土御門十二神〜赤の章〜

猫又

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お茶会ですけど。

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 その時、
「ここだ!」
 と声がしてばたばたと足音が聞こえてきたと同時に社会科準備室のドアがすっと開いた。
「ここに感じるぞ!」
「何や! やかましい!」
 と紫亀が怒鳴ったが、数人の生徒達がどやどやと入室してきた。
「お前が転校生の赤狼だな」
 先頭の修司が赤狼を指した。
 赤狼はちらっと修司を始めとする土御門の若い陰陽師達を見たが、何の表情も現さずにふんと横を向いた。
「土御門桜子、お前はここで何をしている?」
 赤狼の隣に座っていた桜子を修司が責めるような口調で問う。
「え、何ってお茶会ですけど」
 空になったケーキのパッケージと空になった紙コップを目で指して桜子が答えた。
「赤狼、お前は如月様の再三の招集を無視して茶会か!」
 と言った瞬間に赤狼の身体が素早く動き、修司の腹に思い切り拳を入れた。
「グハッ」と嗚咽を吐き、修司の身体が崩れ落ち膝をついた。
「うるせー。気安く人の名前を呼ぶんじゃねーよ。殺すぞ」
「ちょ、赤狼君!」
 桜子も慌てて立ち上がって、赤狼の腕を押さえた。
「……お前は何者なんだ?」
 横幅で言えば修司は赤狼の三倍はあるがそれでも赤狼を正面から見据える度胸は沸かなかった。それは今、腹を殴られたという腕力の問題だけではなく、それと同時に圧倒的な力を赤狼から感じたからだ。どうしても伏し目がちになる。
「何者、何者、うるせえよ。クソ雑魚ども。如月に言っとけ。用があるなら出向いて来い。その勇気があるならよ」
 赤狼が乱暴な言葉で言い放った。
 如月の機嫌を損ねるのは怖い。だが目の前の男にもかないそうにないと感じた修司は困ってしまった。高等部総括など身体が大きいからというだけで任命されただけで、能力を発揮することもなくただの雑用係だ、と修司は思った。
 だが赤狼を連れて行かなければ、如月に酷く叱られるのは修司だった。
 同級の者や下級生の前でもこき下ろされるのは耐えられない。
「まあそう険悪になるな。土御門の高等部のもんか。赤狼も落ち着け」
 と紫亀が仲裁に入った。
 「先生」
 と修司がほっとしたような顔をした。
「赤狼は土御門とは関係ないで。なんで大学部の如月が中等部の生徒を呼び出すんや?」
「そ、それは、僕たちには分かりません」
 と修司は言った。
 面白い先生と評判の紫亀がまさか式神の化身とは露にも思っていない修司は頭をかいた。
「ぼ、僕は如月様に言いつかっただけで……」
 と修司が言った。紫亀の前で霊能力の話をするのは避けたかった。
「お前ら、如月がやってる事を知ってんのか? 知ってて黙って見てんのか?」
 と赤狼が膝をついた修司を見下ろしながら言った。
「そ、それは……?」
 修司は肩で息をしながら立ち上がったが少し不安そうな顔をした。
 自分が何か見落としている事があるのだろうかという不安と、失敗は如月に叱責を受けるという恐怖の顔だった。
「下っ端には教えんやろう。歴代の当主はたいがいそうやが、如月は群を抜いてワンマンやで」
 と紫亀が言ったので、修司は紫亀を驚いたような顔で見た。
「如月様には如月様のお考えが……土御門には背負った宿命が……」
 修司はとりあえずそういう決まり切った台詞を言ったが、宿命とは何かと問われても答える事は出来なかった。
「次期当主はクソだな」
 と赤狼に言われて修司は唇を噛みしめた。
「赤狼君、修司先輩に言っても仕方がないわ。次代様の言葉は絶対だもの」
 と桜子が言ったところで、
「またお客さんやで」
 紫亀が立ち上がってドアまで行き、さっとドアを開いた。 
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