土御門十二神〜赤の章〜

猫又

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桜姫

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「あの……紫亀先生も十二神なんですか?」
 と桜子が聞いた。
 紫亀は赤狼を見てから桜子に笑いかけた。
「そうや。わしも十二式神のうちの一神や。でもなぁ、もう十二神の存在が意味のないもんや」
「何故ですか? 土御門の十二式神といえば……」
「と言えば?」
 と赤狼が茶化すように聞いたので、
「十二神といえば……何だろう。ごめんなさい、実はあんまり知らなくて。でも土御門では力のある式神を使役できるような能力者になるのが誉れと聞いた事があるわ。土御門には百もの式神がいるけれど、トップの十二神はそれはもう、素晴らしく美しく賢く力強いと聞いた事があるし」
 と言った。
「まあ、そんな時代もあったわな。古き良き時代や。わしらも心の通じたええ主について悪妖と戦こうたもんや。遠い昔には九尾の姐さんともやったで」
 と紫亀が言い笑った。
「きゅ、九尾って……平安時代ですよね」
「亀は万年やからな。無駄に長生きしてるんや」
「今は土御門の中に主がいないんですか? 現当主の左京様と時代の如月様には式神がついている優秀な陰陽師だと聞いてますけど」
 赤狼がふっと笑って、紫亀も頭をぽりぽりとかいた。
「まあ、百神もおりゃあ中には当主の機嫌取りするやつもおる。実力はなくても当主に気に入られたら使うてもらえるからな。ピンからキリまでおるうちのキリの式神でもな。土御門神道は陰陽寮の機関が閉鎖されてからは一族内での争いの方が多かった。政治経済に乗り出し、日本というこの大地に土御門の根を下ろすことばかりに必死や。誰が土御門を継ぐか、その争いばかりいなってな。そこに式神は必要なんや。式神憑きの陰陽師は対外的に格好がええからな。わしらはそこで下りたんや。そやからもう何十年もわしらは野良神や」
「野良?」
「そうや、わしらには選択の自由がある。気に入った当主、いや、当主でなくてもええんや。気に入った人間を主として仕えるのが一番ええんやけどな……特に赤狼は選り好みが激しいからな、ずっと野良神や。わしらが働いてても野良してる方が多いんやで、こいつ。筆頭神三の位のくせに」
 桜子は赤狼を見た。        
「じゃあ、今の御当主には仕える気がないの? 赤狼君」
「ねえよ。面倒くせえ」
「赤狼は桜子ちゃん一筋やもんなぁ」
 紫亀の言葉に桜子が首をかしげる。
「どういう意味ですか?」
「つまんねえ事言うな、亀」
 と赤狼が言った。
「ははは、そうやな。ほな、桜子ちゃん、このプリントを教室で配っといてくれるか」
 紫亀は分厚いプリントの束をばさっと桜子に方に差し出した。
「先生、ちょっと遅れていくよってな。このプリントやっとくようにな」
「あ、はい」
 桜子は立ち上がりそれを受け取ると、
「じゃあ、失礼します。赤狼君、授業受けないの?」
 と赤狼に言った。
「今日は欠席です」
 と赤狼は答え、空いたソファにまたどさっと寝転んだ。
「え~」
 と言いながら桜子はプリントを抱えて社会科準備室を出て行った。
「可愛いな~桜子ちゃん。生まれ変わっても美人の桜姫様のままやな」
 と紫亀が言ったが、赤狼は目をつぶって寝そべったままだった。
 
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