土御門十二神〜赤の章〜

猫又

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金の鬼 闘鬼

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「お前は一体何を学んで来たんだ。川姫の位が低いからだと? 馬鹿な、お前が川姫の力を育ててやるんだ。そうすれば川姫はお前の力を引き立ててくれる。自分では何もせずに、式神の力に頼ろうなどと、言語道断だ。情けない!」
「はいはい、そうです。僕は情けない駄目な人間でーす」
 そう言いながらも如月の両手は印を結んでいる。
 左京の言葉を頭を垂れて聞いているようなふりをしていたが、その間、如月はずっと呪禁の言葉を唱えていた。
『オンギョウ……キ、ヨル……セイギョウ……オンソカワ……イデヨ……』
「止めなさい! 如月!」
『日の本最強の式神にして誉れある金の鬼よ、土御門の前に姿を現し給え!』
『姿を現し給え!』
『御身に千個の魂を与える!』
『与える!』
 如月の言葉の後に生徒達が復唱し、それは道場を揺るがすほどの大合唱だった。
「如月!」
 左京は如月の肩を掴んで揺さぶったりしたが、何故だかびくともしない。
 振り返って生徒達にも「止めなさい!」と叫んでみたが、全員がこの場の雰囲気に飲まれ一同がヒステリー状態になってしまい、当主の言葉すら届かない。
 一同は何度も何度も『現れ給え!』と叫んだ。
『現れ給え!』
 如月の気力を振りしぼった一声が上がった瞬間、千個の魂が積まれた上の空間に歪みが現れた。それは小さな亀裂だったが少しずつ大きくなり、やがてそれを見ている者は道場の空間が真っ二つ割れるような錯覚を覚えた。 
 その割れた空間から何かが出てきた。
 金色に光る細く尖った物だった。
 それが少しずつ表に出てきたが、誰もそれを生き物の爪だとは思えなかった。
 巨大で金色に光る鋭利な爪に続いて逞しい腕と思われる部分が出てきた。
「あ!」
 だがそれは尋常な大きさではなかった。
 腕だけで人間の大人の男性一人分ほどサイズであり、それが空間を破った裂け目からにゅうっと出てきたと思うと床を力任せに叩きつけた。
 道場の床がまるで薄っぺらい煎餅のように簡単に割れた。
 その威力に如月の身体は吹き飛び、桔梗は慌てて道場の隅へと移動した。
 腕の次に金色に輝く髪の毛が見え、頭、顔、肩、胴体が出てきた所で、生徒達のほぼ全員が気を失った。その禍々しい姿態は防御する力のない弱者には圧倒的な恐怖と憎悪、狂乱、焦燥、残虐、冷酷感など、様々な感情を引き起こし混乱させた。

「金の鬼……か」
 当主である左京ですら圧倒され、ただただその美しく冷酷で巨大な金色の鬼を眺めるしか出来なかった。生徒達に逃げるように指示することすら頭に浮かばなかった。
 鬼がその全身を露わにした時には、身体は道場の屋根を突き破り、怒りにまかせて建物の壁も床も全てを破壊し尽くそうとしていた。
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