土御門十二神〜赤の章〜

猫又

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土御門薔薇子

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 尊はそのまま痛む身体を引き摺って大学校舎から出た。
 如月の衝撃波は身体の表面の傷よりもその奥の神経系統まで痛む。
 傷が治っても、しくしくといつまでも神経が痛むような攻撃をするのだ。
 鬱々した気持ちで歩いていて、四天王を下ろされた今、何をしたらいいのだろうか、と考えていた。 
「尊先輩!」
 ばしっと背中を叩かれて、尊は前のめりにつんのめった。危うく転んでしまうのを必死で踏ん張ったせいで今度は筋を違えてしまったような痛みが背中に走る。
「だ、誰だ!」
 振り返ると日傘を差した薔薇子が立っていた。
 今日もふりふりの衣装だが黒を基調にしていて、美しい西洋人形のようだ。
「薔薇子」
「尊先輩、聞きましたわよ。四天王クビになりましたわね」
「早いな、今さっきの話なのに。弓弦から?」
「ううん、これですわ」
 と薔薇子が手に平に置いて差し出したのは小さな黒い端末のような物だった。
「何だこれ」
 薔薇子はうふふと笑って、
「如月様って霊能力値が高いからそちら方面の方は敏感なんですけどね。案外こういう機械には気がつきませんの、盗聴器ですわ」
「盗聴器!?」
「もちろん自治会室だけですわ。その場にいない人の陰口を言うのは人間の本能ですもの」
「それでさっきの会話も聞いたのか。そうだ、俺は四天王はクビだ。これから君たちは三羽烏と名乗るようだ」
「如月様ってそういうセンスゼロですわね」
 うふふと薔薇子が笑った。
「尊先輩、鬼を呼び戻すのは本当に危険なのでしょう?」
「まあな三の位の赤狼に言われた。鬼がその気になったら土御門の人間なんぞ一瞬で腹の中だそうだ」
「まあ、怖い。では如月様には鬼の使役は無理だという事ですわね?」
「ああ、無理だろうな、いくら霊能力が高いとはいっても、所詮人間さ。何百年も存在してきた仮にも神と名がつく式神相手に奸計など通用しないさ」
「そうですわね。では私も四天王は抜けさせていただきますわ」
「本当か?」
「ええ、実は人間の魂千個は揃いましたの。今頃部下が如月様に届けていますわ。それで私ももうお役御免させてもらいますわ。私、実を言うと土御門本家の地位には興味がありませんの。私は私の世界を持っておりますから」
 うふふとまた薔薇子は笑った。
 確かに、と尊は思った。薔薇子は先見の天才だ。それを卜いという職にしてすでに全国に信者を集めている。土御門から離れて独自で宗教法人を設立してもその才能と美貌で薔薇子は成功するだろう。
「そうか、その方がいい」
「尊先輩はこれからどうします?」
「うん、まあ、一応、桜子と赤狼の所へ報告に行くよ。如月様を説得するように言われてたからね。失敗に終わったと恥をさらしてくるしかない。それが済んだら土御門には居場所がなくなったから、学生の本分である勉強でもするさ」
 尊は薔薇子の視線の意味に対してふっと笑った。
「薔薇子、君も本物の式神に会ったら分かるさ。人間なんかが太刀打ち出来ない本物の恐怖。それを知るまでは俺だって野望はあったさ、桜子を利用して如月様を追い落とす夢も見た。だが、もう如月様云々じゃない。あの子に憑いてる式神は本物なんだ。その本物が止めるんだぞ? 鬼を呼び戻すなってな」
「じゃ、私も参りますわ」
「え?」
「私も見てみたいですわ。本物の式神とやらを、さ、参りましょう」
 薔薇子が日傘をふりふり中等部の校舎の方へ歩き出したので、尊は慌てて後を追った。
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