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召喚
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金色に光る巨大な鬼は粉々に粉砕してしまった五階建ての神道会館を踏みつぶしてから辺りをきょろきょろと見渡した。
西の方には広大な庭に二千坪はある本家の日本家屋がある。
「これで気が済んで闇の塒に帰ってくれればいいが……」
だが金の鬼は足を西の方へ向けた。
「駄目か」
「赤狼! 鬼が西へ向かうにょん、あっちは銀猫がいるが手薄だにょん!」
と空を水色の大蛇が飛んできた。
「しょうがねえな、水蛇、当主は?」
「弟子と一緒に南の方へ向かったにょん。緑鼬は次代を守ってるが、おっつけ来ると思うにょん」
「非常事態だ、桜子」
「え、は、はい!」
切羽詰まった赤狼の声に桜子がびっくりして目を開けた。
「今から俺の言う呪言を復唱しろ。大きな声で、真剣にな」
「は、はい」
鬼の咆吼と地響きと、逃げ惑う人間達と右往左往する式神達。
神道会館は壊れて瓦礫の山、破片に潰されて泣き叫ぶ生徒達。
結界を張っているので鬼は外へ出られないが、外から救助も来ない。
「我、土御門の属子にして再生の見鬼なり」と赤狼が言った。
「わ、我、土御門の属子にして、さ、再生の見鬼なり……」
「もう一度! もっと腹の底から力を込めて大きな声で天に届くようにだ! 真剣にやれ!」
赤狼が焦ったように怒鳴った。
「は、はい! ごめんなさい。我、土御門の属子にして再生の見鬼なり!!」
「再生の見鬼である土御門桜子がここで宣言する!」
「再生の見鬼である土御門桜子がここで宣言する!」
「十二神、招集! 今すぐ我の元へ集え!」
「十二神、招集! 今すぐ我の元へ集え!」
「青帝大公! 黒凱! 白露! 紫亀! 水蛇! 銀猫! 黄虎! 緑鼬! 橙狐! 茶蜘蛛! 我の元に集え! 我と共に闘え!」
「青帝……大公! え……と何だっけ」
赤狼は深いため息をついた。
「いいか、俺の後に続いて一つずつ復唱しろ」
「は、はい、ごめんなさい」
「青帝大公! 『青帝大公!』 黒凱! 『黒凱!』 白露! 『白露!』 紫亀! 『紫亀!』 水蛇! 『水蛇!』 銀猫! 『銀猫!』 黄虎! 『黄虎!』 緑鼬! 『緑鼬!』 橙狐! 『橙狐!』 茶蜘蛛! 『茶蜘蛛』 我の元に集え! 『我の元に集え!』 我と共に闘え! 『我と共に闘え!』」
桜子が言い終わった瞬間に、どうん!と地面が鳴り、天が鳴った。
雷鳴が轟き、天の夜を破って大きな大きな濃青の者がゆっくりと下りてきた。
「久しいのぉ、桜姫様」
と桜子の前に顔を下ろしたのは大きな大きな青い龍だった。
「え……」
桜子があっけにとられている内にも次々に異形の者が集まってくる。
紫の亀、水色の蛇、濃緑の鼬、銀色の猫はすでに見知っている。
それ以外に、大きな黄色い虎が「にゃーん」と言って銀猫の小さい身体に飛びついた。
銀猫は「大きい図体して」と言いながらも黄色い虎の顔を舐めて身繕いしてやった。
「ケーン」と鳴いて姿を現したのは美しいオレンジ色の狐で、ふっさっふさの胸毛を誇らしそうに反らしている。
「ゲゲゲゲゲ」「キュルルルル」
と交互に鳴いて頭上を羽ばたいているのは巨大な黒い鳥と白い鳥。
仲良さそうにばさばさと絡まり合いながら飛んでいる。
そして最後に地面の上をカサカサカサと走ってきたのは大きな大きな巨大な茶色い蜘蛛。
人間よりも大きい。そして長いふさふさした毛がびっしり生えた長い脚が八本。
顔と思わしき部分は丸い大きな目が二つとその横並びに小さい目が複数ついている。
桜子の視線は茶色い蜘蛛に注がれている。手の平大の蜘蛛は見た事あるがこんな大きな、ライオンや象すらその長い脚で絡め取ってしまいそうな蜘蛛は初めてだ。
目を離してしまうとどこへ消えてしまうか分からない、そして再び出て来た時に心臓が飛び出るほど驚かされるくらいならずっと見つめている方がましだ。
桜子にとって蜘蛛ってやつはそんなやつだ。
「桜姫! お声がかかり光栄でやんす!」
と茶蜘蛛が言った。案外ひょうきんな者かもしれない。
「ど、どうも、よろしくお願いします……」
西の方には広大な庭に二千坪はある本家の日本家屋がある。
「これで気が済んで闇の塒に帰ってくれればいいが……」
だが金の鬼は足を西の方へ向けた。
「駄目か」
「赤狼! 鬼が西へ向かうにょん、あっちは銀猫がいるが手薄だにょん!」
と空を水色の大蛇が飛んできた。
「しょうがねえな、水蛇、当主は?」
「弟子と一緒に南の方へ向かったにょん。緑鼬は次代を守ってるが、おっつけ来ると思うにょん」
「非常事態だ、桜子」
「え、は、はい!」
切羽詰まった赤狼の声に桜子がびっくりして目を開けた。
「今から俺の言う呪言を復唱しろ。大きな声で、真剣にな」
「は、はい」
鬼の咆吼と地響きと、逃げ惑う人間達と右往左往する式神達。
神道会館は壊れて瓦礫の山、破片に潰されて泣き叫ぶ生徒達。
結界を張っているので鬼は外へ出られないが、外から救助も来ない。
「我、土御門の属子にして再生の見鬼なり」と赤狼が言った。
「わ、我、土御門の属子にして、さ、再生の見鬼なり……」
「もう一度! もっと腹の底から力を込めて大きな声で天に届くようにだ! 真剣にやれ!」
赤狼が焦ったように怒鳴った。
「は、はい! ごめんなさい。我、土御門の属子にして再生の見鬼なり!!」
「再生の見鬼である土御門桜子がここで宣言する!」
「再生の見鬼である土御門桜子がここで宣言する!」
「十二神、招集! 今すぐ我の元へ集え!」
「十二神、招集! 今すぐ我の元へ集え!」
「青帝大公! 黒凱! 白露! 紫亀! 水蛇! 銀猫! 黄虎! 緑鼬! 橙狐! 茶蜘蛛! 我の元に集え! 我と共に闘え!」
「青帝……大公! え……と何だっけ」
赤狼は深いため息をついた。
「いいか、俺の後に続いて一つずつ復唱しろ」
「は、はい、ごめんなさい」
「青帝大公! 『青帝大公!』 黒凱! 『黒凱!』 白露! 『白露!』 紫亀! 『紫亀!』 水蛇! 『水蛇!』 銀猫! 『銀猫!』 黄虎! 『黄虎!』 緑鼬! 『緑鼬!』 橙狐! 『橙狐!』 茶蜘蛛! 『茶蜘蛛』 我の元に集え! 『我の元に集え!』 我と共に闘え! 『我と共に闘え!』」
桜子が言い終わった瞬間に、どうん!と地面が鳴り、天が鳴った。
雷鳴が轟き、天の夜を破って大きな大きな濃青の者がゆっくりと下りてきた。
「久しいのぉ、桜姫様」
と桜子の前に顔を下ろしたのは大きな大きな青い龍だった。
「え……」
桜子があっけにとられている内にも次々に異形の者が集まってくる。
紫の亀、水色の蛇、濃緑の鼬、銀色の猫はすでに見知っている。
それ以外に、大きな黄色い虎が「にゃーん」と言って銀猫の小さい身体に飛びついた。
銀猫は「大きい図体して」と言いながらも黄色い虎の顔を舐めて身繕いしてやった。
「ケーン」と鳴いて姿を現したのは美しいオレンジ色の狐で、ふっさっふさの胸毛を誇らしそうに反らしている。
「ゲゲゲゲゲ」「キュルルルル」
と交互に鳴いて頭上を羽ばたいているのは巨大な黒い鳥と白い鳥。
仲良さそうにばさばさと絡まり合いながら飛んでいる。
そして最後に地面の上をカサカサカサと走ってきたのは大きな大きな巨大な茶色い蜘蛛。
人間よりも大きい。そして長いふさふさした毛がびっしり生えた長い脚が八本。
顔と思わしき部分は丸い大きな目が二つとその横並びに小さい目が複数ついている。
桜子の視線は茶色い蜘蛛に注がれている。手の平大の蜘蛛は見た事あるがこんな大きな、ライオンや象すらその長い脚で絡め取ってしまいそうな蜘蛛は初めてだ。
目を離してしまうとどこへ消えてしまうか分からない、そして再び出て来た時に心臓が飛び出るほど驚かされるくらいならずっと見つめている方がましだ。
桜子にとって蜘蛛ってやつはそんなやつだ。
「桜姫! お声がかかり光栄でやんす!」
と茶蜘蛛が言った。案外ひょうきんな者かもしれない。
「ど、どうも、よろしくお願いします……」
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