる記憶。
 
 姫だった自分、親しい友のように集う式神達。
 中でも強く美しい赤い狼は自分を慕って護ってくれた。
 癒しの能力を持つ自分は何度も悪霊や悪鬼に攫われた。
 その度に助けに駆けつける式神達、先頭きって飛んでくるのは決まって赤狼だった。
 傷だらけになっても、その美しい毛皮がすり切れてぼろぼろになっても、自分を犠牲にして桜姫を助けた。
 赤狼の想いは桜姫に十分伝わっていた。
 妖と人という異種でありながらもお互いを大事に想い合う気持ちは十分だった。
 普通の人間とは違う安倍家の中でも特に濃い桜姫の霊能力。
 悪霊との戦いの為だけに生かされていた桜姫と妖の身でありながら高い知性を持った為に人間に利用され、その人間に裏切られ傷ついて長い時を過ごしてきた赤狼。
 出会ったからこそもう二人は寂しい時を過ごさなくてよくなり、二人でいれば悪霊との戦いも安倍家に利用されるだけの能力も大切に思えるようになっていた。

 人の一生は短く、妖である赤狼よりも桜姫が先に死ぬのは分かっていた。
 綺麗な時も一瞬で、桜姫はやがて老いて醜く、身体も動かなくなる。
 赤狼を癒せる能力もやがて枯れ果てて、ただの老婆になる。
 それでも今、同じ時を生きる事だけで嬉しい、桜姫はそう思っていたし、赤狼もそうだった。
 老いも醜さも関係ない。
 例え桜姫に妖にとって最上級の滋養となる癒しの気が無くなっても姫を護って最後の時まで共に生きたい、と赤狼は願っていた。

 だが先に死んだのは赤狼だった。
 桜姫を護って悪妖もろとも自爆した。
 生まれ変わってもまた会える様に願いながら。

「赤狼……姫を残して何故……逝ってしまったの……姫は……」
 と桜子が呟いた。

 
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