土御門十二神〜赤の章〜

猫又

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邪悪な妖気

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 いつもはのそのそとした動きなのだがこの時は軽快な動作だったので修司は目を丸くした。  
 ドアの後には尊が立っていた。
「あ、尊先輩……」
「修司、如月様がお待ちだぞ。力尽くでもさっさとその男を連れて行け」
 と尊が言った。
「あ、はい。いや、しかし」
 と修司は口よどむ。
 尊は一歩社会科準備室に入り、赤狼を見て目を見開いた。
「確かに……霊的能力値がもの凄く高いな。人外の者というのは本当だろう」
「何だ。今度はお前が相手か?」
 赤狼が尊を睨みつける。
「いや、俺は研究専門で戦いには興味がない。俺が用があるのは土御門桜子だ」
 と尊が桜子を見た。
「え?」
 と桜子が言った。
「土御門桜子、今日から俺の部下となり仕事を手伝え」
「はあ? ふざけんな、てめえ」
 と言ったのは赤狼だった。
 その瞬間にも尊は赤狼からの酷い攻撃波を受けて一瞬身体をすくめた。
 尊はこれほどの濃い妖気に触れたのは初めてだった。
 土御門の現当主やさらにすでにそれを超えていると言われている如月よりも危険で邪悪な妖気。
 尊は赤狼を見た。
 人間に化けているその下の正体はとてもでないが見抜く事も出来ない。
 尊は肌がちりちりと痛んだ。
 抗えばすぐに自分を頭からぼりぼりと喰ってしまうだろう。
(どうする……こいつは危険だ。俺の能力ではとても太刀打ち出来ない。弓弦か薔薇子……いや、如月様でも……)
「尊さん、あなたの部下になって仕事を手伝うってどういう事ですか?」
 と桜子が立ち上がってから聞いた。
 尊はほっとしたように桜子を見た。
 一瞬、桜子に気を取られて赤狼の妖気が引っ込んだからだ。 
「お、俺は陰陽師というよりも研究職の方が専門でな。古くからの術を調べたり、ぼろぼろになってしまっている文献の修復をしたり、そんな仕事をしている。で、君は土御門では能力が開花せずに戦力外の通知を受けたけれども、そういう分野なら霊能力は関係ない。生まれて育った土御門の為に君も何かしらの任務につくべきだ」
「はあ……」
「君に難しい事をやれとは言わない。ただ土御門会館にある図書館で書類や文献の整理の手伝いをして欲しいだけだ」
「分かりました……」
「待て! 何で桜子がそんな事を……」
 と不服を唱えた赤狼に桜子が、
「いいじゃないの。生まれて育ててもらったのは確かだし」
 と言った。
「内緒だが、バイト代も出るぞ」
「本当ですか? じゃ、行きます!」
「そうか、それは助かるよ」
 と尊は快活に笑ってみせた。
「あ、明日からで構わないから、放課後、土御門会館の図書館まで来てくれるかな」
「はい」
「じゃあ、先生、お邪魔しました」
「おう」
 と紫亀が答え、尊はすぐに社会科準備室から出た。
 廊下に出た時に初めて尊は手に汗を握っている自分に気がついた。脇の下も背中も汗をかいている。
(何だこの緊張は……あの赤狼という男……何者だ。川姫もその名前に聞き覚えがあると言っていたな、調べてみるか)
 去って行こうとした瞬間に背後の扉がまた開き、
「こいつらも連れて帰れ!」
 と修司達が社会科準備室から放り出された。
「尊先輩……」
 修司は真っ青で泣きそうな声で尊にすがりつく。
「仕方ないな。今日のところは引け。如月様には俺が報告しておこう」 
「はい……」
 今日のところも何も、二度と嫌だとばかりに修司達はその場から這うように逃げ去った。
 そして尊も社会科準備室に背を向けて歩き出したが、背中に突き刺さる視線を感じていた。身体に突き刺さり尊の腹を破って突き抜けていきそうなほどの強烈な視線。
(凄いな……あの男、あれほどの妖気、正体が何者でも味方につけたい。そして桜子、絶対に俺のものにするぞ。めったに生まれない、純粋に再生にだけ特化した見鬼。桜子の能力があれば、霊能力的に如月様に劣るこの俺でも上位に立てる。次代とはいえ能力を上回ればその地位を奪うのは可能だ)
 
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