土御門十二神〜赤の章〜

猫又

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強者の闘い2

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「あー、当主の大事にしてる国宝級の盆栽が……あれ高いんっすよ」
 と緑鼬が二神の闘いを見ながら言った。
「ケーン」
 と橙狐がちゃかすように甲高く鳴いた。
「分かってるっす。闘鬼さんを呼びだすなんて無茶をする次代を止められなかったんだから当主は自業自得っす。次代は解任されて、土御門追放!って当主が言ってたっすけど」
「ケーン」
「それで済めばいいっすけどね。当主も責任を感じて引退とかの可能性もね」
「そうしたらまた十二神の位争奪戦でやんすか?」
 と口を挟んできたのは茶蜘蛛だった。
 カサカサと小刻みに動くので、桜子はずっと茶蜘蛛から目を離せなかった。
「争奪戦とかもういいっすよ」
 と緑鼬が言った。
「そうでやんすねえ。それにしても桜姫様が転生なさってたとは、赤狼も喜んだでやんしょ」
「え? あの、茶蜘蛛さん? あなたも私の前世に会ってる?」
 茶蜘蛛は桜子に声をかけてもらったのが嬉しかったのか、カサカサカサと素早く桜子の側に寄ってきた。
「ひ」
 桜子の身がすくむ。
「もちろんでさあ。あっしは赤狼と共に姫様の護衛でやんした」
「そ、そうなんだ」
「あっしの吐き出した糸で作ったハンモックは姫のお気に入りでやんした」
「え……蜘蛛の糸のハンモック? それ人間が乗っても大丈夫なの?」
「人間どころかあっしの糸は鋼鉄のビルくらい持ち上げられるっす」
「マジ? 凄い!」
「えへへへ」
 桜子に褒められたのが嬉しかったのか、茶蜘蛛は長い脚の一本で頭部あたりをぽりぽりうとかいた。
「茶蜘蛛、いい加減にしとけっす」
 緑鼬が茶蜘蛛の脚を鋭い爪でひっかいた。
「調子のんなっす。桜子さんに馴れ馴れしいんだ、てめえ。赤狼さんに言いつけるぞ」
「ふん、うるさい鼬でやんす」

 ドスン!とまた地響きがして、そちらに視線を向けると、赤狼が地面に叩き伏せられたところだった。
 金の鬼は地面に倒れ込んだ赤狼の長い尾をつかみんだ。
 両手で尾を掴むと勢いをつけて身体を回転しながら引っ張る。
 赤狼の身体は鬼に引っ張られ、グルグルと宙を飛びながら回転した。
 金の鬼が赤狼を門に向かって投げ飛ばそうとしているのは桜子も分かった。
「赤狼君!」
 という桜子の声に反応したのか、金の鬼がチラッと桜子を見た。
 それでも手を休ませる事はなくぐるぐると回転の速度を上げていく。
 金色の回転が赤い物体を回転の勢いに任せて投げ飛ばした。
 赤い物体は勢いよく北の門戸の方へ飛んで行った。
「うっわ、来たで、水蛇! 赤狼の身体を止めるでぇ!」
 北の門戸で待機している玄武神が力を増した。
「結界は抜かれたらあかんで!」
「分かってるにょん!」
 赤狼の身体が門戸に衝突する直前に、玄武神の放った衝撃派が赤狼の身体を止めた。
 赤狼はその場にどうんっともんどり打って倒れた。
 その間に金の鬼は赤狼を追う事はなく、青帝の護る門へと近寄ってきた。
「闘鬼殿、そろそろ目を覚ましたがよかろうぞ」
 と門の上の大きな青い龍が言った。
「青帝大公……ふん、まだ生きてたのか」
 と金の鬼は言ったが、巨大な鬼が頭上遙か上で途切れ途切れに話す言葉は桜子には聞き取り辛かった。
 金の鬼は青帝大公の門を無理に開けようとはしなかった。
 すぐにきびすをかえすと南の門戸の方向へどすんどすんと歩き出した。
「キエエエエエ」
 南の門戸を守る朱雀神が警戒するように羽ばたいて鳴いてから空に舞った。
 どすんどすんと歩く金の鬼に対して朱雀神は上空から急降下し、その勢いで凄まじい火炎を吐いた。
 だが金の鬼はその炎を片腕でなぎ払った。
 炎はあっという間に消えたが、朱雀神はすぐさま第二弾の炎を吐いた。
 その炎は巨大な鬼の姿をすべて隠してしまうほどの烈火で空気さえも煮えたぎっている。あまりに激しい温度の上昇に残った樹木や板塀に勝手に着火していく。
「止めろ!! 朱雀!! 闘鬼の破壊より、お前の炎が何もかも燃やし尽くししまう!」
 ようやく体制を立て直した赤狼が走ってきて、朱雀神を止めた。
 プライドの高い鳳凰は機嫌良く金の鬼を攻撃していたのに、止められてへそを曲げてしまった。
「キエエエエエエエエエエエ!!」
 と鳴いてふんっと羽ばたきを止めた。
 南の門戸の上にとまり羽を休め、もう二度と働かないぞ、とばかりつんっと横を向いた。
  金の鬼は体中を火傷して少しばかり力が弱まったようだが、怒りはますます燃え上がり再び赤狼へ憎悪を向けた。
 怒り狂った金の鬼が赤狼を叩き潰す。
 殴っては殴られ、噛みついては噛みつかれ、攻防は緊迫していた。
 だがやはり一日の長は金の鬼にあった。
 赤狼の疲労が激しくなり、動きが鈍くなってきた。
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