27 / 58
式神の契約
しおりを挟む
「何だ、あいつ。偉そうだな」
修司達を追い出した赤狼がまたソファに寝そべりながら言った。
「尊さんは四天王よ」
と言った桜子の言葉に赤狼がぶはっと吹き出した。
「四天王? かっけー、ケケケっておい、桜子、あいつの手伝いに行くってどういう事だ」
「図書館っていうのは土御門会館ってところにあって、その会館は……」
と言いかける桜子に赤狼は、
「知ってるさ」
と言った。
「え?」
「懐かしいな~ずいぶんと様子も見に行ってないなぁ」
と紫亀も言った。
「知ってるの?」
「そりゃ、そうさ。俺達は何百年もの間、土御門の十二神なんだぜ? 何十人も当主を見て来た。気に入った当主を我が主として迎えた時は本家の庭でたむろってたしな。だから土御門の事は隅から隅まで知ってる。とはいえ、まあ屋敷や会館は建て直してずいぶんと近代的になってるだろうけどな」
と言って赤狼が優しく笑った。
「じゃあ、私が小さい頃、本家で住んでた時もいたの?」
と桜子が聞くと、
「わしはおったでぇ」
と紫亀が答えた。
「え、本当ですか? 紫亀先生」
「おお、桜子ちゃんの事は産まれた時から知ってる。可愛らしい赤ん坊を両親が連れて当主に挨拶に来てたわ」
「そうなんですか。赤狼君も?」
「俺は……」
と言って赤狼は言葉を切った。
「寝てたから、知らない」
「へ、寝てたの?」
「そう、俺、近年は当主についたことねえし。庭に住んでたのは二百年も昔だからな」
「そうなんだ」
赤狼の表情が優しく桜子を見た。
「そんな事より、本家には近寄るな。どうせいいようにこき使われるだけだぞ」
「でも何か分かるかも、佐山先生の事とか。ずっと意識不明なんでしょう?」
「放って置くという手もあるんだぜ?」
「え?」
「関わり合いになるとそれなりに代償をはらう事になる。土御門を出て自由になりたいと思ってるんだろう? それなら放っておくべきだ。今関わると土御門から逃げられなくなるぞ」
「それは……」
土御門一族は霊能力だけが存在の価値であり、さらに能力が高ければ高いほど良い、という家風である。霊能力の開かない桜子は早めに一族を出られたが、もし今、再生の見鬼という能力を知られてしまえば桜子はその一生を土御門に捧げなければならなくなるだろうという事実を赤狼は突きつけた。
「本家へ出入りするようになれば必ずその能力を知られる事になるわなぁ。今、現在、本家には有力な再生の見鬼は存在せんからな。一度ばれてしもうたら、もう二度と本家から出られへんのやで」
と紫亀も言った。
桜子は唇を尖らせて「うーん」と言いながら頭をかいた。
「でも……佐山先生の事が気になるから様子を探るだけでも……」
赤狼は腕組みをして若干桜子を睨みつけるような目で見た。
「赤狼、言うことをきかへん人やって知ってるんやろ。反対しても無駄やで」
と紫亀が言った。
「前にもそれで苦労したんや……」
「うるせえ!」
と赤狼が怒鳴ったので、桜子はびっくりして目を大きく見開いた。
「あの、前にもって? 言うことをきかない人って誰の事?」
「あんたや、桜子ちゃん。あんたは桜姫の生まれ変わりやからなぁ」
と紫亀が言った。
「桜姫?」
「そうや、もう二百年も前や人間はちょんまげで刀を差してた時代や」
「二百年前って江戸時代でしょう?」
「そうや、その頃はまだ安倍家やった。安倍の陰陽師はいつの時代も政界で要職についててな。あんたはその安倍家に生まれたお姫様やった」
「そんな話はもういい。昔の事だ」
と赤狼が言った。
「そやな……まあ、わしらはやっぱり安倍家の式神でな、赤狼は桜姫様の護衛についてたんや」
「私がその姫様の生まれ変わり?」
時代劇で観る姫様の衣装を頭の中に思い描いて、桜子はふふっと笑った。
おしとやかで奥ゆかしい女子だったに違いない。
「そうや。まあ、なんちゅうか……ちっとも言うことを聞けへん姫やったなぁ。きかん気が強うて、なんちゅうか……びっくりするほど」
「び、びっくするほど? そんなにお転婆な?」
「びっくりするほど可愛らしい姫さんやったわ。なあ、赤狼」
「え」
「二百年も前だぞ。忘れたに決まってるだろうが」
と赤狼が言って、寝転んでいた体勢から身体を起こした。
「昔話はもういいだろ。それよりも本気で土御門に探りに行くなら今一度主従の契約をする」
「主従の契約?」
「そうだ、桜子、左手の小指を出せ」
桜子は言われた通りに左手を赤狼の方へ差し出した。
赤狼はその手を掴むと自分の口元へ引き寄せ、桜子の小指を噛んだ。
「痛っ! ちょ、痛いじゃん」
痛いはずだ。小指は赤狼の歯で噛み裂かれ傷口から血が滲んできた。
赤い血の球は大きくなり、やがてその重みに耐えきれず流れた。
赤狼がその傷口から流れ出る血液を舐めた。
次の瞬間に赤狼の姿は真っ赤な狼に変化し、
「我の命か桜子の命がつきるまで、我は桜子の式として守護する事を誓おう。もし誓いが破られた時は、我の身体に入った桜子の血が毒となりて、我を殺すだろう」
と言った。
「へ、ちょっと、そんな物騒な」
と桜子は言ったがその台詞をどこかで聞いた事があるような気がした。
目の前の大きな真っ赤な狼の瞳は優しく、桜子はその毛皮に触れてみた。
「ふわっふわだわ」
赤い狼が首筋を自分の腕にこするつけるような動作をしたので、桜子はそのもふもふの毛皮を撫でた。
「まあ、これで安心や。桜子ちゃんは土御門に行っても赤狼に守られてるからな。でも気をつけるんやで。次代の如月はちょっと変わった人間みたいやからな」
「はい」
修司達を追い出した赤狼がまたソファに寝そべりながら言った。
「尊さんは四天王よ」
と言った桜子の言葉に赤狼がぶはっと吹き出した。
「四天王? かっけー、ケケケっておい、桜子、あいつの手伝いに行くってどういう事だ」
「図書館っていうのは土御門会館ってところにあって、その会館は……」
と言いかける桜子に赤狼は、
「知ってるさ」
と言った。
「え?」
「懐かしいな~ずいぶんと様子も見に行ってないなぁ」
と紫亀も言った。
「知ってるの?」
「そりゃ、そうさ。俺達は何百年もの間、土御門の十二神なんだぜ? 何十人も当主を見て来た。気に入った当主を我が主として迎えた時は本家の庭でたむろってたしな。だから土御門の事は隅から隅まで知ってる。とはいえ、まあ屋敷や会館は建て直してずいぶんと近代的になってるだろうけどな」
と言って赤狼が優しく笑った。
「じゃあ、私が小さい頃、本家で住んでた時もいたの?」
と桜子が聞くと、
「わしはおったでぇ」
と紫亀が答えた。
「え、本当ですか? 紫亀先生」
「おお、桜子ちゃんの事は産まれた時から知ってる。可愛らしい赤ん坊を両親が連れて当主に挨拶に来てたわ」
「そうなんですか。赤狼君も?」
「俺は……」
と言って赤狼は言葉を切った。
「寝てたから、知らない」
「へ、寝てたの?」
「そう、俺、近年は当主についたことねえし。庭に住んでたのは二百年も昔だからな」
「そうなんだ」
赤狼の表情が優しく桜子を見た。
「そんな事より、本家には近寄るな。どうせいいようにこき使われるだけだぞ」
「でも何か分かるかも、佐山先生の事とか。ずっと意識不明なんでしょう?」
「放って置くという手もあるんだぜ?」
「え?」
「関わり合いになるとそれなりに代償をはらう事になる。土御門を出て自由になりたいと思ってるんだろう? それなら放っておくべきだ。今関わると土御門から逃げられなくなるぞ」
「それは……」
土御門一族は霊能力だけが存在の価値であり、さらに能力が高ければ高いほど良い、という家風である。霊能力の開かない桜子は早めに一族を出られたが、もし今、再生の見鬼という能力を知られてしまえば桜子はその一生を土御門に捧げなければならなくなるだろうという事実を赤狼は突きつけた。
「本家へ出入りするようになれば必ずその能力を知られる事になるわなぁ。今、現在、本家には有力な再生の見鬼は存在せんからな。一度ばれてしもうたら、もう二度と本家から出られへんのやで」
と紫亀も言った。
桜子は唇を尖らせて「うーん」と言いながら頭をかいた。
「でも……佐山先生の事が気になるから様子を探るだけでも……」
赤狼は腕組みをして若干桜子を睨みつけるような目で見た。
「赤狼、言うことをきかへん人やって知ってるんやろ。反対しても無駄やで」
と紫亀が言った。
「前にもそれで苦労したんや……」
「うるせえ!」
と赤狼が怒鳴ったので、桜子はびっくりして目を大きく見開いた。
「あの、前にもって? 言うことをきかない人って誰の事?」
「あんたや、桜子ちゃん。あんたは桜姫の生まれ変わりやからなぁ」
と紫亀が言った。
「桜姫?」
「そうや、もう二百年も前や人間はちょんまげで刀を差してた時代や」
「二百年前って江戸時代でしょう?」
「そうや、その頃はまだ安倍家やった。安倍の陰陽師はいつの時代も政界で要職についててな。あんたはその安倍家に生まれたお姫様やった」
「そんな話はもういい。昔の事だ」
と赤狼が言った。
「そやな……まあ、わしらはやっぱり安倍家の式神でな、赤狼は桜姫様の護衛についてたんや」
「私がその姫様の生まれ変わり?」
時代劇で観る姫様の衣装を頭の中に思い描いて、桜子はふふっと笑った。
おしとやかで奥ゆかしい女子だったに違いない。
「そうや。まあ、なんちゅうか……ちっとも言うことを聞けへん姫やったなぁ。きかん気が強うて、なんちゅうか……びっくりするほど」
「び、びっくするほど? そんなにお転婆な?」
「びっくりするほど可愛らしい姫さんやったわ。なあ、赤狼」
「え」
「二百年も前だぞ。忘れたに決まってるだろうが」
と赤狼が言って、寝転んでいた体勢から身体を起こした。
「昔話はもういいだろ。それよりも本気で土御門に探りに行くなら今一度主従の契約をする」
「主従の契約?」
「そうだ、桜子、左手の小指を出せ」
桜子は言われた通りに左手を赤狼の方へ差し出した。
赤狼はその手を掴むと自分の口元へ引き寄せ、桜子の小指を噛んだ。
「痛っ! ちょ、痛いじゃん」
痛いはずだ。小指は赤狼の歯で噛み裂かれ傷口から血が滲んできた。
赤い血の球は大きくなり、やがてその重みに耐えきれず流れた。
赤狼がその傷口から流れ出る血液を舐めた。
次の瞬間に赤狼の姿は真っ赤な狼に変化し、
「我の命か桜子の命がつきるまで、我は桜子の式として守護する事を誓おう。もし誓いが破られた時は、我の身体に入った桜子の血が毒となりて、我を殺すだろう」
と言った。
「へ、ちょっと、そんな物騒な」
と桜子は言ったがその台詞をどこかで聞いた事があるような気がした。
目の前の大きな真っ赤な狼の瞳は優しく、桜子はその毛皮に触れてみた。
「ふわっふわだわ」
赤い狼が首筋を自分の腕にこするつけるような動作をしたので、桜子はそのもふもふの毛皮を撫でた。
「まあ、これで安心や。桜子ちゃんは土御門に行っても赤狼に守られてるからな。でも気をつけるんやで。次代の如月はちょっと変わった人間みたいやからな」
「はい」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
俺の知らない大和撫子
葉泉 大和
キャラ文芸
松城高校二年三組に在籍する諏訪悠陽は、隣の席にいる更科茉莉のことを何も知らない。
何故なら、彼女は今年の四月に松城高校に転入して来たからだ。
長く綺麗な黒髪で、まるで大和撫子が現代に飛び出したような容姿をしている茉莉は、その美貌も重なって、瞬く間に学校中の人気者になった。
そんな彼女のせいで、悠陽の周りは騒がしくなってしまい、平穏な学校生活を送ることが出来なくなっていた。
しかし、茉莉が松城高校に転入してから三週間ほどが経った頃、あることをきっかけに、悠陽は茉莉の秘密を知ってしまう。
その秘密は、大和撫子のようなお淑やかな彼女からは想像が出来ないもので、彼女の与えるイメージとは全くかけ離れたものだった。
そして、その秘密のせいで更に悠陽は厄介事に巻き込まれることになり……?
(※こちらの作品は小説家になろう様にて同時連載をしております)
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる