29 / 58
尊の目論見2
しおりを挟む
図書室の窓際でそんな考えに集中していた尊はガラッと開いたドアに驚いて振り返った。
「や、やあ君か」
制服姿のままの桜子が立っていた。
「お手伝いに……」
「ああ、待っていたよ」
猫なで声でそう言いながらにこやかな笑顔で近づいてくる尊を桜子は少々警戒した。
土御門でこんな風に優しく接された事は一度もない。
まだ全ての幼い頃は同世代の仲間とそれなりに仲良く遊んだりした事もあったが、能力が現れた者から順に離れていきそして最後の一人になった頃には誰も桜子に声をかけようとしなかった。五歳を過ぎて桜子は戦力外とされ、それから学園の寮に移るまでは一人ぼっちで過ごしてきた。広大な庭に漂う式神達でさえ同士でからまったり、実力を争ったりしているというのに桜子はそれを縁側で眺めながら孤独を噛みしめた。
「じゃあ、この段に巻物があるだろう? ずいぶんと古い物でね、修復が必要な物があると思うから選別してもらっていいかな? あ、手袋をはめてからね」
白い手袋を渡されて、桜子はそれを受け取った。
「全部、こっちの机で広げてみてくれるかい?」
「はい」
言われた通りに桜子は手袋をはめて巻物の棚に手を伸ばした。
尊は桜子の背中を見ながら、パソコンを起動した。
二百年前の再生の見鬼の名が桜姫だったなと思いだし、桜子との関連を考えた。
もしかして転生か? 確かにそれはあり得る。
自らの研究を自分のパソコンにデータ化している尊は再生の見鬼のページを読み出した。桜子の能力を見てから急いで作った項目で、古い文献から抜粋して記述した物だが、改めて読み直して尊の表情が変わった。
「桜姫と申す再生の見鬼、十二神の筆頭式神である日本狼の最後の長、赤い狼を眷属とし」 と書いてある。
「赤い狼……赤狼、そうか、人外の者であるあいつは十二神だったのか!」
やはりこいつは自分に運が向いてきたに違いない、と尊は思った。
それから十二神について書かれている書物を棚から取り出した。
今まで自分が十二神を使役する事には興味がなく、庭に遊んでいる式神を視ても研究対象にならなかったので無視していたのだが、桜子を手に入れればそれすら可能になる。
「闘鬼 青帝 赤狼 黒凱 白露 茶蜘蛛 水蛇 緑鼬 橙狐 紫亀 黄虎 銀猫、これが十二神と呼ばれる式神達か。如月様が是非使役したいと言う金の鬼の名は闘鬼と言うのか……赤狼は筆頭神三の位……かなりな実力者のようだ……紫亀? まさか……社会科の紫亀という教師? そういえば、昨日社会科準備室に桜子と赤狼と一緒にいたな……俺も中学部では教えてもらったがあの教師から妖気を感じた事はないぞ……それともうまく隠しているのか」
こいつは面白くなりそうだぞ、と尊は思った。
如月はもちろんだが、四天王の後の三人にも絶対に知らせてはならない。
力を持つのは自分だけでいい。
尊はにやにやと笑った。
「や、やあ君か」
制服姿のままの桜子が立っていた。
「お手伝いに……」
「ああ、待っていたよ」
猫なで声でそう言いながらにこやかな笑顔で近づいてくる尊を桜子は少々警戒した。
土御門でこんな風に優しく接された事は一度もない。
まだ全ての幼い頃は同世代の仲間とそれなりに仲良く遊んだりした事もあったが、能力が現れた者から順に離れていきそして最後の一人になった頃には誰も桜子に声をかけようとしなかった。五歳を過ぎて桜子は戦力外とされ、それから学園の寮に移るまでは一人ぼっちで過ごしてきた。広大な庭に漂う式神達でさえ同士でからまったり、実力を争ったりしているというのに桜子はそれを縁側で眺めながら孤独を噛みしめた。
「じゃあ、この段に巻物があるだろう? ずいぶんと古い物でね、修復が必要な物があると思うから選別してもらっていいかな? あ、手袋をはめてからね」
白い手袋を渡されて、桜子はそれを受け取った。
「全部、こっちの机で広げてみてくれるかい?」
「はい」
言われた通りに桜子は手袋をはめて巻物の棚に手を伸ばした。
尊は桜子の背中を見ながら、パソコンを起動した。
二百年前の再生の見鬼の名が桜姫だったなと思いだし、桜子との関連を考えた。
もしかして転生か? 確かにそれはあり得る。
自らの研究を自分のパソコンにデータ化している尊は再生の見鬼のページを読み出した。桜子の能力を見てから急いで作った項目で、古い文献から抜粋して記述した物だが、改めて読み直して尊の表情が変わった。
「桜姫と申す再生の見鬼、十二神の筆頭式神である日本狼の最後の長、赤い狼を眷属とし」 と書いてある。
「赤い狼……赤狼、そうか、人外の者であるあいつは十二神だったのか!」
やはりこいつは自分に運が向いてきたに違いない、と尊は思った。
それから十二神について書かれている書物を棚から取り出した。
今まで自分が十二神を使役する事には興味がなく、庭に遊んでいる式神を視ても研究対象にならなかったので無視していたのだが、桜子を手に入れればそれすら可能になる。
「闘鬼 青帝 赤狼 黒凱 白露 茶蜘蛛 水蛇 緑鼬 橙狐 紫亀 黄虎 銀猫、これが十二神と呼ばれる式神達か。如月様が是非使役したいと言う金の鬼の名は闘鬼と言うのか……赤狼は筆頭神三の位……かなりな実力者のようだ……紫亀? まさか……社会科の紫亀という教師? そういえば、昨日社会科準備室に桜子と赤狼と一緒にいたな……俺も中学部では教えてもらったがあの教師から妖気を感じた事はないぞ……それともうまく隠しているのか」
こいつは面白くなりそうだぞ、と尊は思った。
如月はもちろんだが、四天王の後の三人にも絶対に知らせてはならない。
力を持つのは自分だけでいい。
尊はにやにやと笑った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる